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第二部
24:指輪(1)
しおりを挟むジャスパー曰く、あの時モニカが身代わりになった女がオリビアだったと知った時からこうなる予感がしていたらしい。
だから彼は門番に『オリビアと名乗るやたら色気のある女が来ても追い返せ』と伝えていたそうだ。
「どうりで、公爵邸の門番さんは誰も相手にしてくださらなかったはずだわ」
相変わらず手は縛られたままのオリビアは、床に正座した状態でふぅ、と小さくため息をこぼした。
そんな彼女に敵意剥き出しのエリザは隣に座るモニカをぎゅっと抱きしめながら、同じように反対側から主人を抱きしめる兄に問う。
「お兄様、こちらの方は?」
「俺の、まあ、何というか…友人的なやつだ」
「友人…へぇ…友人ねぇ…」
明らかに雰囲気が夜の街の人間な女性を『友人』と紹介する兄に、エリザは軽蔑の視線を向けた。
「違うからな。色々と多分違うから。お前は何か大きな誤解をしている」
「へぇ…」
冷ややかな目がジャスパーに突き刺さる。
そういう事をするだけの友人だとでも思っているのだろう。
そんな殺伐とした雰囲気が漂う室内で、ノアは大きなため息をこぼした。
「オーウェン兄妹はとりあえず後ろに控えていなさい。モニカが苦しそう」
「あら、姫様。申し訳ございません」
「失礼、失礼」
悪びれる様子なく、エリザとジャスパーは席を立つ。
モニカはとりあえず乱れた服と髪を直した。
「まったく。本当に無礼な侍女と護衛だわ」
「でも好きでしょ?」
「まあね」
「俺も姫様のこと好きですよ。両思いですね」
「エリザの方が姫様のこと好きです」
「はいはい」
後ろの無礼な従者を軽くあしらいながらも、モニカは嬉しそうに小さく笑みを浮かべた。
久しぶりに、ジャスパーとくだらない会話をした気がする。それが嬉しいのだ。
「グロスター公爵閣下はジャスパー・オーウェンのこの態度をお叱りにはならないのですか?」
妻を口説かれて平然としているノアにオリビアは首を傾げた。
その場にいた全員がビクッと肩を強張らせる。
「…ジャスパーの軽口は昔からだからね。いちいち気にしてもいられないんだよ」
「この男、随分と女たらしですけれど、心配にはなりませんの?」
「これでも主人には忠実だから、大丈夫だ。ご心配には及ばないよ」
「そうですか…」
オリビアは怪訝な表情でジャスパーを見た。
ノアとモニカが離婚する事を前提に結婚をしている事は公爵邸の人間しか知らないし、知られてはいけない。
ジャスパーは動揺がバレないように胡散臭い笑みを彼女に向けた。
「そうですわね。心配する必要なんてありませんわよね。だって彼は求婚するための指輪を既に用意しているんですもの」
流石の彼でも結婚したい相手がいるのに人妻に手は出さないか、とオリビアは笑った。
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