7 / 60
7:愛人と皇后(2)
しおりを挟むシエナは小刻みに震えて怯えている様子の愛人に優しく微笑みかけた。
「そんなに緊張しないで…、なんて言っても緊張してしまうわよね。けれど本当に意地悪しようと思ってるわけではないの。少し聞きたい事があって…」
「き、聞きたい事ですか?」
ロイは思わず声が裏返る。
『アメリ』という女の設定についてあまり深く考えていないため、陛下とどこで出会ったのかとか、出身地とかについて聞かれても答えられない。
(まずいまずいまずい…)
根掘り葉掘り聞かれれば確実にバレる。ロイはギュッと目を閉じた。
しかし…。
「アメリさん。無理やりではないわよね」
シエナの質問は彼の予想していたものではなかった。
「…へ?」
「陛下があなたを無理やりここをへ連れてきたわけではないわね?」
「は、はい」
「良かった。ではあなたの意思であなたはここにいると思って接して良いわね?」
「はい。大丈夫、です…」
その返答に、シエナは心の底から安堵したような表情を見せる。
(…まじか)
どうやらロイの主人は、妻に『一方的な感情でアメリを愛人にした最低男』と思われていたらしい。哀れアーノルド。
ロイは仕方なく、主人の名誉のために全力で『彼が無理矢理連れてきたのではなく、二人が愛し合った末にこうなったのだ』と説明した。
そして、説明し終えたところで、ふと彼は気づく。
(あれ?良くない方向に進んでいる気がする…)
アーノルドが女性を無理矢理従わせるような最低な男ではないということを説明するため、彼の妻に愛人とのラブラブ具合(妄想)を語ってしまったが、これは愛人が正妻に対しマウントを取ったとほぼ同義だ。
正妻にマウントを取るなど、身の程知らずにも程がある。ロイは処刑が確定したと思った。
「そう、そんなに愛し合っているの。そう…」
シエナはマウントを取ってくる愛人に対して微笑みを崩すことなく、そう呟くと、彼女…ではなく彼の手を取る。
ロイは恐怖のあまり強く拳を握るが、力尽くでその手は開かれた。意外に怪力だ。
「あ、あの…」
「これを貴女に渡しておきます」
そう言って彼女は胸元から小さな小瓶を取り出し、それを彼の手のひらに乗せた。
(…収納場所、そこー!?)
胸元から小瓶を取り出した場面を見たことをアーノルドに知られたら、多分殺されるだろうなとロイは思った。
「こ、これは一体…」
ツッコミを入れたいが入れられないロイは、とりあえず自分の手の中にあるものが何なのかを尋ねる。
するとシエナは不敵な笑みを浮かべこう言った。
「これは堕胎剤です」
「だ、だだだだだ?」
堕胎剤を渡されたロイは固まってしまった。
30
お気に入りに追加
3,501
あなたにおすすめの小説
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
【完結】これからはあなたに何も望みません
春風由実
恋愛
理由も分からず母親から厭われてきたリーチェ。
でももうそれはリーチェにとって過去のことだった。
結婚して三年が過ぎ。
このまま母親のことを忘れ生きていくのだと思っていた矢先に、生家から手紙が届く。
リーチェは過去と向き合い、お別れをすることにした。
※完結まで作成済み。11/22完結。
※完結後におまけが数話あります。
※沢山のご感想ありがとうございます。完結しましたのでゆっくりですがお返事しますね。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】指輪はまるで首輪のよう〜夫ではない男の子供を身籠もってしまいました〜
ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のソフィアは、父親の命令で伯爵家へ嫁ぐこととなった。
父親からは高位貴族との繋がりを作る道具、嫁ぎ先の義母からは子供を産む道具、夫からは性欲処理の道具……
とにかく道具としか思われていない結婚にソフィアは絶望を抱くも、亡き母との約束を果たすために嫁ぐ覚悟を決める。
しかし最後のわがままで、ソフィアは嫁入りまでの2週間を家出することにする。
そして偶然知り合ったジャックに初恋をし、夢のように幸せな2週間を過ごしたのだった......
その幸せな思い出を胸に嫁いだソフィアだったが、ニヶ月後に妊娠が発覚する。
夫ジェームズとジャック、どちらの子かわからないままソフィアは出産するも、産まれて来た子はジャックと同じ珍しい赤い瞳の色をしていた。
そしてソフィアは、意外なところでジャックと再会を果たすのだった……ーーー
ソフィアと息子の人生、ソフィアとジャックの恋はいったいどうなるのか……!?
※毎朝6時更新
※毎日投稿&完結目指して頑張りますので、よろしくお願いします^ ^
※2024.1.31完結
いっそあなたに憎まれたい
石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。
貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。
愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。
三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。
そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。
誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。
これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。
花婿が差し替えられました
凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。
元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。
その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。
ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。
※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。
ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。
こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。
出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです!
※すみません、100000字くらいになりそうです…。
【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様
すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。
彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。
そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。
ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。
彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。
しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。
それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。
私はお姉さまの代わりでしょうか。
貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。
そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。
8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された
この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE
MAGI様、ありがとうございます!
イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる