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26:共同戦線を張る
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実は初めからアメリの正体がロイだと知っていたこと、そしてアメリを餌として利用しようとしていること等をざっくりと説明されたアーノルドは、隣でニコニコと嬉しそうに微笑むシエナを見て複雑な表情を浮かべた。
自分の馬鹿げた悪戯が、こんな大事になっているなど思いもよらなかったのだ。冷静に考えると…いや、冷静に考えずとも末恐ろしい女である。
「まあ、そういう抜け目ないところも好きだけどさ…」
「怖い?」
「怖い」
素直に怖いと言われてクスクスと笑うシエナ。怖いと言われて喜んでいるなんて、やはり変わっている。
「…それで?俺に何をさせたいんだ?」
恐る恐る尋ねてくるアーノルドに、シエナは難しいことを頼むつもりはないと言った。
「とりあえず、定期的にアメリの部屋に通って欲しい」
「それは愛人アメリが皇帝の寵愛を受けていることを周囲に示すためか?」
「その通り。ちなみに、もう既にターゲットの3人は接触してきたわ」
「もう!?早いな…」
アーノルドはあまりの行動の速さに、驚いたような呆れたような顔をした。シエナはそんな彼にそっとマーシャからの報告書を渡す。
そこにはステュアート公爵とハワード枢機卿が訪れたときの会話の録音記録が記されていた。
「…本当に叔父は碌なことを言わないな」
会話の記録を軽く流し見たアーノルドは、シエナの悪口や、いかに自分が富と名声を得ているかの自慢話などを延々としている叔父の姿を想像し、フッと自嘲するように息を吐き出した。
よくいる悪徳貴族そのものの叔父には昔から嫌悪していたが、最近は輪にかけてひどい。
何か彼の自己愛を肥大させる出来事でもあったのだろうかと勘ぐってしまう。
「ステュアート公爵はアメリに珍しい宝石のついたネックレスを渡したらしいわ」
「珍しい宝石?」
「前皇帝の時代に属国となった公国の名産よ」
「ああ、あれか。かなり高いだろうに…」
「不思議なこともあるものですわねー」
シエナのその言葉にはかなりの皮肉が込められていた。
公国の宝石はかなり高価な物だ。麻薬問題で疲弊しているはずの公爵家がそう易々と買える代物ではない。
「公爵は麻薬問題に関して何か言っていたか?」
「いいえ。ロイが帰り際にさりげなく話を振ってみたそうだけど、問題解決に全力で取り組んでいるという返事しか返って来なかったみたい」
「よく言うよ。都に出てきたまま領地の様子を見に行くこともしないくせに」
ステュアート公爵はこの問題を軽く見ているのか、それとも何か意図があってのことなのか、真剣に取り組もうとしない。
人材も金も融通を効かせているが、表面的な解決策だけを書類で提出して仕事をした気でいる。
アーノルドはあの丸々と肉づいた顔を思い出し鼻で笑った。
「それにしても、ハワード枢機卿の方は要注意だな」
黒い噂があるのに、何故か民からの信頼は厚い上にぱっと見は善人だ。
大衆を操る術を知っているからこそ、彼は余計に怖く感じる。
「どうにも食えないというイメージがあるわ。あの方は少し苦手」
「わかる。俺も苦手」
「まあ、どれだけ苦手でも明日会わないといけないんだけどね。ついでに探ってくるわ」
「探ってくるって…」
明日のシエナの公務は帝国の安寧を祈願する祈祷に参加することだ。
月に一度の大役ついでに探りを入れてくるとシエナは簡単に言うが、ケラケラと笑う彼女にアーノルドは一抹の不安を覚えた。
「…無茶はするなよ」
「…何よ、その顔」
「だってスッキリした顔してるから…。その顔してる時のシエナは思い切りがいい」
「失礼ね。私はもう皇后なのよ?大丈夫よ」
肩の荷が降りたようにすっきしとした表情を見せる妻に、アーノルドは不安になりながらも『ハワード枢機卿の方は頼んだ』と告げ、手を差し出す。
シエナは首を傾げながら彼が差し出した手に触れた。
「何これ」
「ここから先は帝国のために協力しようっていう俺の意思」
「そう。ではこれはこれから先も貴女の妻として共にこの国を守ると誓う私の意思よ」
互いにじっと見つめ合い、二人は固い握手を交わした。
その夜、二人は子供の頃のように手を繋いで眠ったそうだ。
自分の馬鹿げた悪戯が、こんな大事になっているなど思いもよらなかったのだ。冷静に考えると…いや、冷静に考えずとも末恐ろしい女である。
「まあ、そういう抜け目ないところも好きだけどさ…」
「怖い?」
「怖い」
素直に怖いと言われてクスクスと笑うシエナ。怖いと言われて喜んでいるなんて、やはり変わっている。
「…それで?俺に何をさせたいんだ?」
恐る恐る尋ねてくるアーノルドに、シエナは難しいことを頼むつもりはないと言った。
「とりあえず、定期的にアメリの部屋に通って欲しい」
「それは愛人アメリが皇帝の寵愛を受けていることを周囲に示すためか?」
「その通り。ちなみに、もう既にターゲットの3人は接触してきたわ」
「もう!?早いな…」
アーノルドはあまりの行動の速さに、驚いたような呆れたような顔をした。シエナはそんな彼にそっとマーシャからの報告書を渡す。
そこにはステュアート公爵とハワード枢機卿が訪れたときの会話の録音記録が記されていた。
「…本当に叔父は碌なことを言わないな」
会話の記録を軽く流し見たアーノルドは、シエナの悪口や、いかに自分が富と名声を得ているかの自慢話などを延々としている叔父の姿を想像し、フッと自嘲するように息を吐き出した。
よくいる悪徳貴族そのものの叔父には昔から嫌悪していたが、最近は輪にかけてひどい。
何か彼の自己愛を肥大させる出来事でもあったのだろうかと勘ぐってしまう。
「ステュアート公爵はアメリに珍しい宝石のついたネックレスを渡したらしいわ」
「珍しい宝石?」
「前皇帝の時代に属国となった公国の名産よ」
「ああ、あれか。かなり高いだろうに…」
「不思議なこともあるものですわねー」
シエナのその言葉にはかなりの皮肉が込められていた。
公国の宝石はかなり高価な物だ。麻薬問題で疲弊しているはずの公爵家がそう易々と買える代物ではない。
「公爵は麻薬問題に関して何か言っていたか?」
「いいえ。ロイが帰り際にさりげなく話を振ってみたそうだけど、問題解決に全力で取り組んでいるという返事しか返って来なかったみたい」
「よく言うよ。都に出てきたまま領地の様子を見に行くこともしないくせに」
ステュアート公爵はこの問題を軽く見ているのか、それとも何か意図があってのことなのか、真剣に取り組もうとしない。
人材も金も融通を効かせているが、表面的な解決策だけを書類で提出して仕事をした気でいる。
アーノルドはあの丸々と肉づいた顔を思い出し鼻で笑った。
「それにしても、ハワード枢機卿の方は要注意だな」
黒い噂があるのに、何故か民からの信頼は厚い上にぱっと見は善人だ。
大衆を操る術を知っているからこそ、彼は余計に怖く感じる。
「どうにも食えないというイメージがあるわ。あの方は少し苦手」
「わかる。俺も苦手」
「まあ、どれだけ苦手でも明日会わないといけないんだけどね。ついでに探ってくるわ」
「探ってくるって…」
明日のシエナの公務は帝国の安寧を祈願する祈祷に参加することだ。
月に一度の大役ついでに探りを入れてくるとシエナは簡単に言うが、ケラケラと笑う彼女にアーノルドは一抹の不安を覚えた。
「…無茶はするなよ」
「…何よ、その顔」
「だってスッキリした顔してるから…。その顔してる時のシエナは思い切りがいい」
「失礼ね。私はもう皇后なのよ?大丈夫よ」
肩の荷が降りたようにすっきしとした表情を見せる妻に、アーノルドは不安になりながらも『ハワード枢機卿の方は頼んだ』と告げ、手を差し出す。
シエナは首を傾げながら彼が差し出した手に触れた。
「何これ」
「ここから先は帝国のために協力しようっていう俺の意思」
「そう。ではこれはこれから先も貴女の妻として共にこの国を守ると誓う私の意思よ」
互いにじっと見つめ合い、二人は固い握手を交わした。
その夜、二人は子供の頃のように手を繋いで眠ったそうだ。
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