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第二部
8:モニカと画家のブライアン(3)
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ブライアンにとってのモニカは良き友人である。
彼女が背中を押してくれたから、ノアの気持ちに応えることができた。
だから、彼にとっての彼女は大切な存在だ。
「よって、現状には大いに不満がある」
「何がよ…」
モデルの衣装に着替えたモニカは、ジトっとした目でこちらを睨んでくるブライアンを睨み返す。
そんな彼女にブライアンは鏡を持たせた。
「ブッサイクな顔になってんぞ」
眉間に皺を寄せて目の下にはクマや肌荒れを指摘してくる彼に、モニカは少し寝不足なだけだと答えた。
だが、鏡に映る自分は確かにひどい。
「あの騎士のせいか?」
「……」
ジャスパーのせいではないが、ジャスパーとあの日見た女性との関係が気になりすぎて、中々眠れないのは事実だ。
あれからモニカの耳は、彼とその女性に関する気になる噂をよく拾うようになった。
今日もまた、自分がこうしている間にも彼女とどこかへ出掛けているのだろうか。気になって仕方がない。
「気になるなら聞けばいいじゃん。あの女は誰なんだって」
「…聞けたら苦労しないわよ」
「俺が聞いてやろうか?」
「遠慮しとく」
聞くのが怖いのだと、モニカは崩れ落ちるように用意された椅子に腰掛けた。
そんな彼女にブライアンは呆れたようにため息をこぼした。
「浮気だとしても、そうじゃなかったとしても、聞かないことには何も解決しないぞ」
「わかってるよ」
「わかってんなら行動しろよ」
「怖いのよ。もし仮に彼女と交際していたとして、それを笑顔で祝福してあげられるほど私はできた人間じゃないの」
「別に祝福してやる必要なんてないだろ。もしノアがそういうことしたら、俺だったら浮気相手の爪を全部剥いでやるくらいのとこはするぞ」
「嫉妬深いのね」
「まあな」
ブライアンはそのまま楽にしてていいと言って、筆をとった。
物悲しげに外を見つめるモニカもそれはそれで美しい。亡き夫をずっと思い続ける未亡人のような雰囲気がある。
それを言ったら怒られるから絶対に口には出さないけれど、この絵のタイトルは『未亡人』で決まりだと彼は思った。
「ねえ、ブライアンはノア様のどこが好きなの?」
「なんだよ急に」
「いいから答えて」
ぼーっと外を眺めながら、モニカはそう尋ねた。
あまりそういうことは答えたくないブライアンだが、今日は特別だ。
一旦筆をおくと、布がかけられた絵の方を見て恥ずかしそうに答える。
「…のほほんとしているように見えて意外と策士で腹黒なとこ」
「趣味悪い」
「お前に言われたかねーよ。むしろお前のが趣味悪いわ」
「なんてことを言うのよ」
「だってそうだろ?あれはやばい。雰囲気が普通じゃない」
「どう言う意味?」
「危険な香りがぷんぷんする」
「大人の色香ってやつ?」
「なんだそれ」
「あら?違うの?貴族令嬢たちがそう言ってたから」
「そんな可愛らしいもんじゃねーだろ、あれは。なんか犯罪者の匂いがする」
闇堕ちしたら本当に犯罪を犯しそうだとブライアンはつぶやいた。
彼の言っていることがわからないモニカは「ふーん」と軽く受け流す。
「ジャスパーは私のどこが好きだったのかしら。顔?」
「そこが全てじゃないだろうが、その項目が入っているのは間違い無いと思う」
「面食いだったのね」
「モニカのことを好きになるやつが、顔が見てないと言ってきたらそれこそ嘘っぽいし、説得力にかける。信用ならない」
「わかるわ。私は美しいもの」
「そういうことを自分で言うあたりがほんと残念だな」
「うるさいわよ」
なんだかんだと話しながら、デッサンを終えたブライアンは眠たそうにするモニカに毛布を渡した。
「しばらく寝ていろ。今日はもういい」
「そう?」
「次は色々と解決したらにしよう。元気ないお前書いてて楽しくねーわ」
キャンバスを片付けながら彼はニカッとはを見せて笑った。
相変わらず笑顔が少年のように可愛らしい。
「…ねえ、どうしてブライアンはノア様の絵を描かないの?」
「アイツに聞いてこいとでも言われたか?」
「ノーコメント」
「じゃあこっちもノーコメントだ。気になるなら自分で聞いてこいって言っといて」
ブライアンはモニカにアイマスクを渡すと、もう寝ろと言ってカーテンを閉めた。
