24 / 74
第一部
23:ノアの浮気(2)
しおりを挟む
男女の恋愛しか認められていないのは、同性では血を残すことができないからとか、神が認めていないからとか、色々な理由がある。
だが、一番は『それが一般的ではないから』という理由だとモニカは思う。
モニカがはじめてノアの秘密を知ったのは婚約する少し前のこと。まだ、婚約の話が決まりそうというくらいの時期の話だ。
皇帝の勧めで二人で都でも有名な劇団の舞台を観劇に行った日、モニカはその劇団の俳優がそういうタイプの人だったという噂話を小耳に挟んだ。
気持ち悪いだの汚らわしいだと騒ぐ割には、ホールの客席に座ってその俳優が出てくるのを待つ観客たちに嫌気がさした彼女は、ふと隣に座るノアを見た。
すると、彼はとても悲痛な表情をしていた。
その顔がキッカケだったらしい。
モニカは何気なくノアに尋ねた。貴方もそうなのか、と。今思うと不躾な質問だった。
ノアもはじめはそんな事ないと誤魔化していたが、噂話を面白おかしく吹聴する人たちに放った彼女の一言で、自分の秘密を打ち明ける決心をそうだ。
「『何が面白いのかしら』って。『噂話をしている自分たち顔を鏡で見たほうがよっぽど笑えると思うわ』って、モニカはしれっとそう言ったんだ」
あの時、10才の娘が観劇に来ていた客が黙らせた。皆が気まずそうに斜め下を向く。
その時の光景をノアは今でも鮮明に覚えている。
観劇の後、ノアはモニカに秘密を打ち明けた。
すると彼女はごく普通に、当たり前に受け入れてくれたそうだ。
驚いたままの顔をしているジャスパーを横目に、今度はモニカが話を続けた。
「私がね、提案したのよ。仮面夫婦になりませんかって」
当時、本当は女である自分との結婚がノアにとって辛いものとなるのなら、婚約をなかったことにしようと言うこともできたが、モニカはあえて仮面夫婦になる事を提案した。
「期限は3年間」
そう言って、モニカは指を3本立てる。
王国の法律では3年間、王国に住み続ければ永住権の取得が認められ、さらに3年間子どもが出来なければ不妊を理由に離婚が認められている。
この法律を使い、ノアとモニカは結婚して3年経てば離婚するつもりだった。
もちろん、二人は国同士の政略結婚だからそう上手くはいかないかもしれない。
けれど、ノアは上手くモニカと離婚して、彼女があちらの国で自由に生きられるような環境を整える計画をしているらしい。
王族として、一度は国のために婚姻を結ばねばならないノアと、国を出て自由になりたいモニカ。
利害は一致していたと二人は言う。
「元々、僕は祖国でもあまり重用されてないから、とりあえず一度でも結婚していればしばらくは何も言われない。そして皇帝陛下は嫁いだ後のモニカには多分興味を示さないでしょう?だから、僕たちは互いのために夫婦になろうと誓ったんだよ」
二人の話を聞いていたジャスパーは、情報が処理しきれないのか呆然と固まってしまった。
モニカもノアもそんな彼に深々と頭を下げる。
「ごめんなさい。デリケートな問題だから、貴方にも言えなくて」
「こちらの事情で言わなかったけど、でも本当はね、1番は怖くて言えなかっただけかもしれない。この話は特に男性に打ち明けると、自分もそういう目で見られるかもと思われて、その、距離を取られたりすることもあるから…。君とは良い友人でいたかったから…」
「…俺、そこまで自意識過剰じゃないっす…」
「うん。そうだね…」
大事な姫様の婚約者に恋人がいるなんて知ったら彼が怒ることくらいは容易に想像できたはずなのに、『結局、自分は自分の為に大事なことを話さなかったのだ』とノアは本当に申し訳なさそうに謝った。
困惑からか、それとも大事なことを話さなかった怒りからか、彼の声色は少し低い。
二人は恐る恐る顔を上げた。
すると、ジャスパーは険しい顔をして首を傾げていた。
「全然わかんないんですけど」
「な、何が?」
「ノア様は姫様に求婚してませんでした?」
「ん?婚約式の時のこと?」
「いや、手紙で」
「手紙?ああ、婚約を解消した頃のものかな?」
ノアは思い出したように手をポンと叩く。
彼曰く、あの時は色々あって、恋人に直接手紙を送ることも難しかった。だからモニカ宛の文に恋人への手紙を紛れ込ませて、それを届けてもらったというのがことの真相だそうだ。
「同じ封筒に同じ便箋で入ってたから、間違えて読んでしまったの」
あまりに大人で激しいラブレターだったから恥ずかしくなったと、当時を思い出したモニカは恥ずかしそうに手で顔を覆った。
「そういうこと…?」
どうやら、二人が思い合っているというのは勘違いだったらしい。
「嘘だぁ…」
自分は何を一人で悩んでいたのだろう。
気が抜けてしまったのか、ジャスパーは崩れ落ちるように机に突っ伏した。
だが、一番は『それが一般的ではないから』という理由だとモニカは思う。
モニカがはじめてノアの秘密を知ったのは婚約する少し前のこと。まだ、婚約の話が決まりそうというくらいの時期の話だ。
