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第一部
4:意地悪な姉
しおりを挟む「あらあら。モニカじゃない。どうしたの?そんなに怒って」
謁見の間に入る直前、彼女に声をかけたのは2番目の姉グレースと3番目の姉イザベラだった。
この、濃いめの化粧をした錆色頭の似た者姉妹は双子で、いつも何かとモニカを見下してくる。
いつもいつも、ただの暇つぶしで陰湿な嫌がらせをしてくるのだ。
「御機嫌よう、お姉様」
名前を呼ぶのも面倒なので、『お姉様』と一括りにする。末っ子はこういう時に便利だ。
モニカはスカートの裾をつまみ、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばす。
実に見事なカーテシー。淑女としての基本だが、これだけは誰にも負けない自信がある。
意地悪な姉二人は、そんな彼女の美しい礼に顔を顰めた。
「あなた、また婚約が破談になったそうね」
「はい、そうですね」
「かわいそうに。男爵家の小娘に婚約者を寝取られたなんて、私なら恥ずかしくてもう学園には通えませんわ」
「はあ、そうですか」
「やはり見てくれだけの女は大変ね。ねえ、グレースお姉様」
「ええ、本当に。お父様の優秀な遺伝子を受け継がなかったなんて、本当にかわいそう」
「100%母親似だものね。かわいそうに」
二人の姉は扇で口元を隠して口々にモニカを貶すような発言をする。眉を下げて、さも心配しているかのような表情を作っているが、隠していても口元がニヤついているのが丸わかりだ。
謁見の間の前に立つ衛兵は立場的に二人には何も言えないのか、それともモニカを助ける気にもならないのか、見て見ぬふりをする。
モニカは肩にかかった蜂蜜色の長い髪を後ろにやると、両手を組み、片方の足に重心を移した。
「そうですね、本当にお姉様のように男性に媚を売る才能や他人を陥れる才能でもあれば、婚約者様に愛想を尽かされず済んだのかもしれませんわ」
「なっ!」
「お姉様みたいに自分の婚約者に言いよる貴族令嬢を自殺未遂に追い込んだり、他に婚約者がいる男性に近づいて奪い取ったりなど、私にはできませんもの。本当に顔が美しいこと以外に大した才能がなくて残念です。お二人がうらやましい」
モニカは二人をバカにするように、フッと乾いた笑みをこぼした。
優秀で品行方正な一番上の第一皇女とは違い、勉強はできるが素行がかなり悪い。
故に本人たちが知っているかどうかは定かでは無いが、2人とも社交会の毒花と影で言われている。
皆、皇后の娘だから2人に何も言わないだけで、これは多くの人間が知っている事実だ。
謁見の間を守る衛兵は気まずそうに顔を伏せた。
「なっ!調子に乗ってるんじゃないわよ、妾の子のくせに!」
「妾ではありません。第2妃です。2番目ではありますが、一応正式な皇帝陛下の妃です」
「いちいち口答えしないで!」
「口答えではありません。発言の間違いを訂正しただけです」
「本当、ああ言えばこう言う子ね!」
イザベラは何を言っても堪える様子のないモニカに逆上し、顔を真っ赤にして彼女につかみかかろうとした。
だがしかし、モニカはそれをスルリ華麗なステップでかわす。結局、イザベラはグレースを巻き込んで、二人仲良くビタンと床に張り付くように盛大にこけた。
これには近くにいた衛兵や通りすがりのメイドも思わず吹き出してしまう。
そして、この様子を楽しそうに見守っていたジャスパーは『さすが。お見事です』と拍手した。
「それでは陛下に呼ばれておりますので。失礼いたしますわね、お姉様方」
モニカはにこっと微笑むと衛兵に目配せして謁見の間の扉を開けさせ、颯爽と室内に消えていった。
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