カーテンの隙間からわずかに入る光と油絵具の匂いに包まれ、彼女は静かに目を閉じる。
「…私もジャスパーの絵ほしいなぁ」
彼女が背中を押してくれたから、ノアの気持ちに応えることができた。
だから、彼にとっての彼女は大切な存在だ。
「よって、現状には大いに不満がある」
「何がよ…」
モデルの衣装に着替えたモニカは、ジトっとした目でこちらを睨んでくるブライアンを睨み返す。
そんな彼女にブライアンは鏡を持たせた。
「ブッサイクな顔になってんぞ」
眉間に皺を寄せて目の下にはクマや肌荒れを指摘してくる彼に、モニカは少し寝不足なだけだと答えた。
だが、鏡に映る自分は確かにひどい。
「あの騎士のせいか?」
「……」
ジャスパーのせいではないが、ジャスパーとあの日見た女性との関係が気になりすぎて、中々眠れないのは事実だ。
あれからモニカの耳は、彼とその女性に関する気になる噂をよく拾うようになった。
今日もまた、自分がこうしている間にも彼女とどこかへ出掛けているのだろうか。気になって仕方がない。
「気になるなら聞けばいいじゃん。あの女は誰なんだって」
「…聞けたら苦労しないわよ」
「俺が聞いてやろうか?」
「遠慮しとく」
聞くのが怖いのだと、モニカは崩れ落ちるように用意された椅子に腰掛けた。
そんな彼女にブライアンは呆れたようにため息をこぼした。
「浮気だとしても、そうじゃなかったとしても、聞かないことには何も解決しないぞ」
「わかってるよ」
「わかってんなら行動しろよ」
「怖いのよ。もし仮に彼女と交際していたとして、それを笑顔で祝福してあげられるほど私はできた人間じゃないの」
「別に祝福してやる必要なんてないだろ。もしノアがそういうことしたら、俺だったら浮気相手の爪を全部剥いでやるくらいのとこはするぞ」
「嫉妬深いのね」
「まあな」
ブライアンはそのまま楽にしてていいと言って、筆をとった。
物悲しげに外を見つめるモニカもそれはそれで美しい。亡き夫をずっと思い続ける未亡人のような雰囲気がある。
それを言ったら怒られるから絶対に口には出さないけれど、この絵のタイトルは『未亡人』で決まりだと彼は思った。
「ねえ、ブライアンはノア様のどこが好きなの?」
「なんだよ急に」
「いいから答えて」
ぼーっと外を眺めながら、モニカはそう尋ねた。
あまりそういうことは答えたくないブライアンだが、今日は特別だ。
一旦筆をおくと、布がかけられた絵の方を見て恥ずかしそうに答える。
「…のほほんとしているように見えて意外と策士で腹黒なとこ」
「趣味悪い」
「お前に言われたかねーよ。むしろお前のが趣味悪いわ」
「なんてことを言うのよ」
「だってそうだろ?あれはやばい。雰囲気が普通じゃない」
「どう言う意味?」
「危険な香りがぷんぷんする」
「大人の色香ってやつ?」
「なんだそれ」
「あら?違うの?貴族令嬢たちがそう言ってたから」
「そんな可愛らしいもんじゃねーだろ、あれは。なんか犯罪者の匂いがする」
闇堕ちしたら本当に犯罪を犯しそうだとブライアンはつぶやいた。
彼の言っていることがわからないモニカは「ふーん」と軽く受け流す。
「ジャスパーは私のどこが好きだったのかしら。顔?」
「そこが全てじゃないだろうが、その項目が入っているのは間違い無いと思う」
「面食いだったのね」
「モニカのことを好きになるやつが、顔が見てないと言ってきたらそれこそ嘘っぽいし、説得力にかける。信用ならない」
「わかるわ。私は美しいもの」
「そういうことを自分で言うあたりがほんと残念だな」
「うるさいわよ」
なんだかんだと話しながら、デッサンを終えたブライアンは眠たそうにするモニカに毛布を渡した。
「しばらく寝ていろ。今日はもういい」
「そう?」
「次は色々と解決したらにしよう。元気ないお前書いてて楽しくねーわ」
キャンバスを片付けながら彼はニカッとはを見せて笑った。
相変わらず笑顔が少年のように可愛らしい。
「…ねえ、どうしてブライアンはノア様の絵を描かないの?」
「アイツに聞いてこいとでも言われたか?」
「ノーコメント」
「じゃあこっちもノーコメントだ。気になるなら自分で聞いてこいって言っといて」
ブライアンはモニカにアイマスクを渡すと、もう寝ろと言ってカーテンを閉めた。
カーテンの隙間からわずかに入る光と油絵具の匂いに包まれ、彼女は静かに目を閉じる。
「…私もジャスパーの絵ほしいなぁ」
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