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第一部

37:姫様症候群の曲者兄妹(1)

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「いかがでしょう?姫様」

 テーブルに並んだ色とりどりの豪華な食事を前に、モニカは絶句した。
 エプロン姿のエリザはサラダを取り分けると、それを彼女の前におく。

「これ、エリザが作ったの?」
「はい。エリザが作りました」
「すごいわね…」

 宮廷料理人に引けを取らないほどの腕前だ。
 モニカは彼女が作ったふわふわのオムレツにナイフを入れる。するとトロッと半熟の卵が流れ出てきた。
 その光景に思わず唾を飲み込む。
 そして、フォークに乗せたオムレツを口に含んだモニカは、大きく目を見開いてエリザを見た。
 彼女のその表情にエリザからは自然と笑みが溢れる。

「美味しゅうございますか?姫様」
「ええ!すごく!」
「それは良うございました。エリザの作るものが姫様の血となり肉となるのかと思うと…滾りますわ」
「…そ、その言い方は何だか怖いわ」
「変態が滲み出てるぞ、エリザ。とりあえず座れ」
「お兄様よりはマシかと思います。では失礼して…」

 エリザは自分も席につくと、実は都でも有名な料理人に弟子入りしたことがあるのだと話した。
 他にも軍での傭兵経験や有名デザイナーのお針子として働いた経験など、さまざまな話をモニカにした。

「エリザはいつか姫様のお側に行くために、色々と技術を身につけましたわ」
「…そんな事、一言も言ってなかったじゃない」
「言えば止められますもの。ねえ、姫様。エリザはお兄様より優良物件ですのよ?」

    炊事洗濯に針仕事、同性だからドレスの着付けやお風呂の手伝いまで全てできると彼女は胸を張ってアピールする。
 
「だから、お側においていただけますか?」
「そばにいてくれるの?」
「姫様がお許しをくださるのなら、未来永劫貴女に忠誠を誓います。そしてあわよくば姫様のお子を育てたいです」
「…ちょっと重くない?」
「今更気づいたのですか?重いのですよ?エリザたち兄妹は」
「貴女、そんな感じだったっけ?」
「隠していただけで、昔からこんな感じですわ」

    そう言って不敵に微笑むエリザの姿は、彼の兄とよく重なる。

「エリザ、これからよろしくお願いします」

    モニカは深々と頭を下げた。
 すると、エリザは満足げに『こちらこそです』と笑った。
 傷つけたくないからと遠ざけている間に、エリザはとんでもない令嬢に成長していた。
 なぜ自分にそこまで執着してくれるのかは理解できないが、モニカは彼女が自分の側にいたいと思ってくれるかとが素直に嬉しい。
 
 先ほどまでの不安そうな雰囲気がなくなり、本当に楽しそうに笑うモニカを見て、ジャスパーは安心したように笑みをこぼした。

「さて、姫様。これからのことですが、よろしいですか?」
「これからのこと?」
「はい。実はホークスを追い詰めることができそうなんですよね」
「…え?」

    サラダをかき込みながら、ジャスパーはシレッとそう言う。

「姫様はホークスことエレノア様を追い詰めるなんて不可能だと思っているでしょう?」
「もちろんよ。だってエレノア姉様は証拠を残していない」
「確かに、直接何かをしたという決定的な証拠は得られません。けれど、実は状況的に彼女を追い詰めることができる証拠はあるのです」

 ジャスパーはニヤリと口角を上げた。
 そう語る彼の表情は、モニカには魔王に見えた。
 
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