51 / 74
第二部
6:公爵夫人のお茶会(2)
しおりを挟む
「モニカ、今日はありがとう」
「公爵夫人として当然の事ですわ、ノア様」
「でも、君は社交があまり得意ではないだろう?お茶会、しんどかったんじゃないか?」
本邸の食堂で夕食を取りながら昼間のお茶会の報告をしたモニカに、ノアは不安そうに尋ねた。
期限付きとは言え、好きでもない男と夫婦を演じなければならない彼女をノアはずっと気にかけている。
モニカとしては、そこまで神経質にならなくとも大丈夫なのだが、辛い時に辛いとは言わない性格を熟知されているせいで信用がないらしい。
「辛かったら言ってよ?社交も最低限に調整するし…」
「心配しすぎです。離縁までの3年はちゃんと公爵夫人としての務めを果たすつもりで嫁いできたわけですし、それに今日のお茶会は帝国の時とは違ってとても楽しい時間でした」
「そう?」
「ええ。本当に最近まで情勢が不安定だったのか信じられないくらい、皆さん穏やかで…」
「帝国では茶会に招待されても大体遠回しな悪口しか聞こえてきませんでしたからね、姫様には新鮮だっだと思いますよ」
「どうして貴方が答えるのよ、ジャスパー」
勝手に話に入ってきたジャスパーをモニカは睨む。
その反応が不服だった彼は口を尖らせた。
「…俺の話してたくせに」
「ご令嬢方がね」
「姫様も賛同してたでしょう?」
「一言も同意してないわ。何が大人の色香よ」
昼間の会話を思い出したモニカはぷっと吹き出した。
危険な香りがする流し目に大人の色香。年若い令嬢から見るとそう映るらしい。
帰り際に令嬢たちから『あんな素敵なお兄様がいて羨ましい』と言われたエリザは、呆れたようにため息をついた。
「皆様、お兄様に夢を見ていらっしゃいますのね。エリザはびっくりですわ。中身はほぼ犯罪者なのに」
「まあ、ジャスパーは黙って立っていたら本当に彫刻のようだからね。男の僕でも見惚れるほどだよ?」
「黙っていれば、ですけれどね」
「酷くない?なんか最近、俺への態度がひどくないですかね、皆さん」
「ねえねえ。ちょっと一回やってみてよ。危険な香りがする流し目」
「えー?危険な香りって…こうですか?」
ジャスパーはモニカに言われるがまま、流し目で彼女を見た。
エリザもノアも彼の格好をつけた流し目に吹き出したが、不覚にもその危険な香りがする流し目にドキッとしてしまったモニカは、不自然に目を逸らせる。
そんな彼女にジャスパーは怪訝な表情を向けたが、彼女はそれを無視した。
「そ、そういえばノア様。またブライアンにモデルを頼まれたのですけれど、来週末行ってきても良いですか?」
「また?最近多いね。妬けるなぁ」
「妬けるって、昨日もデートしてきたんでしょう?」
「そうなんだけど、ブライアンって僕の絵は描いてくれないでしょ?だから何か羨ましいなって」
ノアは寂しそうに窓の外に視線を移した。
ブライアンは何故かノアの絵を描かない。それが彼には寂しいらしい。
「今度、それとなく聞いてみましょうか?何故描かないのか」
何となく、彼がノアの絵を描かない理由がわかるモニカはノアにそう尋ねた。ノアは遠慮がちに『じゃあお願いしようかな』と微笑んだ。
「公爵夫人として当然の事ですわ、ノア様」
「でも、君は社交があまり得意ではないだろう?お茶会、しんどかったんじゃないか?」
本邸の食堂で夕食を取りながら昼間のお茶会の報告をしたモニカに、ノアは不安そうに尋ねた。
期限付きとは言え、好きでもない男と夫婦を演じなければならない彼女をノアはずっと気にかけている。
モニカとしては、そこまで神経質にならなくとも大丈夫なのだが、辛い時に辛いとは言わない性格を熟知されているせいで信用がないらしい。
「辛かったら言ってよ?社交も最低限に調整するし…」
「心配しすぎです。離縁までの3年はちゃんと公爵夫人としての務めを果たすつもりで嫁いできたわけですし、それに今日のお茶会は帝国の時とは違ってとても楽しい時間でした」
「そう?」
「ええ。本当に最近まで情勢が不安定だったのか信じられないくらい、皆さん穏やかで…」
「帝国では茶会に招待されても大体遠回しな悪口しか聞こえてきませんでしたからね、姫様には新鮮だっだと思いますよ」
「どうして貴方が答えるのよ、ジャスパー」
勝手に話に入ってきたジャスパーをモニカは睨む。
その反応が不服だった彼は口を尖らせた。
「…俺の話してたくせに」
「ご令嬢方がね」
「姫様も賛同してたでしょう?」
「一言も同意してないわ。何が大人の色香よ」
昼間の会話を思い出したモニカはぷっと吹き出した。
危険な香りがする流し目に大人の色香。年若い令嬢から見るとそう映るらしい。
帰り際に令嬢たちから『あんな素敵なお兄様がいて羨ましい』と言われたエリザは、呆れたようにため息をついた。
「皆様、お兄様に夢を見ていらっしゃいますのね。エリザはびっくりですわ。中身はほぼ犯罪者なのに」
「まあ、ジャスパーは黙って立っていたら本当に彫刻のようだからね。男の僕でも見惚れるほどだよ?」
「黙っていれば、ですけれどね」
「酷くない?なんか最近、俺への態度がひどくないですかね、皆さん」
「ねえねえ。ちょっと一回やってみてよ。危険な香りがする流し目」
「えー?危険な香りって…こうですか?」
ジャスパーはモニカに言われるがまま、流し目で彼女を見た。
エリザもノアも彼の格好をつけた流し目に吹き出したが、不覚にもその危険な香りがする流し目にドキッとしてしまったモニカは、不自然に目を逸らせる。
そんな彼女にジャスパーは怪訝な表情を向けたが、彼女はそれを無視した。
「そ、そういえばノア様。またブライアンにモデルを頼まれたのですけれど、来週末行ってきても良いですか?」
「また?最近多いね。妬けるなぁ」
「妬けるって、昨日もデートしてきたんでしょう?」
「そうなんだけど、ブライアンって僕の絵は描いてくれないでしょ?だから何か羨ましいなって」
ノアは寂しそうに窓の外に視線を移した。
ブライアンは何故かノアの絵を描かない。それが彼には寂しいらしい。
「今度、それとなく聞いてみましょうか?何故描かないのか」
何となく、彼がノアの絵を描かない理由がわかるモニカはノアにそう尋ねた。ノアは遠慮がちに『じゃあお願いしようかな』と微笑んだ。
11
お気に入りに追加
811
あなたにおすすめの小説
私のお金が欲しい伯爵様は離婚してくれません
みみぢあん
恋愛
祖父の葬儀から帰ったアデルは、それまで優しかった夫のピエールに、愛人と暮らすから伯爵夫人の部屋を出ろと命令される。 急に変わった夫の裏切りに激怒したアデルは『離婚してあげる』と夫に言うが… 夫は裕福な祖父の遺産相続人となったアデルとは離婚しないと言いはなつ。
実家へ連れ帰ろうと護衛騎士のクロヴィスがアデルをむかえに来るが… 帰る途中で襲撃され、2人は命の危険にさらされる。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓
ヒロインは辞退したいと思います。
三谷朱花
恋愛
リヴィアはソニエール男爵の庶子だった。15歳からファルギエール学園に入学し、第二王子のマクシム様との交流が始まり、そして、マクシム様の婚約者であるアンリエット様からいじめを受けるようになった……。
「あれ?アンリエット様の言ってることってまともじゃない?あれ?……どうして私、『ファルギエール学園の恋と魔法の花』のヒロインに転生してるんだっけ?」
前世の記憶を取り戻したリヴィアが、脱ヒロインを目指して四苦八苦する物語。
※アルファポリスのみの公開です。

【完結】初恋の伯爵は愛を求めない!買われた契約妻は恋心をひた隠す
白雨 音
恋愛
男爵令嬢のセリアは結婚を間近に控えていたが、両親の死により全てを失ってしまう。
残された負債の為、債権者の館で下女となるが、元貴族という事で、
風当たりも強く、辛い日々を送っていた。
そんなある夜、館のパーティで、セリアは一人の男性に目を奪われた。
三年前、密かに恋心を抱いた相手、伯爵レオナール___
伯爵は自分の事など記憶していないだろうが、今の姿を彼に見られたくない…
そんな気持ちとは裏腹に、セリアはパーティで目立ってしまう。
嫉妬した館の娘ルイーズの策謀で、盗人の汚名を着せられたセリア。
彼女の窮地に現れたのは、伯爵だった…
異世界恋愛 ※魔法要素はありません。《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています
綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」
公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。
「お前のような真面目くさった女はいらない!」
ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。
リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。
夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。
心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。
禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。
望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。
仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。
しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。
これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)

【完結】王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい
たまこ
恋愛
公爵令嬢のアレクサンドラは優秀な王太子妃候補だと、誰も(一部関係者を除く)が認める完璧な淑女である。
王家が開く祝賀会にて、アレクサンドラは婚約者のクリストファー王太子によって婚約破棄を言い渡される。そして王太子の隣には義妹のマーガレットがにんまりと笑っていた。衆目の下、冤罪により婚約破棄されてしまったアレクサンドラを助けたのは野獣辺境伯の異名を持つアルバートだった。
しかし、この婚約破棄、どうも裏があったようで・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる