【更新停止中】謀略のシャーロット 〜幼妻は呪われた第2皇子を皇帝にしたい〜

七瀬菜々

文字の大きさ
上 下
7 / 58
決断の日

6:ギルベルトの妻(2)

しおりを挟む
「な、なにすんだよっ!つか、いつの間に隣に来たんだよ!?」

   ギルベルトは顔を真っ赤に染め上げてソファから飛び上がると、窓際の方に逃げてシャーロットと物理的に距離をとった。
 その反応があまりにも初心なものだから、シャーロットは思わず吹き出してしまう。

「ふふっ。違ったか?やたらと見つめてくるから、強請られているのかと思ったのだが」
「強請ってねーよっ!」
「そうか、間違えてしまったか。それはすまない」
「すまないで済むか!」
「済むだろう?夫婦なのだから」

 シャーロットは唇の端をぺろりと舐めると妖艶に微笑んだ。とても十三の小娘がする表情ではない。

「…お前、歳を誤魔化しているだろう?」
「それは大人っぽいという意味か?」
「老けているという意味だ」
「同じではないか。それを言うなら其方こそ一体幾つなんだ?キスひとつでそんなに赤くなるなんて」
「う、うるせぇ!!」

 ギルベルトの反応は童貞そのものである。
 シャーロットは『可愛い』と呟くとまたソファから立ち上がり、彼の方に爪先を向けた。
 そして左側から回り込み、一気に間合いを詰める。

「…なっ!?」

 瞬きをする間の一瞬のうちに、再び自分の左横に現れた彼女に、ギルベルトは腰をぬかせて尻餅をついた。  
 シャーロットはそんな彼と同じ目線になるように膝をつくと、彼の前髪をそっとあげる。
 そこにあるのは左目を覆うようにして残る火傷の痕と、スカイブルーの瞳。
 シャーロットはその彼の瞳をじっと覗き込み、小さくため息をこぼした。
 
「…やはり、か」
「なんだよ!?いきなり!」
「確かめたかっただけだ」
「何を!?」
「これだよ。これ」

 そういうと、シャーロットは左瞼にそっとキスを落とす。
 
「…見えていないな?」

 悲痛な表情でそう問うてくる彼女に、ギルベルトは気まずそうに顔を逸らせた。

「…まあな」
「いつからだ?」
「お前には…、関係ないだろう…」
「関係ある。其方のことを知ることは私にとって最も重要なことだ」

 ギルベルトは顔を伏せ、口をつぐんだ。
 すると、シャーロットは彼の頭を優しく撫でる。

「…片目が見えていないということは、これから先、私と公の場に出る時には必ず私のフォローが必要になるということだ」
「俺が公の場に出ることはないから安心しろ。今まで俺は数える程度しか公式的な場に出席していない」
「今まではそうだろうな」
「…お前には悪いとは思うよ。でも、俺の妻となるのならばお前も夜会などには出席できないと思ってくれ」

 きっとこの幼妻は、年齢的に社交界デビューもまだだろう。
 こんな場所に来る事がなければ、来年には華やかなデビューを飾っていた。
 けれど、ギルベルトの妻である以上、一生この宮で過ごすことを余儀なくされる。
 ここから出ることは許されない。

(…ほんと、なんで俺なんかを選んだんだよ)

 頭部に乗せられたシャーロットの手が、小さいくせに暖かくて優しく感じたせいだろうか。
 気がつけば、ギルベルトは彼女に頭を下げていた。

「…悪いな」
「なぜ謝る?」
「俺に嫁いだせいで、お前は華やかな場所に出ることはできない…」
「いや、出るぞ?」
「…無理だ。お前の言う通り、俺に皇帝や兄皇子たちに逆らう力なんてない。だから、彼らが来るなと言えば行けないんだ」

 今日だって、来るなと言われたから嫁いできた妻を広間で出迎えることができなかった。
 それを悔しいとすら思わない。それくらいに彼は長い間虐げられてきた。
 シャーロットは自嘲気味に笑みを浮かべるだけで、ずっと顔を伏せたままのギルベルトの頬に手を添えると、無理やりに顔を上げさせた。

「ならば、これから力をつければいい」

 自信満々に、さも『お前にはそれができる』と言わんばかりに強く言い切るシャーロット。
 その強い眼差しに、ギルベルトは目を丸くした。

「ハハッ。何を言って…」
「無理に決まってるって、そう思っているのか?」
「当たり前だろう」
「やってみなければわからないじゃないか。反抗してやるんだよ」

 シャーロットはゆっくりと立ち上がると仁王立ちになった。
 そして、強気に笑う。

「お前がこの国で最も力を持つ男になること、それこそが私の目的だ」

 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

処理中です...