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第一部
22:ノアの浮気(1)
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その日の夜。半分欠けた月が見守る中、ジャスパーは大きく深呼吸をしてノアの前に写真を並べた。
できるだけ、夕食の片付けをしているモニカから見えないよう、体でノアとテーブルを隠しながら彼はこの写真について低い声で問い詰める。
ノアは一瞬焦ったような表情をしたものの、すぐに観念したように小さくため息をついた。
「どこでこの写真を?」
「とある伝手から」
「そうか、気をつけていたんだけどね。バレてしまったか…」
仕方がないと諦めたように呟くノア。
彼のその言葉に、ジャスパーの眉はピクッと動く。
「…バレたとはどういうことでしょうか」
「うまく隠していたつもりだったんだ。もっと気をつけないといけないね…」
「気をつけるって…」
「でもバレたのが君でよかったよ」
「…それはどういう意味ですか」
それは遊び人のジャスパーなら浮気くらい許容してもらえると思っているからだろうか。そんな考えが彼の頭をよぎる。
すると、ノアは困ったような笑顔を浮かべて後片付け中のモニカを呼んだ。
「ちょっ!」
まだ彼女に何も伝える気がなかったジャスパーは焦る。
だが色々と間に合わず、モニカの視界にノアの浮気現場の写真が入ってしまった。
「あ、姫様…これは…」
バタバタと鳥が羽ばたく時の翼のように手を動かして誤魔化そうとするが、いつもはすぐ出てくる軽口も今回ばかりは出てこない。
傷つけたくないのに、どうするのが正解かわからない彼はぎゅっと目を閉じた。
しかし……。
「あ、この間おっしゃっていた薔薇ですか?綺麗ですね!」
「うん。君の言う通りだった。気に入ってもらえたよ」
「それはよかったです。もしかして、この方が噂のお姉さんですか?」
「そうだよ。綺麗な人でしょ?」
「ええ。きっと商店街の人気者ですね」
モニカは写真を見てとても穏やかにノアと会話している。
ジャスパーはその姿を目にして唖然とした。
「…え?」
「ん?どうしたの?ジャスパー」
「え?婚約者が浮気してるのに、なんでそんな普通なんですか?」
「え!?浮気!?ノア様、浮気したの!?」
「違う違う!浮気なんてしてないよ!?」
「え?浮気でしょ?これ…さっきバレたって…」
「ああ、そうか!君から見たら浮気なのか!」
「えーっと…え?」
「あー、ちょっと待ってね。整理するから」
「はぁ…」
会話が全然噛み合わない。3人が3人とも状況を理解していない。
この場で唯一なんとなく状況を察したノアはしばらく考えた後、とりあえず二人を椅子に座らせた。
「えーっと、ジャスパーにはイチから整理して話すから、とりあえず最後まで聞いてね?」
「はい…」
ノアは心配そうに見つめるモニカに大丈夫だと声をかけると、目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。
そして、静かに目を開け、目の前に座るジャスパーを見据える。
「君が持ってきたこの写真に写っている女性は僕の恋人のお姉さんなんだ」
「恋人!?」
「まあ、最後まで聞いて。そして、僕の今の恋人があちら」
そう言ってノアが指を差した先を見ると、そこに飾られていたのは名も無き画家が描いた港町の風景画。
その絵画は昔、ノアとの婚約が破談になったあと、モニカが珍しく自分で買い付けた絵だ。
「最近少し有名になってきた画家のブライアン。それが僕の恋人の名前」
何で返すのが正解なのかわからないジャスパーは、口をパクパクとさせて目を見開いていた。
その名前から連想される恋人の姿は、おそらく一般的ではない。
動揺する彼に、ノアは少し切なそうにほほ笑んだ。
「この国でも、祖国でも認められていないから大きな声では言えないけれど、僕の恋愛対象は男性なんだよ」
できるだけ、夕食の片付けをしているモニカから見えないよう、体でノアとテーブルを隠しながら彼はこの写真について低い声で問い詰める。
ノアは一瞬焦ったような表情をしたものの、すぐに観念したように小さくため息をついた。
「どこでこの写真を?」
「とある伝手から」
「そうか、気をつけていたんだけどね。バレてしまったか…」
仕方がないと諦めたように呟くノア。
彼のその言葉に、ジャスパーの眉はピクッと動く。
「…バレたとはどういうことでしょうか」
「うまく隠していたつもりだったんだ。もっと気をつけないといけないね…」
「気をつけるって…」
「でもバレたのが君でよかったよ」
「…それはどういう意味ですか」
それは遊び人のジャスパーなら浮気くらい許容してもらえると思っているからだろうか。そんな考えが彼の頭をよぎる。
すると、ノアは困ったような笑顔を浮かべて後片付け中のモニカを呼んだ。
「ちょっ!」
まだ彼女に何も伝える気がなかったジャスパーは焦る。
だが色々と間に合わず、モニカの視界にノアの浮気現場の写真が入ってしまった。
「あ、姫様…これは…」
バタバタと鳥が羽ばたく時の翼のように手を動かして誤魔化そうとするが、いつもはすぐ出てくる軽口も今回ばかりは出てこない。
傷つけたくないのに、どうするのが正解かわからない彼はぎゅっと目を閉じた。
しかし……。
「あ、この間おっしゃっていた薔薇ですか?綺麗ですね!」
「うん。君の言う通りだった。気に入ってもらえたよ」
「それはよかったです。もしかして、この方が噂のお姉さんですか?」
「そうだよ。綺麗な人でしょ?」
「ええ。きっと商店街の人気者ですね」
モニカは写真を見てとても穏やかにノアと会話している。
ジャスパーはその姿を目にして唖然とした。
「…え?」
「ん?どうしたの?ジャスパー」
「え?婚約者が浮気してるのに、なんでそんな普通なんですか?」
「え!?浮気!?ノア様、浮気したの!?」
「違う違う!浮気なんてしてないよ!?」
「え?浮気でしょ?これ…さっきバレたって…」
「ああ、そうか!君から見たら浮気なのか!」
「えーっと…え?」
「あー、ちょっと待ってね。整理するから」
「はぁ…」
会話が全然噛み合わない。3人が3人とも状況を理解していない。
この場で唯一なんとなく状況を察したノアはしばらく考えた後、とりあえず二人を椅子に座らせた。
「えーっと、ジャスパーにはイチから整理して話すから、とりあえず最後まで聞いてね?」
「はい…」
ノアは心配そうに見つめるモニカに大丈夫だと声をかけると、目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。
そして、静かに目を開け、目の前に座るジャスパーを見据える。
「君が持ってきたこの写真に写っている女性は僕の恋人のお姉さんなんだ」
「恋人!?」
「まあ、最後まで聞いて。そして、僕の今の恋人があちら」
そう言ってノアが指を差した先を見ると、そこに飾られていたのは名も無き画家が描いた港町の風景画。
その絵画は昔、ノアとの婚約が破談になったあと、モニカが珍しく自分で買い付けた絵だ。
「最近少し有名になってきた画家のブライアン。それが僕の恋人の名前」
何で返すのが正解なのかわからないジャスパーは、口をパクパクとさせて目を見開いていた。
その名前から連想される恋人の姿は、おそらく一般的ではない。
動揺する彼に、ノアは少し切なそうにほほ笑んだ。
「この国でも、祖国でも認められていないから大きな声では言えないけれど、僕の恋愛対象は男性なんだよ」
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