皇帝の勧めで二人で都でも有名な劇団の舞台を観劇に行った日、モニカはその劇団の俳優がそういうタイプの人だったという噂話を小耳に挟んだ。
気持ち悪いだの汚らわしいだと騒ぐ割には、ホールの客席に座ってその俳優が出てくるのを待つ観客たちに嫌気がさした彼女は、ふと隣に座るノアを見た。
すると、彼はとても悲痛な表情をしていた。
その顔がキッカケだったらしい。
モニカは何気なくノアに尋ねた。貴方もそうなのか、と。今思うと不躾な質問だった。
ノアもはじめはそんな事ないと誤魔化していたが、噂話を面白おかしく吹聴する人たちに放った彼女の一言で、自分の秘密を打ち明ける決心をそうだ。
「『何が面白いのかしら』って。『噂話をしている自分たち顔を鏡で見たほうがよっぽど笑えると思うわ』って、モニカはしれっとそう言ったんだ」
あの時、10才の娘が観劇に来ていた客が黙らせた。皆が気まずそうに斜め下を向く。
その時の光景をノアは今でも鮮明に覚えている。
観劇の後、ノアはモニカに秘密を打ち明けた。
すると彼女はごく普通に、当たり前に受け入れてくれたそうだ。
驚いたままの顔をしているジャスパーを横目に、今度はモニカが話を続けた。
「私がね、提案したのよ。仮面夫婦になりませんかって」
当時、本当は女である自分との結婚がノアにとって辛いものとなるのなら、婚約をなかったことにしようと言うこともできたが、モニカはあえて仮面夫婦になる事を提案した。
「期限は3年間」
そう言って、モニカは指を3本立てる。
王国の法律では3年間、王国に住み続ければ永住権の取得が認められ、さらに3年間子どもが出来なければ不妊を理由に離婚が認められている。
この法律を使い、ノアとモニカは結婚して3年経てば離婚するつもりだった。
もちろん、二人は国同士の政略結婚だからそう上手くはいかないかもしれない。
けれど、ノアは上手くモニカと離婚して、彼女があちらの国で自由に生きられるような環境を整える計画をしているらしい。
王族として、一度は国のために婚姻を結ばねばならないノアと、国を出て自由になりたいモニカ。
利害は一致していたと二人は言う。
「元々、僕は祖国でもあまり重用されてないから、とりあえず一度でも結婚していればしばらくは何も言われない。そして皇帝陛下は嫁いだ後のモニカには多分興味を示さないでしょう?だから、僕たちは互いのために夫婦になろうと誓ったんだよ」
二人の話を聞いていたジャスパーは、情報が処理しきれないのか呆然と固まってしまった。
モニカもノアもそんな彼に深々と頭を下げる。
「ごめんなさい。デリケートな問題だから、貴方にも言えなくて」
「こちらの事情で言わなかったけど、でも本当はね、1番は怖くて言えなかっただけかもしれない。この話は特に男性に打ち明けると、自分もそういう目で見られるかもと思われて、その、距離を取られたりすることもあるから…。君とは良い友人でいたかったから…」
「…俺、そこまで自意識過剰じゃないっす…」
「うん。そうだね…」
大事な姫様の婚約者に恋人がいるなんて知ったら彼が怒ることくらいは容易に想像できたはずなのに、『結局、自分は自分の為に大事なことを話さなかったのだ』とノアは本当に申し訳なさそうに謝った。
困惑からか、それとも大事なことを話さなかった怒りからか、彼の声色は少し低い。
二人は恐る恐る顔を上げた。
すると、ジャスパーは険しい顔をして首を傾げていた。
「全然わかんないんですけど」
「な、何が?」
「ノア様は姫様に求婚してませんでした?」
「ん?婚約式の時のこと?」
「いや、手紙で」
「手紙?ああ、婚約を解消した頃のものかな?」
ノアは思い出したように手をポンと叩く。
彼曰く、あの時は色々あって、恋人に直接手紙を送ることも難しかった。だからモニカ宛の文に恋人への手紙を紛れ込ませて、それを届けてもらったというのがことの真相だそうだ。
「同じ封筒に同じ便箋で入ってたから、間違えて読んでしまったの」
あまりに大人で激しいラブレターだったから恥ずかしくなったと、当時を思い出したモニカは恥ずかしそうに手で顔を覆った。
「そういうこと…?」
どうやら、二人が思い合っているというのは勘違いだったらしい。
「嘘だぁ…」
自分は何を一人で悩んでいたのだろう。
気が抜けてしまったのか、ジャスパーは崩れ落ちるように机に突っ伏した。
2
お気に入りに追加
797
あなたにおすすめの小説
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
【完結】あなただけが特別ではない
仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。
目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。
王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる