71 / 71
68:聖女爆誕(5)
しおりを挟む
帝都に入り、真っ先に城に向かうつもりだったジェレミーだが、その途中でハイネ公爵家の旗を掲げた軍団を見かけた。
嫌な予感がし、軍団の先頭まで走ると鬼の形相のハイネ公爵がいた。
彼におおよその事情を聞いたジェレミーは、『先に行きます』とひと言残し、他の追従を許さない速度で帝都を駆け抜けて教会まで来たそうだ。
「出る幕がなかったな」
ジェレミーのなけなしの理性により、かろうじて息をしている程度の裏切り者たちを見下ろし、ハイネ公爵はため息をこぼした。
まさか自分が後始末に回ることになろうとは思いもしなかったのだろう。
リリアンを連れてさっさと城に戻ってしまった彼を思い出し、公爵は苦笑するしかなかった。
「成長したな、ジェレミー殿下も」
「そう、ですね?」
公爵の戯言に部下は首を傾げた。
それはそこそこの強さの魔法師とイライザをまとめて相手にして、傷一つなかったジェレミーを褒め称えた言葉なのか、それともジェレミーが怒りに任せて奴らを殺さなかった事に対する賞賛なのか、判断ができなかったのだ。
曖昧な反応を返してしまった部下の男はそれよりも、と話題を変えた。
「お嬢様こそ、さすがですよ。あんな広域浄化の魔法を何の下準備もなしに使うだなんて。人々はお嬢様のことをまるで聖女様だと騒いでおります」
「才能があるからなぁ、うちの誰よりも。だが、多くの人に見られたのは厄介だな」
「なぜですか?」
「聖女のイメージがついては困るだろう。本人はあんな感じなのに」
「確かに」
「それに……」
「それに?」
「……いや、まあいい。それより報告だ」
「あ、はい。まず囚われていた人々ですが、治療施して騎士団に身柄を引き渡しました。事情を聞いた後、今後のことを決めるそうです」
「皇后陛下は?」
「先程、陛下に付き添われて城へ向かわれました」
「聖教国から連絡はあったか?」
「ヨハネス殿下より、聖下がすぐこちらに向かわれるとの連絡がありました」
「そのヨハネス殿下は今どちらに?」
「グレイス家の件は部下に任せ、殿下もすぐこちらに来られるそうです」
「そうか。ではあとはヨハネス殿下と陛下直属の部隊に任せるとしよう」
「……へ?」
ハイネ公爵は腕を鳴らし、肩を回した。
そしてキョトンとする部下に対し、ニヤリと口角を上げた。
「裏切り者どもの話ではエルデンブルクの魔法師がこちらに向かっているのだろう?」
「ああ、なるほど」
「ならば、遊んでやらんとな?」
どういう経緯かは知らないが、このまま戦争になるだろう。
ハイネ公爵は魔法師部隊を引き連れ、公国の魔法師の迎撃へと向かった。
嫌な予感がし、軍団の先頭まで走ると鬼の形相のハイネ公爵がいた。
彼におおよその事情を聞いたジェレミーは、『先に行きます』とひと言残し、他の追従を許さない速度で帝都を駆け抜けて教会まで来たそうだ。
「出る幕がなかったな」
ジェレミーのなけなしの理性により、かろうじて息をしている程度の裏切り者たちを見下ろし、ハイネ公爵はため息をこぼした。
まさか自分が後始末に回ることになろうとは思いもしなかったのだろう。
リリアンを連れてさっさと城に戻ってしまった彼を思い出し、公爵は苦笑するしかなかった。
「成長したな、ジェレミー殿下も」
「そう、ですね?」
公爵の戯言に部下は首を傾げた。
それはそこそこの強さの魔法師とイライザをまとめて相手にして、傷一つなかったジェレミーを褒め称えた言葉なのか、それともジェレミーが怒りに任せて奴らを殺さなかった事に対する賞賛なのか、判断ができなかったのだ。
曖昧な反応を返してしまった部下の男はそれよりも、と話題を変えた。
「お嬢様こそ、さすがですよ。あんな広域浄化の魔法を何の下準備もなしに使うだなんて。人々はお嬢様のことをまるで聖女様だと騒いでおります」
「才能があるからなぁ、うちの誰よりも。だが、多くの人に見られたのは厄介だな」
「なぜですか?」
「聖女のイメージがついては困るだろう。本人はあんな感じなのに」
「確かに」
「それに……」
「それに?」
「……いや、まあいい。それより報告だ」
「あ、はい。まず囚われていた人々ですが、治療施して騎士団に身柄を引き渡しました。事情を聞いた後、今後のことを決めるそうです」
「皇后陛下は?」
「先程、陛下に付き添われて城へ向かわれました」
「聖教国から連絡はあったか?」
「ヨハネス殿下より、聖下がすぐこちらに向かわれるとの連絡がありました」
「そのヨハネス殿下は今どちらに?」
「グレイス家の件は部下に任せ、殿下もすぐこちらに来られるそうです」
「そうか。ではあとはヨハネス殿下と陛下直属の部隊に任せるとしよう」
「……へ?」
ハイネ公爵は腕を鳴らし、肩を回した。
そしてキョトンとする部下に対し、ニヤリと口角を上げた。
「裏切り者どもの話ではエルデンブルクの魔法師がこちらに向かっているのだろう?」
「ああ、なるほど」
「ならば、遊んでやらんとな?」
どういう経緯かは知らないが、このまま戦争になるだろう。
ハイネ公爵は魔法師部隊を引き連れ、公国の魔法師の迎撃へと向かった。
12
お気に入りに追加
325
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(13件)
あなたにおすすめの小説
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
えっと
嫌な予感(4)はないのでしょうか?
話の繋がりに違和感はありませんでしたが。
タイトルを間違えていました!ご指摘ありがとうございます!💦
わぁ!更新ありがとうございます♡
リリアンに飢えていたので嬉しいです。
リリアンずっとめっちゃカッコイイっす♫
完全に惚れてます‥私。
でもジェレミーに負けちゃうんだろうけど…笑
キースもやっぱ凄腕なんですね!?そりゃそうか!
いえーい!
連続更新!
ありがとうございますm(_ _)m