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8:友人を探すアリス
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その日のランチタイム、アリス・ルーグは食堂へ行った。
しかし、いつもは昼休憩を知らせる鐘がなると真っ先に食堂へと向かうマーガレットがまだ来ていなかった。
アリスは嫌な予感がしてすぐに踵を返し、食堂を出て薔薇園の方へと向かう。
そして周りを警戒しつつ、制服のポケットから人形に切り抜かれた紙切れを取り出した。
それを芝生の上に置くと、持っていた小さなナイフで指を傷つけ、血を一滴垂らす。
すると、その紙切れは姿を消した。
「ついでだから、どのくらい精度が上がったのか試そう」
アリスがポケットから取り出した紙切れは【式】という魔法具だ。
現在はまだ試作品段階の新種の魔法具で、魔力を込めて飛ばせば、使用者の目となり耳となる事ができる諜報活動には持ってこいの優れもの。
ただ、魔力を込めれば誰でも飛ばすことは出来るが、大量の魔力を消費する魔法具のため、使いこなせる人間は限られている。
アリスが持っているのは改良された試作品で、類い稀なる魔法の才能が評価されている彼女は、秘密裏にこの【式】の使用テストを任されているのだ。
マーガレットを探すついでに、式神の使用テストをしようと考えた彼女は、【式】を飛ばすと、薔薇園の端にあるベンチに座り、静かに目を閉じた。
そして【式】の方に神経を集中させる。
(実用化されれば、必ずやお国のためになる代物だけれど、あまり公にはしない方が良さそうね)
アリスは目を閉じたまま、苦笑した。
薔薇園の奥にはこの時間帯、あまり人が寄り付かない庭園があるのだが、彼女は【式】を通じてその庭園にある東屋で男爵令嬢と、婚約者のいる公爵令息が逢引きしているのを目撃してしまったのだ。
記憶が正しければ、彼は毎朝校門で、皆に見せつけるように自分の婚約者にキザな言葉で愛を囁いていた。
あれは、このためのカモフラージュだったのだろうか。周りには彼の婚約者はその言葉に頬を染め上げ喜んでいたように見えていたのに。
アリスにとってはどうでも良いことだが、騙されている婚約者の事を考えると、少しだけ可哀想に思った。
「ご愁傷様です」
彼らがいる方向を向いて手を合わせたアリスは、不敵な笑みを浮かべる。
彼の婚約者は苛烈な性格のご令嬢だ。バレたら、次に食堂中の視線を集めるのは彼と男爵令嬢になるだろう。
(マーガレットのような人なんてそうそういないわね)
貴族はすぐに嘘をつく。
マーガレット・ワトソンのような、裏表のない単純でわかりやすい貴族などそうそういない。
アリスは彼女のそんなところが気に入っていた。
もちろん貴族女性としては、彼女のそういう部分は褒められたものではない。だが、アカデミー内で友人として付き合う分には、肩肘を張る必要もなく気楽に付き合える貴重な存在だ。
「さて、マーガレットはどこかしら?」
気を取り直し、アリスは【式】を通して、庭園にマーガレットがいないか探す。
すると、浮気者の逢引きを見つけた東屋と正反対の位置にある東屋でまた別の人影を見つけた。
人影が2人分。1人はマーガレット・ワトソン。そしてもう一つは、アリスの婚約者キース・ダイルだった。
「キース?」
一瞬、先程の2人と同じように浮気かとも思ったが、どうも険悪な雰囲気だ。
さらに耳を澄ませてみると、マーガレットはキースを強く叱責していた。
アリスはすぐ様【式】を戻すと、転移魔法を使い、庭園の東屋に移動した。
しかし、いつもは昼休憩を知らせる鐘がなると真っ先に食堂へと向かうマーガレットがまだ来ていなかった。
アリスは嫌な予感がしてすぐに踵を返し、食堂を出て薔薇園の方へと向かう。
そして周りを警戒しつつ、制服のポケットから人形に切り抜かれた紙切れを取り出した。
それを芝生の上に置くと、持っていた小さなナイフで指を傷つけ、血を一滴垂らす。
すると、その紙切れは姿を消した。
「ついでだから、どのくらい精度が上がったのか試そう」
アリスがポケットから取り出した紙切れは【式】という魔法具だ。
現在はまだ試作品段階の新種の魔法具で、魔力を込めて飛ばせば、使用者の目となり耳となる事ができる諜報活動には持ってこいの優れもの。
ただ、魔力を込めれば誰でも飛ばすことは出来るが、大量の魔力を消費する魔法具のため、使いこなせる人間は限られている。
アリスが持っているのは改良された試作品で、類い稀なる魔法の才能が評価されている彼女は、秘密裏にこの【式】の使用テストを任されているのだ。
マーガレットを探すついでに、式神の使用テストをしようと考えた彼女は、【式】を飛ばすと、薔薇園の端にあるベンチに座り、静かに目を閉じた。
そして【式】の方に神経を集中させる。
(実用化されれば、必ずやお国のためになる代物だけれど、あまり公にはしない方が良さそうね)
アリスは目を閉じたまま、苦笑した。
薔薇園の奥にはこの時間帯、あまり人が寄り付かない庭園があるのだが、彼女は【式】を通じてその庭園にある東屋で男爵令嬢と、婚約者のいる公爵令息が逢引きしているのを目撃してしまったのだ。
記憶が正しければ、彼は毎朝校門で、皆に見せつけるように自分の婚約者にキザな言葉で愛を囁いていた。
あれは、このためのカモフラージュだったのだろうか。周りには彼の婚約者はその言葉に頬を染め上げ喜んでいたように見えていたのに。
アリスにとってはどうでも良いことだが、騙されている婚約者の事を考えると、少しだけ可哀想に思った。
「ご愁傷様です」
彼らがいる方向を向いて手を合わせたアリスは、不敵な笑みを浮かべる。
彼の婚約者は苛烈な性格のご令嬢だ。バレたら、次に食堂中の視線を集めるのは彼と男爵令嬢になるだろう。
(マーガレットのような人なんてそうそういないわね)
貴族はすぐに嘘をつく。
マーガレット・ワトソンのような、裏表のない単純でわかりやすい貴族などそうそういない。
アリスは彼女のそんなところが気に入っていた。
もちろん貴族女性としては、彼女のそういう部分は褒められたものではない。だが、アカデミー内で友人として付き合う分には、肩肘を張る必要もなく気楽に付き合える貴重な存在だ。
「さて、マーガレットはどこかしら?」
気を取り直し、アリスは【式】を通して、庭園にマーガレットがいないか探す。
すると、浮気者の逢引きを見つけた東屋と正反対の位置にある東屋でまた別の人影を見つけた。
人影が2人分。1人はマーガレット・ワトソン。そしてもう一つは、アリスの婚約者キース・ダイルだった。
「キース?」
一瞬、先程の2人と同じように浮気かとも思ったが、どうも険悪な雰囲気だ。
さらに耳を澄ませてみると、マーガレットはキースを強く叱責していた。
アリスはすぐ様【式】を戻すと、転移魔法を使い、庭園の東屋に移動した。
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