【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ

七瀬菜々

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第二部

5:公爵夫人のお茶会(1)

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 ブライアンのアトリエでジャスパーと他の女性と仲睦まじく歩く姿を目撃してから、しばらくした頃。彼は急にモニカに触れてこなくなった。
 やはりあの女性とそういう関係になったからだろうか。
 聞きたいけれど、昔のように彼の女性関係に口を出せない。
 モニカは庭園でお茶を飲みながら小さくため息をこぼした。

「ご気分がすぐれませんか?モニカ様」

    声をかけられたモニカはハッとして顔を上げた。
 心配そうに自分を見つめるのは、グロスター公爵夫人として呼んだお茶会の招待客。
 モニカはすぐに笑顔を貼り付けて、問題ないと答えた。

「そういえば、あちらにいらっしゃるモニカ様の騎士様は帝国からついてきてくださったのだと伺いましたが…」
「ええ。そうですけれど…」
「まぁ!素敵ですわね!」
「そう、ですか?」

  体を前のめりにしてそう尋ねてきた令嬢の一人に、モニカは若干引き気味になる。
 しかし、そんな彼女に気付くことなく、令嬢たちは庭園の生垣の陰で控えているジャスパーについて口々に語り始めた。

「だって、主人のために地位を捨てて祖国を出るなど、そうできることではありませんわ!」
「まさに忠誠心の塊のようなお方ですわよね!」
「あの彫刻のような美しい顔立ちに、鍛え上げられた肉体…」
「モニカ様に近づく輩は全て切り裂かんと言わんばかりの鋭いおオーラ…」
「隠しきれない大人の色香…」
「そして少し危険な香りがするあの流し目…」
「「素敵ですわぁ…」」

 チラチラと彼の方を見て感嘆のため息を漏らす令嬢たち。おそらく会話が聞こえているであろうジャスパーが肩を震わせて笑いを堪えているのがモニカからはよく見える。
 しばらく堪えていたがやはり吹き出しそうになったのか、ジャスパーはすすすっと令嬢たちには気づかれないようにその場を離れた。


「騎士様はその、恋人、とかいらっしゃるのですか?」

    一人の令嬢がモジモジと手元をいじりながら尋ねてきた。
 彼女の質問にモニカはピクリと体を強張らせた。

「さあ?プライベートなことには干渉しないようにしておりますので」
「そうですか…」
「ではでは、どのようなタイプの女性がお好みかはご存知ですか!?」
「こ、好み…?」

    好みと聞かれれば、少し前の彼なら『気が強くて意地っ張りな国宝級の美人』と答えただろう。
 だが今は彼がどう答えるのか、モニカにはわからない。
 彼女が返答に困っていると、今度は別の貴婦人が口を挟んだ。

「そう言えば、この前大通りでグラマラスな女性と宝石店に入っていくのを見かけましたわ」
「まあ!恋人かしら!?」
「ど、どんな女性だったのですか!?」
「うーん、分厚い唇に泣きぼくろが特徴的な、帝国南部のお顔立ちの方だったかと。とても妖艶で美しい女性でしたわ」
「まあまあまあ!やはり大人の色香が漂う美しい騎士様のお相手はそのような女性なのですね!」

     貴婦人の発言に令嬢達はわぁっと沸いた。
 
(…宝石店に行ってたのか)

     ブライアンのアトリエに行ったあの日、ジャスパーはその女性と宝石店に入ったらしい。
 女性と宝石店に入るなど、特別な関係だと言っているようなものではないだろうか。
 モニカは気づかれないくらい小さく小さくため息をこぼした。
 そして紅茶を一口啜ると、グッと顎を上げて微笑む。

「まあ、ジャスパーも隅に置けませんわね。私、全然知りませんでしたわ。今度問い詰めてやろうかしら」
「ふふっ。やはりモニカ様も気になりますか?」
「ええ。彼の忠義には心から感謝しておりますから。彼が大切にしたいと思う女性については知っておきたいですね」
「そうですわよね、悪い女性に引っかかっては困りますものね」
「はい。彼には幸せになってほしいですから…」

    モニカはそよ風に靡いた髪を耳にかけ、平常心を取り戻して定位置に戻ってきたジャスパーを見つめた。
 ふと目が合うと、彼は穏やかにニコッと笑う。
 その微笑みはあの女性にも向けているのだろうか。
 複雑な心境のまま、モニカも微笑み返した。
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