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 王太子エドワードと侯爵令嬢アメリアは幼い頃から婚約者として共に歩んできた。 
 それはもう戦友のように。 
 面倒なお茶会も二人揃えば楽しかった。
 夜会で見世物のように踊らねばならないダンスも、互いが相手だと苦ではなかった。
 時には互いの存在を利用し、言い寄ってくる異性を躱したりもした。

 エドワードはアメリアを、花を愛でるように優しく、それはとても大切に接してきた。
 アメリアはそんな彼を本当の兄のように慕った。
 しかしアメリアは、まるで兄妹のように育ってきた幼馴染に対して恋愛感情を抱く事なく、二人は間も無く成人を迎えようとしている。

「殿下。私たちは間も無く成人を迎えます。」
「そうだな」
「成人すればすぐに婚姻の話が進みます。もちろん、この婚姻は王侯貴族としての義務です。国のため民のため、我がサザーランド侯爵家と王家のつながりをより強固なものにする必要があります」
「そうだな」
「私は今まで別にそれで良いと思っていました」
「俺もそうだ」
「しかしです!此度私達は出会ってしまったのです!運命の相手に!このチャンスを逃すわけにはまいりませんわ!」 

 アメリアは突然立ち上がり拳を天へ突き上げる。
 エドワードは意気揚々と宣言する婚約者に、元気だなぁと感心しながら紅茶を啜る。
 そして何かに気づいたように、ハッとする。

「ん!?」
「ん?」
「この茶葉、美味いな」
「でしょう!?帝国の東部の名産なのだそうです!お父様が、最近ローズ商会で取り寄せたそうで」
「流石は茶狂いの侯爵だ。素晴らしい」
「宜しければ後で包みますわ」 
「それは有難い」
「あ、宜しければこちらのフィナンシェも召し上がりませんか?この茶葉と良く合うのです!」
「そうか、では頂こう」

 そう言って、2人は『茶狂いの侯爵オススメ』の紅茶とお菓子を味わい、優雅な時を過ごす。
 暫しの静寂。先程までの忙しない雰囲気とは打って変わって、ゆったりとした貴族のティータイムらしい時間が流れる。
 これこそエドワードが求めていた、婚約者との逢瀬。

 しかし、その時間は何かを思い出したアメリアにより、アッサリ破られた。

「…って、違いますわ!そういう話をしていたのではありません!」 
「チッ、ダメか」

 エドワードの策略虚しく、アメリアは話を逸らされてくれない。

「婚約破棄だろ?俺は別に婚姻相手がアメリアでも問題ないぞ?」  

 エドワードは小さくため息をつきながら、現状維持を提案する。しかし、

「殿下!諦めてはいけません。お優しい殿下は今まで想い人が出来ても、相手のいない私を慮って一歩踏み出すことができませんでしたでしょう?」
「その想い人相手に、一歩踏み出したんだけどなぁ。かなり昔に」
「だから、その時は私に相手がいないから、残される私のことを憂いて婚約破棄の話が進められなかったのでしょう?何の取り柄もない私は婚約を破棄されて仕舞えば、ただの訳あり事故物件に成り下がってしまいますもの」
「自分のことを事故物件とか言うなよ」

 いまいち会話が噛み合わない。
 見目の良いエドワードは過去、多くの女性に言い寄られてきたが、別に特段誰がを好きになった事などない。
 確かに美人を愛でる傾向にはあるが、それは男としての義務であり、エドワードにはそもそも婚約を破棄するつもりなどない。
 彼はまた、小さくため息をつく。
 そんな婚約者など御構い無しに、アメリアは話を続けた。

「しかし!私はこの度、恋をしました。初恋です。お互いに想い人が出来たのですから、この機会に婚約破棄を進めるべきです!」
「初恋は叶わないらしいぞ」
「そんなものは無視です」

 やる気のない態度のエドワードに、アメリアは口を尖らせる。

「…ミアは諦めるんですか?」
「別に、本当に欲しいなら愛妾として囲えば良い」
「まあ、それも無くはないですけど」

 彼らの周りは政略結婚が多い。
 子どもさえできたら、後は互いに外で恋愛するような冷めきった夫婦関係の家庭も多い。

「私はどうせなら、思い思われる幸せな結婚がしたいです」

 そんな大人たちを見てきたアメリアは物語にあるような、ドキドキのときめきが溢れる結婚を夢見つつも、どこか諦めていたのだ。

 しかし、ひと月ほど前のこと。アメリアはお忍びで訪れた城下で出会ってしまった。運命の相手に。

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