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第二章 悪魔退治
41:金色の悪魔(1)
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社交シーズンに入るため、とうとう首都に向かう事になった日。私は馬車の中で不機嫌そうにするジェフリーにひたすら話しかけていた。
「……それでね、グレンの所にとうとう妹君が来たそうなのです。グレンはすごく喜んでて、手紙でも妹が可愛い事しか書いていませんでした」
「へえ……」
「でも、本当にすごいですよね。腹違いの妹をそんなに快く受け入れるなんて普通は出来ないですよ。だって多くの場合は父が母を裏切ってできた子なんて穢らわしいと思うものでしょう?それを子どもに罪はないからって。罪は母を裏切った父にあって、子にはないからって。本当に出来た人です」
「……」
「あのお人柄は母親は譲りなのかしら」
グレンの母であるバレンシュタイン伯爵夫人はとても出来た人だと思う。だってそうだろう。母親を亡くして可哀想だからと、夫の愛人の子どもを屋敷に招き入れるなんてなかなか出来ることではない。
私的にはそれだけで賞賛に値するのに、その上で夫人は優しくできる自信がないからと妹君とは自ら距離を取っているらしい。夫人の置かれた状況なら妹君をいじめてもおかしくないのに、彼女は怒りを向ける矛先を間違えずに、夫である伯爵だけを責めているのだとか。
本当に出来た人だと思う。
「私もグレンのように大きな心も持つ人になりたいわ」
車窓から見える首都の街並みを眺めながら、ポツリと呟く。
するとジェフリーは拗ねたような口調で話し出した。
「…………ミュリエル。他の男との手紙の内容をそうペラペラ話すものではないぞ」
「ジェフリーになら話してもいいと許可は得てますよ?」
「そうじゃない」
「……?」
ジェフリーはブスッとした顔で窓の外を見る。私とは目を合わそうとしない。
これはもしや、嫉妬だろうか。
「……悪かったな、器の小さい男で」
「別にそういうつもりで言ったんじゃないんですよ?」
「わかってる」
「わかってるなら拗ねないでくださいよ」
「拗ねてない」
「拗ねてます」
もう、本当に面倒臭い。私はジェフリーの隣に席を移動した。
そしてジェフリーの耳元で囁く。
「拗ねてても好き。大好き」
すると彼は耳を抑えて振り返った。
「や、やめろよ!くすぐったいだろう!?」
「だってこっちを向いてくれないから。ふふっ。ねえ、ジェフリー。好きですよ。だーい好き」
「……知ってる」
「あなたは?」
「何が?」
「言ってくれないのですか?」
「……俺がそういうこと言ったら、君は戸惑うじゃないか」
「だからそれはあなたの日頃の行いが悪いせいです」
「何だよ、日頃の行いって」
「今までの私に対する態度です。胸に手を当てて考えてみては?」
「…………」
心当たりがあるのか、ジェフリーは難しい顔をして黙り込んだ。相変わらず可愛い人だ。私はクスッと笑をこぼした。
「ほら、ジェフリー。着きましたよ。出ましょう」
いつの間にか、馬車は首都の一等地にあるオーレンドルフのタウンハウスに着いていた。
私は降りようとジェフリーに手を伸ばす。
すると彼は私の腕を強く掴み、自分の方へと引き寄せた。
「きゃっ!?」
私はバランスを崩してジェフリーの腕の中に飛び込む。
ジェフリーはそんな私をギュッと抱きしめた。
「あ、危ないじゃないですか!」
「ミュリエル」
「何です……、んむ!?」
私が顔を上げると、問答無用で口を塞がれた。もちろん塞いだのはジェフリーの唇。そう、私は今、キスをされている。
だがこれは私がよくする子どもの戯れのようなキスではなく、もっと深く激しい大人のキスで。
私は頭が沸騰しそうになった。
「んんっ!」
「ミュリエル、好きだよ」
「……!?」
「愛してる」
息継ぎの合間に囁かれる愛の言葉。やめてほしい。これ以上は明らかに私のキャパシティを超えている。
彼が唇を離した頃には、私の頭は回らなくなっていた。
「ははっ。蕩けてる」
「う、うるひゃいです」
「可愛い」
「……」
「好きだよ」
「……やだ」
「やだじゃない。君が言えと言ったんだ」
ジェフリーは私を抱きしめる手に力を込める。
そしてもう一度、今度は触れるだけのキスをした。
「君が言葉にして欲しいと言うならしてやるさ。俺がどれほど気持ちを溜め込んできたのか思い知らせてやる。覚悟しておけ」
ジェフリーはとても偉そうに言う。だが、顔が赤い。首のあたりまで真っ赤だ。
