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しおりを挟むエドワードは、彼女が今日は何故ここまで食い下がるのか、ずっと不思議だった。
だが、ここまでの話で合点がいった。
アメリアは今日でこの関係も、ずっと続けてきた婚約破棄の話も終わりにしようとしているのだ。
彼女が望む結末はひとつ。その望みを叶えてやれるのは自分だけ。それはわかっているのに…。
「…ダメだ。婚約は破棄しない」
震える声でエドワードは言葉を絞り出した。
「殿下は私の幸せを願ってはくださらないのですか?私は幸せな結婚がしたいです」
「……婚約は、破棄しない」
「殿下のお相手に、私はやはり分不相応です。だから何度も婚約を破棄しようと申し上げてきました。私は殿下にも幸せになって欲しいのです」
「俺は!幸せになりたいから、お前と婚約した!」
エドワードは珍しく声を荒げた。
そう、幸せになりたいから婚約したのだ。自分のためだけに強引に、無理矢理に…。
アメリアは困ったように笑う。
「しかし、私は恐らく貴方に恋をする事はありません。一生」
それは、アメリアの望む『想い想われる結婚』が、二人の関係ではどうあがいても実現しないことを意味する。
別に彼女はエドワードを恨んでいるわけではない。
実の両親とは引き離されたが、会えなくなったわけではないし、侯爵家では沢山愛情を注いでもらった。
アメリアの人生は幸せだったし、エドワードとの関係も楽しいことの方が多かった。
長い婚約期間で育まれた彼への愛情も嘘ではないし、彼からの愛情も嘘ではない。
今は幸せなのだから過去を気にする必要なはい、とそう思えたなら結末は違っていたのだろう。
だが彼女にとって、彼のとった手は卑劣極まりないもので、どうしても割り切ることが出来ないのだ。
それこそ一生。
「それでもダメだ」
「そうですか」
「俺たちの婚約は王命だ」
「そうですね」
「お前は従うしかない」
「そうですね、それが身分差というものです」
その言葉に、エドワードは胸が押しつぶされそうになった。
しかし、これは因果応報。自分で蒔いた種。
彼に傷つく権利などない。
当たり前だ。それだけの事をしたのだから。
エドワードは今は想いが届かずとも、長く一緒にいればいつかは必ず想いが通じると思っていた。そして、彼女も自分に想いを返し、愛し愛される未来がいつかは来ると思っていた。
(…『いつか』なんて来ないのに)
エドワードはアメリアの前に立ち、そしてゆっくりと跪き、彼女の手を取る。
「アメリア・サザーランド侯爵令嬢。私、エドワード・ハインリヒ・エフェニアは貴女を妃に望みます。どうか、貴女を幸せにする権利を私にいただけないだろうか」
金髪碧眼の美しい王子様からの求婚。
女にとって、これ程嬉しいものはない。
しかしアメリアはまた、困ったように笑い、そして頷く。
「王命ですからね。仕方がありません、結婚しましょう」
エドワードは小さく、ありがとう、と呟いた。
***
とある小国の王、エドワードは稀代の賢君として即位後、民のために革新的な政策を次々と打ち出した。
貴族は民のためにあるべきとし、民のために身を後にして働いた。
彼の一番初めの改革は、婚姻に関することだった。
彼は即位後すぐ、婚約できる年齢を15と定めた。
その他、本人の意思によらない婚約は異議申し立てをすれば破棄できる事などのルールを設けた。
この政策はまるで彼の贖罪のように、強引に推し進められたそうだ。
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一気読みしちゃいました❣️(´>∀<`)ゝアメリは、複雑な心境よね。エド様の重ーい愛情の為に、若紫の様に扱われて愛情たっぷり一途に注がれて来ましたからね……。エド様は、全て知られていた事にショック受けつつもアメリを手放したくはないからゴリ押しで捕まえてしまいましたね……。その罪滅ぼしに、法改正を致しましたという事だけど💦その後、エド様は尻に敷かれつつもひたすら愛情たっぷり振りまいたのでしょうね……。(;´∀`)リズとランのテオ殿の争奪戦を穏やかにしたようなストーリーですよね❣️( *^艸^)))