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第二章 悪魔退治
63:パーティ(3)
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私たちが会場に戻ってすぐ、オズウェル殿下は美しく着飾ったシルヴィアを伴って会場に姿を見せた。
外見だけは完璧な出涸らし王子と、地味だと思っていたのにちゃんと着飾ると普通に美人なシルヴィアのツーショットに令嬢たちは湧いた。
物語のヒロインと私を重ねて騒がれるのは、悪い気はしないが少し疲れると感じていたので、彼女たちの興味がシルヴィアに移ったのはありがたかった。
主催である殿下の挨拶が終わると、音楽が鳴り、シルヴィアと殿下はホールの中央でファーストダンスを踊った。
意外にも二人のダンスは様になっていて、綺麗だった。
「シルヴィア、ダンスが苦手って言ってたのに」
「殿下がうまくリードしているんだろう」
「へぇ……」
「意外か?」
「まあ」
「出涸らしだなんだと言われてはいるが、一応ひと通りのことはスマートにこなせる人だぞ」
「足りないのは頭くらいだと?」
「こら。失言」
ジェフリーは私の頭をコツンと小突いた。
こういう失言は甘やかさないの、好き。
そのあと、私はジェフリーや殿下とダンスを踊り、シルヴィアとお話しながら美味しいお料理を食べたりと楽しく過ごした。
パーティがこんなに楽しく感じたのはほぼ初めてかもしれない。
私はそのまま気分よく帰宅できた。
はずだった。
*
「……大丈夫なんですか?あれ」
帰りの馬車の中、私は向かいに座るジェフリーに問いかけた。
アレとはもちろん、出涸らし王子のことだ。
彼はパーティの終盤、声高らかにこう宣言した。
『私は継承法第一条の改正を目指す』
と。
継承法第一条には爵位を継承できるのは男子のみであること、継承権は当主の長子から順番に与えられること、当主との血縁関係がない者には継承権が与えられないことなどが記されている。
確かに、この厳しすぎる制限により後継者不足に悩む家が多いのは事実だが、彼のあの発言は会場をざわつかせた。
「殿下、何の根回しもしていませんよね?」
「多分な……」
「前々から問題視されていたことですが、それを第二王子であるオズウェル殿下が宣言すると意味合いがだいぶ変わってくると思うのですが……」
「そうだな」
「でも殿下はその意味をわかっておられないですよね」
「確実にな」
「ですよねぇ……」
第二王子であるオズウェル殿下が継承法の改正について発言するのは、王位に興味があると言うのとほぼ同義。本人にその意思がなくとも、彼は兄である第一王子に正面から挑戦状を突きつけたことになる。
あの宣言を聞いたとき、隣にいるシルヴィアの顔が真っ青になっていた。可哀想に。
「第一王子殿下は今夜の発言をどう捉えるでしょうか」
「第一王子は弟のことをよく理解しているから大丈夫だとは思う。でも……、周りは黙ってないだろうな。これから先、オズウェル殿下を担ぎ上げて甘い蜜を吸おうとする輩が現れる」
「今まで散々出涸らしだと罵っていたくせに?」
「傀儡にしやすそうな性格してるからなぁ」
馬鹿な奴ほど扱いやすい。これから先、オズウェル殿下は大変だろう。もちろん、隣にいるシルヴィアも。
「ジェフリーはどうなさるのですか?」
「俺は殿下に賛同するつもりだ。俺も継承法は改正が必要だと思っているからな。ただ彼を王にはしたくないから……、まあ、その辺はアルベルトと協力してうまくやるよ」
「ジェフリーやアルベルト卿がついていてくれるなら安心ですね」
「シルヴィアもいるしな」
「シルヴィアは巻き込まれたくないと婚約破棄を狙いそうな気もしますけど」
「口ではそう言うだろう。でも何だかんだと優しい子だから、見捨てないと思う。一度絆されてしまったら弱いから、あの子」
「ああ、何となくわかります」
私はシルヴィアが「もうもう」怒りながらも、オズウェル殿下のそばにいる姿を思い浮かべ、思わず笑ってしまった。
「継承法が改正されれば、私みたいな中途半端な子どもは生まれなくなりますか?」
私は馬車の窓を少し開け、外の空気を吸い込んだ。
長男以外の男子はスペアでしかなく、女子は皆、政治のコマに過ぎないこの国の、高貴で濁った空気を。
「……世の中には生まれない方が幸せだった人もいるのですよ」
私もその一人だ。
そう呟くと、ジェフリーは悲痛な顔をして私の手に自分の手を重ねた。
まるで、そんなこと言うなと言っているみたい。
「ミ……」
