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第二部
22:類は友を呼ぶとは本当らしい
しおりを挟む「お待たせいたしました」
コンコンと二回ノックをして応接室にやってきたのは、公爵夫人モニカだった。
オリビアはスッと立ち上がり頭を下げる。
「本日は貴重なお時間をいただきまして本当にありがとうございます」
「いいえ。こちらこそ、わざわざご足労いただきありがとうございます。どうぞおかけください」
モニカにオリビアに優しく微笑みかけると、座るように促した。
そしてエリザにお茶を持ってくるよう言いつける。
しかし、エリザはなぜかそれを渋った。
「エリザ?」
「…なんとなく、エリザの直感がここを離れてはいけないと申しております」
「何言ってるの。お客様にお茶をお出しするのはあなたのお仕事でしょう?」
「そうですけど…」
口を尖らせてその場を動こうとしない彼女に、モニカは大きくため息をついた。
公爵邸に入る前に既に身体検査を済ませているし、部屋の外には公爵邸の衛兵がいる。なんの問題もない。
モニカはこそっとそう耳打ちすると、エリザを部屋から追い出した。
そして気まずそうにオリビアの方に向き直るとニコリと何かを誤魔化すように微笑んだ。
「彼女、ジャスパーの妹なんですよ?」
「そうなんですね。可愛らしい方ですね」
「ええ、私もそう思います」
穏やかな笑みを貼り付けたモニカは、そんな他愛もない話をしながらオリビアの対面に座った。
(ジャスパーも隅に置けないわね、本当に)
目の前に座るオリビアという女性は本当に美しい。
色黒でハリのある健康的な肌、黄金に光る切長な目元とその下にある色気を感じる泣きぼくろ。
正統派美人のモニカと比べるとタイプは異なるが、すれ違えば誰もが振り返るほどの美人だ。モニカの騎士はやはり面食いなのだろうか。
「先日は助けていただき、ありがとうございました」
「いえ、お礼を言われるようなことは何もしておりません。結果的に事件を解決して下さったのは騎士団の方たちですし」
「それでも、あの時、誰も手を出せなかった状況でわたくしに手を差し伸べて下さったことは事実ですわ」
これはお礼の品だと、オリビアはモニカに小さな細長い箱を差し出した。
モニカはそれを受け取ると箱を開ける。するとその中にはピンクダイヤのネックレスが入っていた。
「どうぞ、お納めください」
「…こんな高価なものいただけません」
「そんなことをおっしゃらずに。これはわたくしのささやかなお礼の気持ちですから」
オリビアはそう言うと、席を立ちモニカの横に座る。
そして彼女の手の中にある箱からネックレスを取り出すと、それを後ろからつけてあげた。
(あ、薔薇だ…)
オリビアの髪からふわりとかおる薔薇の香油の香りが、不用意に脳を刺激して少しクラクラする。
モニカは『ありがとう』と小さく呟くと、彼女の方を振り返った。
「ああ、女神様みたい…」
ネックレスをつけたモニカを見て、オリビアは艶っぽい息と共にそう漏らした。
ちょうど背後の窓からは雲の切れ間から覗く太陽の光が漏れ出ていて、まるでモニカに後光が差しているように見えたのだ。
「やっぱり、思っていた通りだわ…」
「は、はい?」
オリビアはいきなりモニカの両手を掴むと、そのまま彼女をソファへと押し倒した。
突然の出来事にモニカはキョトンとその青の瞳を大きく見開く。
その視界にはオリビアのもつ大きくハリのある二つの果実が映り込んだ。
(…大迫力だわ)
首の詰まったドレスを着ているのに、色気が隠しきれていない。溢れんばかりに漏れて出ている。『妖艶』という言葉は彼女のためにあるのかもしれない。
モニカはうっすらと頬を染めた。この空間だけ、時が止まったかのようだ。
その反応にオリビアの分厚い唇は弧を描く。
右サイドに流した緩やかに波打つ赤褐色の長い髪が、モニカの頬に軽く触れた。
「髪、くすぐったいです」
「ふふっ。それは申し訳ありません」
「絶対申し訳ないなんて思ってないですよね?」
「思っていますよ。一ミリほど」
申し訳なくなさそうに謝るオリビアにモニカはただただ困惑するしかない。
この状況は一体どう解釈すれば良いのだろうか。彼女から敵意は感じないが、なんとなく危ない感じする。
ジャスパーやエリザと同じ系統の危険な香りだ。
「もしかして、貞操の危機かしら」
「わたくし、男も女も抱く方ですけれど、奥様だけには抱かれても良いと思っておりますの」
「はあ…そうですか…」
そう言って、色気たっぷりに自分の唇を人差し指と中指の腹でなぞってくるオリビアを見上げながらモニカは思った。
さすがはジャスパーの友人だ、と。色々と濃い。
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