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7:愛人と皇后(2)

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 シエナは小刻みに震えて怯えている様子の愛人に優しく微笑みかけた。

「そんなに緊張しないで…、なんて言っても緊張してしまうわよね。けれど本当に意地悪しようと思ってるわけではないの。少し聞きたい事があって…」
「き、聞きたい事ですか?」

 ロイは思わず声が裏返る。
 『アメリ』という女の設定についてあまり深く考えていないため、陛下とどこで出会ったのかとか、出身地とかについて聞かれても答えられない。

(まずいまずいまずい…)

 根掘り葉掘り聞かれれば確実にバレる。ロイはギュッと目を閉じた。
 しかし…。

「アメリさん。無理やりではないわよね」

 シエナの質問は彼の予想していたものではなかった。

「…へ?」
「陛下があなたを無理やりここをへ連れてきたわけではないわね?」
「は、はい」
「良かった。ではあなたの意思であなたはここにいると思って接して良いわね?」
「はい。大丈夫、です…」

 その返答に、シエナは心の底から安堵したような表情を見せる。

(…まじか)

 どうやらロイの主人は、妻に『一方的な感情でアメリを愛人にした最低男』と思われていたらしい。哀れアーノルド。
 ロイは仕方なく、主人の名誉のために全力で『彼が無理矢理連れてきたのではなく、二人が愛し合った末にこうなったのだ』と説明した。

 そして、説明し終えたところで、ふと彼は気づく。

(あれ?良くない方向に進んでいる気がする…)

 アーノルドが女性を無理矢理従わせるような最低な男ではないということを説明するため、彼の妻に愛人とのラブラブ具合(妄想)を語ってしまったが、これは愛人が正妻に対しマウントを取ったとほぼ同義だ。
 正妻にマウントを取るなど、身の程知らずにも程がある。ロイは処刑が確定したと思った。

「そう、そんなに愛し合っているの。そう…」

 シエナはマウントを取ってくる愛人に対して微笑みを崩すことなく、そう呟くと、彼女…ではなく彼の手を取る。
 ロイは恐怖のあまり強く拳を握るが、力尽くでその手は開かれた。意外に怪力だ。

「あ、あの…」
「これを貴女に渡しておきます」

 そう言って彼女は胸元から小さな小瓶を取り出し、それを彼の手のひらに乗せた。

(…収納場所、そこー!?)

 胸元から小瓶を取り出した場面を見たことをアーノルドに知られたら、多分殺されるだろうなとロイは思った。

「こ、これは一体…」

 ツッコミを入れたいが入れられないロイは、とりあえず自分の手の中にあるものが何なのかを尋ねる。
 するとシエナは不敵な笑みを浮かべこう言った。

「これは堕胎剤です」  
「だ、だだだだだ?」

 堕胎剤を渡されたロイは固まってしまった。
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