「えへへ。ごめんなさい。せっかく楽しかったのに」
湿っぽい空気にしてしまった。私は笑顔で誤魔化しながら、そっとジェフリーの手を離した。
外見だけは完璧な出涸らし王子と、地味だと思っていたのにちゃんと着飾ると普通に美人なシルヴィアのツーショットに令嬢たちは湧いた。
物語のヒロインと私を重ねて騒がれるのは、悪い気はしないが少し疲れると感じていたので、彼女たちの興味がシルヴィアに移ったのはありがたかった。
主催である殿下の挨拶が終わると、音楽が鳴り、シルヴィアと殿下はホールの中央でファーストダンスを踊った。
意外にも二人のダンスは様になっていて、綺麗だった。
「シルヴィア、ダンスが苦手って言ってたのに」
「殿下がうまくリードしているんだろう」
「へぇ……」
「意外か?」
「まあ」
「出涸らしだなんだと言われてはいるが、一応ひと通りのことはスマートにこなせる人だぞ」
「足りないのは頭くらいだと?」
「こら。失言」
ジェフリーは私の頭をコツンと小突いた。
こういう失言は甘やかさないの、好き。
そのあと、私はジェフリーや殿下とダンスを踊り、シルヴィアとお話しながら美味しいお料理を食べたりと楽しく過ごした。
パーティがこんなに楽しく感じたのはほぼ初めてかもしれない。
私はそのまま気分よく帰宅できた。
はずだった。
*
「……大丈夫なんですか?あれ」
帰りの馬車の中、私は向かいに座るジェフリーに問いかけた。
アレとはもちろん、出涸らし王子のことだ。
彼はパーティの終盤、声高らかにこう宣言した。
『私は継承法第一条の改正を目指す』
と。
継承法第一条には爵位を継承できるのは男子のみであること、継承権は当主の長子から順番に与えられること、当主との血縁関係がない者には継承権が与えられないことなどが記されている。
確かに、この厳しすぎる制限により後継者不足に悩む家が多いのは事実だが、彼のあの発言は会場をざわつかせた。
「殿下、何の根回しもしていませんよね?」
「多分な……」
「前々から問題視されていたことですが、それを第二王子であるオズウェル殿下が宣言すると意味合いがだいぶ変わってくると思うのですが……」
「そうだな」
「でも殿下はその意味をわかっておられないですよね」
「確実にな」
「ですよねぇ……」
第二王子であるオズウェル殿下が継承法の改正について発言するのは、王位に興味があると言うのとほぼ同義。本人にその意思がなくとも、彼は兄である第一王子に正面から挑戦状を突きつけたことになる。
あの宣言を聞いたとき、隣にいるシルヴィアの顔が真っ青になっていた。可哀想に。
「第一王子殿下は今夜の発言をどう捉えるでしょうか」
「第一王子は弟のことをよく理解しているから大丈夫だとは思う。でも……、周りは黙ってないだろうな。これから先、オズウェル殿下を担ぎ上げて甘い蜜を吸おうとする輩が現れる」
「今まで散々出涸らしだと罵っていたくせに?」
「傀儡にしやすそうな性格してるからなぁ」
馬鹿な奴ほど扱いやすい。これから先、オズウェル殿下は大変だろう。もちろん、隣にいるシルヴィアも。
「ジェフリーはどうなさるのですか?」
「俺は殿下に賛同するつもりだ。俺も継承法は改正が必要だと思っているからな。ただ彼を王にはしたくないから……、まあ、その辺はアルベルトと協力してうまくやるよ」
「ジェフリーやアルベルト卿がついていてくれるなら安心ですね」
「シルヴィアもいるしな」
「シルヴィアは巻き込まれたくないと婚約破棄を狙いそうな気もしますけど」
「口ではそう言うだろう。でも何だかんだと優しい子だから、見捨てないと思う。一度絆されてしまったら弱いから、あの子」
「ああ、何となくわかります」
私はシルヴィアが「もうもう」怒りながらも、オズウェル殿下のそばにいる姿を思い浮かべ、思わず笑ってしまった。
「継承法が改正されれば、私みたいな中途半端な子どもは生まれなくなりますか?」
私は馬車の窓を少し開け、外の空気を吸い込んだ。
長男以外の男子はスペアでしかなく、女子は皆、政治のコマに過ぎないこの国の、高貴で濁った空気を。
「……世の中には生まれない方が幸せだった人もいるのですよ」
私もその一人だ。
そう呟くと、ジェフリーは悲痛な顔をして私の手に自分の手を重ねた。
まるで、そんなこと言うなと言っているみたい。
「ミ……」
「えへへ。ごめんなさい。せっかく楽しかったのに」
湿っぽい空気にしてしまった。私は笑顔で誤魔化しながら、そっとジェフリーの手を離した。
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