39 / 74
第一部
37:姫様症候群の曲者兄妹(1)
しおりを挟む
「いかがでしょう?姫様」
テーブルに並んだ色とりどりの豪華な食事を前に、モニカは絶句した。
エプロン姿のエリザはサラダを取り分けると、それを彼女の前におく。
「これ、エリザが作ったの?」
「はい。エリザが作りました」
「すごいわね…」
宮廷料理人に引けを取らないほどの腕前だ。
モニカは彼女が作ったふわふわのオムレツにナイフを入れる。するとトロッと半熟の卵が流れ出てきた。
その光景に思わず唾を飲み込む。
そして、フォークに乗せたオムレツを口に含んだモニカは、大きく目を見開いてエリザを見た。
彼女のその表情にエリザからは自然と笑みが溢れる。
「美味しゅうございますか?姫様」
「ええ!すごく!」
「それは良うございました。エリザの作るものが姫様の血となり肉となるのかと思うと…滾りますわ」
「…そ、その言い方は何だか怖いわ」
「変態が滲み出てるぞ、エリザ。とりあえず座れ」
「お兄様よりはマシかと思います。では失礼して…」
エリザは自分も席につくと、実は都でも有名な料理人に弟子入りしたことがあるのだと話した。
他にも軍での傭兵経験や有名デザイナーのお針子として働いた経験など、さまざまな話をモニカにした。
「エリザはいつか姫様のお側に行くために、色々と技術を身につけましたわ」
「…そんな事、一言も言ってなかったじゃない」
「言えば止められますもの。ねえ、姫様。エリザはお兄様より優良物件ですのよ?」
炊事洗濯に針仕事、同性だからドレスの着付けやお風呂の手伝いまで全てできると彼女は胸を張ってアピールする。
「だから、お側においていただけますか?」
「そばにいてくれるの?」
「姫様がお許しをくださるのなら、未来永劫貴女に忠誠を誓います。そしてあわよくば姫様のお子を育てたいです」
「…ちょっと重くない?」
「今更気づいたのですか?重いのですよ?エリザたち兄妹は」
「貴女、そんな感じだったっけ?」
「隠していただけで、昔からこんな感じですわ」
そう言って不敵に微笑むエリザの姿は、彼の兄とよく重なる。
「エリザ、これからよろしくお願いします」
モニカは深々と頭を下げた。
すると、エリザは満足げに『こちらこそです』と笑った。
傷つけたくないからと遠ざけている間に、エリザはとんでもない令嬢に成長していた。
なぜ自分にそこまで執着してくれるのかは理解できないが、モニカは彼女が自分の側にいたいと思ってくれるかとが素直に嬉しい。
先ほどまでの不安そうな雰囲気がなくなり、本当に楽しそうに笑うモニカを見て、ジャスパーは安心したように笑みをこぼした。
「さて、姫様。これからのことですが、よろしいですか?」
「これからのこと?」
「はい。実はホークスを追い詰めることができそうなんですよね」
「…え?」
サラダをかき込みながら、ジャスパーはシレッとそう言う。
「姫様はホークスことエレノア様を追い詰めるなんて不可能だと思っているでしょう?」
「もちろんよ。だってエレノア姉様は証拠を残していない」
「確かに、直接何かをしたという決定的な証拠は得られません。けれど、実は状況的に彼女を追い詰めることができる証拠はあるのです」
ジャスパーはニヤリと口角を上げた。
そう語る彼の表情は、モニカには魔王に見えた。
テーブルに並んだ色とりどりの豪華な食事を前に、モニカは絶句した。
エプロン姿のエリザはサラダを取り分けると、それを彼女の前におく。
「これ、エリザが作ったの?」
「はい。エリザが作りました」
「すごいわね…」
宮廷料理人に引けを取らないほどの腕前だ。
モニカは彼女が作ったふわふわのオムレツにナイフを入れる。するとトロッと半熟の卵が流れ出てきた。
その光景に思わず唾を飲み込む。
そして、フォークに乗せたオムレツを口に含んだモニカは、大きく目を見開いてエリザを見た。
彼女のその表情にエリザからは自然と笑みが溢れる。
「美味しゅうございますか?姫様」
「ええ!すごく!」
「それは良うございました。エリザの作るものが姫様の血となり肉となるのかと思うと…滾りますわ」
「…そ、その言い方は何だか怖いわ」
「変態が滲み出てるぞ、エリザ。とりあえず座れ」
「お兄様よりはマシかと思います。では失礼して…」
エリザは自分も席につくと、実は都でも有名な料理人に弟子入りしたことがあるのだと話した。
他にも軍での傭兵経験や有名デザイナーのお針子として働いた経験など、さまざまな話をモニカにした。
「エリザはいつか姫様のお側に行くために、色々と技術を身につけましたわ」
「…そんな事、一言も言ってなかったじゃない」
「言えば止められますもの。ねえ、姫様。エリザはお兄様より優良物件ですのよ?」
炊事洗濯に針仕事、同性だからドレスの着付けやお風呂の手伝いまで全てできると彼女は胸を張ってアピールする。
「だから、お側においていただけますか?」
「そばにいてくれるの?」
「姫様がお許しをくださるのなら、未来永劫貴女に忠誠を誓います。そしてあわよくば姫様のお子を育てたいです」
「…ちょっと重くない?」
「今更気づいたのですか?重いのですよ?エリザたち兄妹は」
「貴女、そんな感じだったっけ?」
「隠していただけで、昔からこんな感じですわ」
そう言って不敵に微笑むエリザの姿は、彼の兄とよく重なる。
「エリザ、これからよろしくお願いします」
モニカは深々と頭を下げた。
すると、エリザは満足げに『こちらこそです』と笑った。
傷つけたくないからと遠ざけている間に、エリザはとんでもない令嬢に成長していた。