だから、そんなに恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
その後私たちは顔の火照りが収まるまで、なかなか外には出られなかった。
「……それでね、グレンの所にとうとう妹君が来たそうなのです。グレンはすごく喜んでて、手紙でも妹が可愛い事しか書いていませんでした」
「へえ……」
「でも、本当にすごいですよね。腹違いの妹をそんなに快く受け入れるなんて普通は出来ないですよ。だって多くの場合は父が母を裏切ってできた子なんて穢らわしいと思うものでしょう?それを子どもに罪はないからって。罪は母を裏切った父にあって、子にはないからって。本当に出来た人です」
「……」
「あのお人柄は母親は譲りなのかしら」
グレンの母であるバレンシュタイン伯爵夫人はとても出来た人だと思う。だってそうだろう。母親を亡くして可哀想だからと、夫の愛人の子どもを屋敷に招き入れるなんてなかなか出来ることではない。
私的にはそれだけで賞賛に値するのに、その上で夫人は優しくできる自信がないからと妹君とは自ら距離を取っているらしい。夫人の置かれた状況なら妹君をいじめてもおかしくないのに、彼女は怒りを向ける矛先を間違えずに、夫である伯爵だけを責めているのだとか。
本当に出来た人だと思う。
「私もグレンのように大きな心も持つ人になりたいわ」
車窓から見える首都の街並みを眺めながら、ポツリと呟く。
するとジェフリーは拗ねたような口調で話し出した。
「…………ミュリエル。他の男との手紙の内容をそうペラペラ話すものではないぞ」
「ジェフリーになら話してもいいと許可は得てますよ?」
「そうじゃない」
「……?」
ジェフリーはブスッとした顔で窓の外を見る。私とは目を合わそうとしない。
これはもしや、嫉妬だろうか。
「……悪かったな、器の小さい男で」
「別にそういうつもりで言ったんじゃないんですよ?」
「わかってる」
「わかってるなら拗ねないでくださいよ」
「拗ねてない」
「拗ねてます」
もう、本当に面倒臭い。私はジェフリーの隣に席を移動した。
そしてジェフリーの耳元で囁く。
「拗ねてても好き。大好き」
すると彼は耳を抑えて振り返った。
「や、やめろよ!くすぐったいだろう!?」
「だってこっちを向いてくれないから。ふふっ。ねえ、ジェフリー。好きですよ。だーい好き」
「……知ってる」
「あなたは?」
「何が?」
「言ってくれないのですか?」
「……俺がそういうこと言ったら、君は戸惑うじゃないか」
「だからそれはあなたの日頃の行いが悪いせいです」
「何だよ、日頃の行いって」
「今までの私に対する態度です。胸に手を当てて考えてみては?」
「…………」
心当たりがあるのか、ジェフリーは難しい顔をして黙り込んだ。相変わらず可愛い人だ。私はクスッと笑をこぼした。
「ほら、ジェフリー。着きましたよ。出ましょう」
いつの間にか、馬車は首都の一等地にあるオーレンドルフのタウンハウスに着いていた。
私は降りようとジェフリーに手を伸ばす。
すると彼は私の腕を強く掴み、自分の方へと引き寄せた。
「きゃっ!?」
私はバランスを崩してジェフリーの腕の中に飛び込む。
ジェフリーはそんな私をギュッと抱きしめた。
「あ、危ないじゃないですか!」
「ミュリエル」
「何です……、んむ!?」
私が顔を上げると、問答無用で口を塞がれた。もちろん塞いだのはジェフリーの唇。そう、私は今、キスをされている。
だがこれは私がよくする子どもの戯れのようなキスではなく、もっと深く激しい大人のキスで。
私は頭が沸騰しそうになった。
「んんっ!」
「ミュリエル、好きだよ」
「……!?」
「愛してる」
息継ぎの合間に囁かれる愛の言葉。やめてほしい。これ以上は明らかに私のキャパシティを超えている。
彼が唇を離した頃には、私の頭は回らなくなっていた。
「ははっ。蕩けてる」
「う、うるひゃいです」
「可愛い」
「……」
「好きだよ」
「……やだ」
「やだじゃない。君が言えと言ったんだ」
ジェフリーは私を抱きしめる手に力を込める。
そしてもう一度、今度は触れるだけのキスをした。
「君が言葉にして欲しいと言うならしてやるさ。俺がどれほど気持ちを溜め込んできたのか思い知らせてやる。覚悟しておけ」
ジェフリーはとても偉そうに言う。だが、顔が赤い。首のあたりまで真っ赤だ。
だから、そんなに恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
その後私たちは顔の火照りが収まるまで、なかなか外には出られなかった。
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