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第一章 お姉様の婚約者
30:巻き込まれる(7)
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細く薄暗い通路を、靴を持って駆け抜ける。この一本道は何処に続いているのだろう。
「あの、アルベルト卿は置いてきて大丈夫なのですか?」
「大丈夫だろう」
「でもあの人数を1人で、なんて」
「全員と戦うわけじゃない。武装集団の装備はあいつと大差ないし、そもそもあいつは化け物みたいに強いからな」
学園では騎士科に所属し、学生時代の試合は負けなし。
国王陛下が直々に近衛騎士になることを説得したほどの腕前。
アルベルト・バレンシュタインは間違いなく王国一の剣士らしい。
「そんな方が何故、出涸らしの騎士団に?」
「こら、出涸らし言うな。本人の希望だよ。あいつには上下関係の厳しい職場は合わないから。普通に先輩に楯突くしな」
「あー、なるほど」
彼のことはよく知らないのに、何故だか納得してしまう。何かそういうところありそう。
「なあ、舞台用の機材が多くないか?この通路」
「関係者用通路だからでは?」
「いや、そうじゃなくて。俺が1階席に来る時に通った通路より、本番に使う道具が多いような気が…………。ミュリエル、止まれ」
「え?」
前を行くジェフリーは急に足を止めた。
そしてゆっくりと後退り、近くの棚の影に隠れる。
私が棚の影から通路の先を見ると、そこには武装した男が1人立っていた。
彼の近くには小さな階段が見え、その階段から光が漏れていた。
「ここ、舞台袖か」
「まさかここに繋がっているとは」
もう迷宮だ。この劇場は作り替えたほうがいい。とりあえず、ちゃんと避難経路は確保してほしい。
「どうしましょうか」
「そろそろ警備隊が突入するころだろう。ここで待機して……」
「でも、カーライル子爵令息はすぐそこです」
「……」
「突入されたら彼は真っ先にその喉を切り裂くでしょう。彼は短剣を持っていましたので」
「彼の存在を忘れてくれていることを期待していたのに。ほんと、お人よし」
「彼のためじゃないです。ただの自己満足です」
「自分の命を危険に晒してまですることじゃないって言ってるんだよ。ったく……、生け捕りにすれば良いのか?」
「まあ、はい。そうですね」
「なら、もう少し待て。警備隊の突入すればあそこの男は表に出る。その隙に舞台上に走ってカーライルを確保する」
できるかはわからないけど、と保険をかけつつも、ジェフリーは上着を脱いでシャツの袖を捲った。
私もできるかかなり身軽に動けるように、ドレスの装飾をはずす。本当は下着になりたいけど流石にそれははしたない。
「……来たな」
表が急に騒がしくなった。アルベルト卿が扉を開放したのだろう。私は棚の影から顔を出し、舞台袖を見る。武装した男が袖から舞台へと上がる様子が見えた。
しかしその時。運悪くドレスの袖のレースが棚に積まれていた機材に引っかかり、機材が棚から落ちた。
ガシャーンと、大きな音が静かな通路に響く。
ジェフリーはすかさず私の口を抑え、棚の陰に隠れた。
「ご、ごめんなさい」
「喋るな。黙ってろ」
ジェフリーは後ろからギュッと私を抱きしめる。そしてズボンのポケットから銃を取り出して右手に握った。
銃を握るその手は微かに震えていた。
これはダメなやつだ。この状態の人間が銃など扱えるわけがない。
近づいてくる男の足音。軍用ブーツだろうか、音に重みがある。
「借りますよ」
仕方がない。私はジェフリーの手から銃を取ると、するりと体を回転させ彼の腕から抜け出した。
「おい、ミュリエル!?」
「先手必勝です!」
「はあ!?」
こういうのはスピード勝負。長引かせるほど不利になる。姉様の教えだ。
私は困惑するジェフリーを横目に、男の前に飛び出した。
そして姿勢を低くして銃を構え、彼の足を撃ち抜く。二発の銃声とともに男は呻き声をあげて蹲った。