なぜ自分にそこまで執着してくれるのかは理解できないが、モニカは彼女が自分の側にいたいと思ってくれるかとが素直に嬉しい。
先ほどまでの不安そうな雰囲気がなくなり、本当に楽しそうに笑うモニカを見て、ジャスパーは安心したように笑みをこぼした。
「さて、姫様。これからのことですが、よろしいですか?」
「これからのこと?」
「はい。実はホークスを追い詰めることができそうなんですよね」
「…え?」
サラダをかき込みながら、ジャスパーはシレッとそう言う。
「姫様はホークスことエレノア様を追い詰めるなんて不可能だと思っているでしょう?」
「もちろんよ。だってエレノア姉様は証拠を残していない」
「確かに、直接何かをしたという決定的な証拠は得られません。けれど、実は状況的に彼女を追い詰めることができる証拠はあるのです」
ジャスパーはニヤリと口角を上げた。
そう語る彼の表情は、モニカには魔王に見えた。
22
お気に入りに追加
811
あなたにおすすめの小説
私のお金が欲しい伯爵様は離婚してくれません
みみぢあん
恋愛
祖父の葬儀から帰ったアデルは、それまで優しかった夫のピエールに、愛人と暮らすから伯爵夫人の部屋を出ろと命令される。 急に変わった夫の裏切りに激怒したアデルは『離婚してあげる』と夫に言うが… 夫は裕福な祖父の遺産相続人となったアデルとは離婚しないと言いはなつ。
実家へ連れ帰ろうと護衛騎士のクロヴィスがアデルをむかえに来るが… 帰る途中で襲撃され、2人は命の危険にさらされる。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓
ヒロインは辞退したいと思います。
三谷朱花
恋愛
リヴィアはソニエール男爵の庶子だった。15歳からファルギエール学園に入学し、第二王子のマクシム様との交流が始まり、そして、マクシム様の婚約者であるアンリエット様からいじめを受けるようになった……。
「あれ?アンリエット様の言ってることってまともじゃない?あれ?……どうして私、『ファルギエール学園の恋と魔法の花』のヒロインに転生してるんだっけ?」
前世の記憶を取り戻したリヴィアが、脱ヒロインを目指して四苦八苦する物語。
※アルファポリスのみの公開です。

【完結】初恋の伯爵は愛を求めない!買われた契約妻は恋心をひた隠す
白雨 音
恋愛
男爵令嬢のセリアは結婚を間近に控えていたが、両親の死により全てを失ってしまう。
残された負債の為、債権者の館で下女となるが、元貴族という事で、
風当たりも強く、辛い日々を送っていた。
そんなある夜、館のパーティで、セリアは一人の男性に目を奪われた。
三年前、密かに恋心を抱いた相手、伯爵レオナール___
伯爵は自分の事など記憶していないだろうが、今の姿を彼に見られたくない…
そんな気持ちとは裏腹に、セリアはパーティで目立ってしまう。
嫉妬した館の娘ルイーズの策謀で、盗人の汚名を着せられたセリア。
彼女の窮地に現れたのは、伯爵だった…
異世界恋愛 ※魔法要素はありません。《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています
綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」
公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。
「お前のような真面目くさった女はいらない!」
ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。
リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。
夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。
心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。
禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。
望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。
仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。
しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。
これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)

【完結】王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい
たまこ
恋愛
公爵令嬢のアレクサンドラは優秀な王太子妃候補だと、誰も(一部関係者を除く)が認める完璧な淑女である。
王家が開く祝賀会にて、アレクサンドラは婚約者のクリストファー王太子によって婚約破棄を言い渡される。そして王太子の隣には義妹のマーガレットがにんまりと笑っていた。衆目の下、冤罪により婚約破棄されてしまったアレクサンドラを助けたのは野獣辺境伯の異名を持つアルバートだった。
しかし、この婚約破棄、どうも裏があったようで・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる