73 / 74
第二部
28:いつかの日の予約
しおりを挟む
ブライアンのアトリエを出たモニカは、ジャスパーをとある場所へと連れてきていた。
そこは町外れにある今はもう使われていない教会。
立て付けの悪い扉を開けて中に入ると、掃除が行き届いていないのか、中は少し埃っぽい。
急に行きたいところがあると言い出したから、何か欲しいものでもあるのかと思ったらまさかの廃教会に連れてこられたジャスパーは困惑した様子でモニカに尋ねた。
「こんなところに何の用なんですか?」
先を行くモニカは、講壇の前に立つと何も答えずにこちらに来いと手招きする。
怪訝な顔をしたジャスパーはとりあえず、言われるがままに彼女に近づいた。
「これ!これにサインして欲しいの」
モニカは講壇に置いてある使えるかどうかわからないペンをジャスパーに渡し、上質なとある用紙にサインをするように促す。
その用紙を見たジャスパーは目を見開いた。
「姫様…これは一体…」
「婚姻誓約書よ?見たことない?」
「いや、見たことはありますけど、何でここに?」
「用紙だけなら誰でも簡単にもらえるらしいわ。オリビアさんが教えてくれたの。まあこれを出したところで婚姻が認められるかどうかは別らしいけど」
「えーっと、そうでなく。何で今?」
動揺しつつも喜びが隠せないジャスパーの表情は、笑っているのか驚いているのかよくわからないものだった。
そんな彼にモニカはクスッと笑みをこぼす。
「指輪のお返し。まだ効力は発揮しないけど、その時が来たらすぐに出せるようにと思ってもらってきたの」
モニカは『書いてくれる?』と上目遣いでコテンと首を傾げた。
あざとい。仕草がもう、可愛いとわかっていてやっている。
ジャスパーは彼女をキツく抱きしめると、何度も『書くに決まってる』と繰り返した。
「何だかちょっとドキドキするね」
「…そうっすね」
「ジャスパー、手が震えてる」
「うるせぇ」
そんなことを言いながら、二人は誓約書にサインをした。
ペンのインクが少なかったために、文字が少し霞んでいたが、まあ問題ないだろう。
モニカは誓約書を封筒にしまうと、ジャスパーの方に向き直り、
ーーーそして少しだけ背伸びをした。
チュッという音が静かな教会の中に、生々しく響く。
顔を真っ赤にしたジャスパーは不服そうな顔でモニカを睨んだ。
「…何すんですか」
「誓いのキス」
「…………ほんと、そういうとこ、ほんっっと!!」
「何よ。悔しい?」
「悔しい!」
ジャスパーは舌を出して戯けて見せるモニカに小さく舌打ちすると、仕返しだとで言う様に彼女の口に噛みついた。
埃っぽい廃教会でも外の光に照らされたステンドグラスは美しい。柔らかい光が二人を包む。
その光景は、世界に二人だけしかいないのではないかと錯覚してしまうほどに美しかった。
そこは町外れにある今はもう使われていない教会。
立て付けの悪い扉を開けて中に入ると、掃除が行き届いていないのか、中は少し埃っぽい。
急に行きたいところがあると言い出したから、何か欲しいものでもあるのかと思ったらまさかの廃教会に連れてこられたジャスパーは困惑した様子でモニカに尋ねた。
「こんなところに何の用なんですか?」
先を行くモニカは、講壇の前に立つと何も答えずにこちらに来いと手招きする。
怪訝な顔をしたジャスパーはとりあえず、言われるがままに彼女に近づいた。
「これ!これにサインして欲しいの」
モニカは講壇に置いてある使えるかどうかわからないペンをジャスパーに渡し、上質なとある用紙にサインをするように促す。
その用紙を見たジャスパーは目を見開いた。
「姫様…これは一体…」
「婚姻誓約書よ?見たことない?」
「いや、見たことはありますけど、何でここに?」
「用紙だけなら誰でも簡単にもらえるらしいわ。オリビアさんが教えてくれたの。まあこれを出したところで婚姻が認められるかどうかは別らしいけど」
「えーっと、そうでなく。何で今?」
動揺しつつも喜びが隠せないジャスパーの表情は、笑っているのか驚いているのかよくわからないものだった。
そんな彼にモニカはクスッと笑みをこぼす。
「指輪のお返し。まだ効力は発揮しないけど、その時が来たらすぐに出せるようにと思ってもらってきたの」
モニカは『書いてくれる?』と上目遣いでコテンと首を傾げた。
あざとい。仕草がもう、可愛いとわかっていてやっている。
ジャスパーは彼女をキツく抱きしめると、何度も『書くに決まってる』と繰り返した。
「何だかちょっとドキドキするね」
「…そうっすね」
「ジャスパー、手が震えてる」
「うるせぇ」
そんなことを言いながら、二人は誓約書にサインをした。
ペンのインクが少なかったために、文字が少し霞んでいたが、まあ問題ないだろう。
モニカは誓約書を封筒にしまうと、ジャスパーの方に向き直り、
ーーーそして少しだけ背伸びをした。
チュッという音が静かな教会の中に、生々しく響く。
顔を真っ赤にしたジャスパーは不服そうな顔でモニカを睨んだ。
「…何すんですか」
「誓いのキス」
「…………ほんと、そういうとこ、ほんっっと!!」
「何よ。悔しい?」
「悔しい!」
ジャスパーは舌を出して戯けて見せるモニカに小さく舌打ちすると、仕返しだとで言う様に彼女の口に噛みついた。
埃っぽい廃教会でも外の光に照らされたステンドグラスは美しい。柔らかい光が二人を包む。
その光景は、世界に二人だけしかいないのではないかと錯覚してしまうほどに美しかった。
1
お気に入りに追加
797
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる