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第二部

28:いつかの日の予約

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 ブライアンのアトリエを出たモニカは、ジャスパーをとある場所へと連れてきていた。
 そこは町外れにある今はもう使われていない教会。
 立て付けの悪い扉を開けて中に入ると、掃除が行き届いていないのか、中は少し埃っぽい。
 急に行きたいところがあると言い出したから、何か欲しいものでもあるのかと思ったらまさかの廃教会に連れてこられたジャスパーは困惑した様子でモニカに尋ねた。

「こんなところに何の用なんですか?」

 先を行くモニカは、講壇の前に立つと何も答えずにこちらに来いと手招きする。
 怪訝な顔をしたジャスパーはとりあえず、言われるがままに彼女に近づいた。

「これ!これにサインして欲しいの」 

 モニカは講壇に置いてある使えるかどうかわからないペンをジャスパーに渡し、上質なとある用紙にサインをするように促す。
 その用紙を見たジャスパーは目を見開いた。

「姫様…これは一体…」
「婚姻誓約書よ?見たことない?」
「いや、見たことはありますけど、何でここに?」
「用紙だけなら誰でも簡単にもらえるらしいわ。オリビアさんが教えてくれたの。まあこれを出したところで婚姻が認められるかどうかは別らしいけど」
「えーっと、そうでなく。何で今?」

 動揺しつつも喜びが隠せないジャスパーの表情は、笑っているのか驚いているのかよくわからないものだった。
 そんな彼にモニカはクスッと笑みをこぼす。

「指輪のお返し。まだ効力は発揮しないけど、が来たらすぐに出せるようにと思ってもらってきたの」

 モニカは『書いてくれる?』と上目遣いでコテンと首を傾げた。
 あざとい。仕草がもう、可愛いとわかっていてやっている。
 ジャスパーは彼女をキツく抱きしめると、何度も『書くに決まってる』と繰り返した。

「何だかちょっとドキドキするね」
「…そうっすね」
「ジャスパー、手が震えてる」
「うるせぇ」

 そんなことを言いながら、二人は誓約書にサインをした。
 ペンのインクが少なかったために、文字が少し霞んでいたが、まあ問題ないだろう。
 モニカは誓約書を封筒にしまうと、ジャスパーの方に向き直り、

 ーーーそして少しだけ背伸びをした。

 チュッという音が静かな教会の中に、生々しく響く。
 顔を真っ赤にしたジャスパーは不服そうな顔でモニカを睨んだ。

「…何すんですか」 
「誓いのキス」
「…………ほんと、そういうとこ、ほんっっと!!」
「何よ。悔しい?」
「悔しい!」
 
 ジャスパーは舌を出して戯けて見せるモニカに小さく舌打ちすると、仕返しだとで言う様に彼女の口に噛みついた。


 埃っぽい廃教会でも外の光に照らされたステンドグラスは美しい。柔らかい光が二人を包む。
 その光景は、世界に二人だけしかいないのではないかと錯覚してしまうほどに美しかった。

 
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