【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々

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第二章 悪魔退治

35:嵐の予感 *sideジェフリー

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 暁天に光が差し始める頃。
 俺は隣で眠るミュリエルの胸に耳を当て、心臓の鼓動を確認した。
 彼女はたまに、まるで死んでいるみたいに眠る時がある。
 呼吸の音は怖いくらいに静かで、寝返り一つ打たない。俺がうっかり大きな物音を立ててもピクリともしない。
 
「……ミュリエル、どんな夢を見ているんだ?」

 寝ている彼女に問いかける。もちろん返事はない。
 俺は彼女のその珍しい色の髪をそっと梳いた。

「はあ……」

 結論から言うと、想いが通じ合ってもミュリエルの夢遊病は治らなかった。
 最近は俺が一緒に寝ているから徘徊することはないけれど、時々夜中に突然起き上がり、虚ろな目をして部屋の外へと行こうとすることがある。
 俺はその度にミュリエルに声をかけ、彼女を夢の世界へと引き戻す。

 ーーー金色の悪魔が襲ってくるのです

 夢の話を振ると、ミュリエルはよくその話をする。
 ただの悪夢の話かとも思ったが、俺は金色の悪魔なんて聞いたことがない。神話でも伝承でも絵本でも、俺の知る悪魔は黒色をしている。
 金色の悪魔、それが何を意味するのかはよくわからない。けれど、何だか良くないことを表しているようで少し怖い。

「あ、雨……」

 急に雨が降り出した。
 東の空に稲光が走り、横殴りの雨が窓を打つ。
 
 もうすぐ、春の嵐がやってくる。
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