「ジェフリー、行きますよ!」
私は振り返り、ジェフリーに手を差し出した。
「あの、アルベルト卿は置いてきて大丈夫なのですか?」
「大丈夫だろう」
「でもあの人数を1人で、なんて」
「全員と戦うわけじゃない。武装集団の装備はあいつと大差ないし、そもそもあいつは化け物みたいに強いからな」
学園では騎士科に所属し、学生時代の試合は負けなし。
国王陛下が直々に近衛騎士になることを説得したほどの腕前。
アルベルト・バレンシュタインは間違いなく王国一の剣士らしい。
「そんな方が何故、出涸らしの騎士団に?」
「こら、出涸らし言うな。本人の希望だよ。あいつには上下関係の厳しい職場は合わないから。普通に先輩に楯突くしな」
「あー、なるほど」
彼のことはよく知らないのに、何故だか納得してしまう。何かそういうところありそう。
「なあ、舞台用の機材が多くないか?この通路」
「関係者用通路だからでは?」
「いや、そうじゃなくて。俺が1階席に来る時に通った通路より、本番に使う道具が多いような気が…………。ミュリエル、止まれ」
「え?」
前を行くジェフリーは急に足を止めた。
そしてゆっくりと後退り、近くの棚の影に隠れる。
私が棚の影から通路の先を見ると、そこには武装した男が1人立っていた。
彼の近くには小さな階段が見え、その階段から光が漏れていた。
「ここ、舞台袖か」
「まさかここに繋がっているとは」
もう迷宮だ。この劇場は作り替えたほうがいい。とりあえず、ちゃんと避難経路は確保してほしい。
「どうしましょうか」
「そろそろ警備隊が突入するころだろう。ここで待機して……」
「でも、カーライル子爵令息はすぐそこです」
「……」
「突入されたら彼は真っ先にその喉を切り裂くでしょう。彼は短剣を持っていましたので」
「彼の存在を忘れてくれていることを期待していたのに。ほんと、お人よし」
「彼のためじゃないです。ただの自己満足です」
「自分の命を危険に晒してまですることじゃないって言ってるんだよ。ったく……、生け捕りにすれば良いのか?」
「まあ、はい。そうですね」
「なら、もう少し待て。警備隊の突入すればあそこの男は表に出る。その隙に舞台上に走ってカーライルを確保する」
できるかはわからないけど、と保険をかけつつも、ジェフリーは上着を脱いでシャツの袖を捲った。
私もできるかかなり身軽に動けるように、ドレスの装飾をはずす。本当は下着になりたいけど流石にそれははしたない。
「……来たな」
表が急に騒がしくなった。アルベルト卿が扉を開放したのだろう。私は棚の影から顔を出し、舞台袖を見る。武装した男が袖から舞台へと上がる様子が見えた。
しかしその時。運悪くドレスの袖のレースが棚に積まれていた機材に引っかかり、機材が棚から落ちた。
ガシャーンと、大きな音が静かな通路に響く。
ジェフリーはすかさず私の口を抑え、棚の陰に隠れた。
「ご、ごめんなさい」
「喋るな。黙ってろ」
ジェフリーは後ろからギュッと私を抱きしめる。そしてズボンのポケットから銃を取り出して右手に握った。
銃を握るその手は微かに震えていた。
これはダメなやつだ。この状態の人間が銃など扱えるわけがない。
近づいてくる男の足音。軍用ブーツだろうか、音に重みがある。
「借りますよ」
仕方がない。私はジェフリーの手から銃を取ると、するりと体を回転させ彼の腕から抜け出した。
「おい、ミュリエル!?」
「先手必勝です!」
「はあ!?」
こういうのはスピード勝負。長引かせるほど不利になる。姉様の教えだ。
私は困惑するジェフリーを横目に、男の前に飛び出した。
そして姿勢を低くして銃を構え、彼の足を撃ち抜く。二発の銃声とともに男は呻き声をあげて蹲った。
「ジェフリー、行きますよ!」
私は振り返り、ジェフリーに手を差し出した。
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