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第一部
35:そもそもそんな権限がないという話(1)
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結局、夕方までノアと城内をフラフラしたモニカは、赤くなった空を背に部屋へと戻った。
『今日は自分の部屋に泊まれ』とノアはしつこく言ってきたが、彼女はそれすらも振り払い、勢いよく扉を閉める。
薄暗い部屋を見渡しても、当然の如く護衛の騎士の姿はない。
「良かった。ちゃんと出て行ってくれたんだ…」
駄々をこねて残っていたらどうしようかと思っていた。だから、ジャスパーの姿がないことに心の底から安堵した。それは確かだ。
けれど、心の奥底から湧き出てくる、彼が残っていなかったことに落胆する気持ち。
(きっとこんなに長い時間、そばを離れたことがなかったから寂しいだけよ)
モニカは気持ちを誤魔化すように、テーブルの上に置いてあったいちごを一つだけ口に運んだ。
昨日の昼以降まともに食べていないからか、とても甘く感じた。
「ノア様ったら、本当に頑固なんだから…」
モニカは大きな独り言をこぼしながら、窓を開けて外の空気を取り込む。
生ぬるい風が頬を撫でた。あまり気持ちの良い風ではない。
結局、ノアは何度言っても婚約の解消を承諾しなかった。命の危険があるというのに、本当に義理堅いことだ。
「…明日、従者の方に直談判しよう」
従者の男なら主人を危険に晒すわけにはいかないと、ノアを説得してくれるかもしれない。
何としてもノアと距離を取らねば。モニカはグッと顎を上げた。
「大丈夫。一人でも大丈夫」
自分の身くらい自分で守れる。
もし、守りきれなくて死んだとしてもそれは仕方のないことだ。それが自分の寿命。
むしろこの宮殿でこの歳まで生きながらえることができた事の方が奇跡だ。
そう思うと、それだけ自分は大切に守られてきたのだと言うことを実感する。
「大丈夫、何とかなるわ。大丈夫」
ノアとの婚約がなくなれば、次はどこの誰と婚約するのだろう。さすがに4回目の婚約破棄となれば、貰い手がないかもしれない。
そう考えると、そろそろエロ親父の後妻として売り飛ばされてもおかしくはない。
けれど大丈夫だ。怖くはない。
モニカは自分に言い聞かせるように何度も大丈夫だと繰り返した。
「あ、残ってる荷物確認しとかなきゃ…」
ジャスパーの残りの荷物を確認し、それを彼の実家に送る手配をせねばならない。彼女は彼の部屋へ入った。
モニカの部屋より少し小さい部屋には、ベッドとクローゼットと小さな机しかない。非常に質素だ。
皇族の護衛を任されるほどの腕前があり、しかも貴族の子息なら、たとえ末席でも本当はもっと良い部屋が割り当てられるはず。
(私がジャスパーをこの部屋に閉じ込めたんだ…)
いつになく後ろ向きになる思考。
モニカはフルフルと頭を振り、吸い込まれるようにジャスパーのベッドに寝転んだ。
まだ微かに残る彼の匂いに安心する。
シーツに包まった彼女は頭に刺していた銀の髪留めを取り外すと、それを握りしめたまま少し目を閉じた。
きっとこんな所を見られたら、『姫様は本当に俺のことが大好きですね』とか何とか言って揶揄われる。それから、『そういうことするなら襲いますよ』とか言って軽率に触れてくることだろう。
ジャスパーに触れられるのは嫌じゃなかった。
あの手の温もりが、もう恋しい。
「…ジャスパー」
モニカは無意識に彼の名を呼んだ。すると、
「はい、何ですか?姫様」
彼によく似た声がして彼女はベッドから飛び起きた。
『今日は自分の部屋に泊まれ』とノアはしつこく言ってきたが、彼女はそれすらも振り払い、勢いよく扉を閉める。
薄暗い部屋を見渡しても、当然の如く護衛の騎士の姿はない。
「良かった。ちゃんと出て行ってくれたんだ…」
駄々をこねて残っていたらどうしようかと思っていた。だから、ジャスパーの姿がないことに心の底から安堵した。それは確かだ。
けれど、心の奥底から湧き出てくる、彼が残っていなかったことに落胆する気持ち。
(きっとこんなに長い時間、そばを離れたことがなかったから寂しいだけよ)
モニカは気持ちを誤魔化すように、テーブルの上に置いてあったいちごを一つだけ口に運んだ。
昨日の昼以降まともに食べていないからか、とても甘く感じた。
「ノア様ったら、本当に頑固なんだから…」
モニカは大きな独り言をこぼしながら、窓を開けて外の空気を取り込む。
生ぬるい風が頬を撫でた。あまり気持ちの良い風ではない。
結局、ノアは何度言っても婚約の解消を承諾しなかった。命の危険があるというのに、本当に義理堅いことだ。
「…明日、従者の方に直談判しよう」
従者の男なら主人を危険に晒すわけにはいかないと、ノアを説得してくれるかもしれない。
何としてもノアと距離を取らねば。モニカはグッと顎を上げた。
「大丈夫。一人でも大丈夫」
自分の身くらい自分で守れる。
もし、守りきれなくて死んだとしてもそれは仕方のないことだ。それが自分の寿命。
むしろこの宮殿でこの歳まで生きながらえることができた事の方が奇跡だ。
そう思うと、それだけ自分は大切に守られてきたのだと言うことを実感する。
「大丈夫、何とかなるわ。大丈夫」
ノアとの婚約がなくなれば、次はどこの誰と婚約するのだろう。さすがに4回目の婚約破棄となれば、貰い手がないかもしれない。
そう考えると、そろそろエロ親父の後妻として売り飛ばされてもおかしくはない。
けれど大丈夫だ。怖くはない。
モニカは自分に言い聞かせるように何度も大丈夫だと繰り返した。
「あ、残ってる荷物確認しとかなきゃ…」
ジャスパーの残りの荷物を確認し、それを彼の実家に送る手配をせねばならない。彼女は彼の部屋へ入った。
モニカの部屋より少し小さい部屋には、ベッドとクローゼットと小さな机しかない。非常に質素だ。
皇族の護衛を任されるほどの腕前があり、しかも貴族の子息なら、たとえ末席でも本当はもっと良い部屋が割り当てられるはず。
(私がジャスパーをこの部屋に閉じ込めたんだ…)
いつになく後ろ向きになる思考。
モニカはフルフルと頭を振り、吸い込まれるようにジャスパーのベッドに寝転んだ。
まだ微かに残る彼の匂いに安心する。
シーツに包まった彼女は頭に刺していた銀の髪留めを取り外すと、それを握りしめたまま少し目を閉じた。
きっとこんな所を見られたら、『姫様は本当に俺のことが大好きですね』とか何とか言って揶揄われる。それから、『そういうことするなら襲いますよ』とか言って軽率に触れてくることだろう。
ジャスパーに触れられるのは嫌じゃなかった。
あの手の温もりが、もう恋しい。
「…ジャスパー」
モニカは無意識に彼の名を呼んだ。すると、
「はい、何ですか?姫様」
彼によく似た声がして彼女はベッドから飛び起きた。
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