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48:どいつもこいつも(2)
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「……ジェレミー殿下に何かされたのか?」
「へ?」
「まさか、無理矢理……」
そこまで言って、ベルンハルトはわざとらしく手で口元を抑える。
リリアンは彼の目元が細くなるのを見て、気づいた。
(しまった!)
こんな所でそんな意味ありげなことを言われては……。
リリアンはヨハネスを見た。
すると、彼のエメラルドの瞳が怒りと嫉妬に揺れる。
「リリアン。陛下のところに行こう。私たちが悪かった。今すぐにでも婚約を解消するよう、陛下に……」
「はい?」
「私はジェレミーを信用し過ぎた。まさか君に乱暴するなんて思ってもみなかったから。すまない」
「ら、乱暴なんてされてませんわ!誤解です!」
むしろ、乱暴したのはこちらの方なのだが。
リリアンは慌てて否定した。
だが噂話を信じている周囲も、その噂が本当であることを望んでいるダニエルも、ヨハネス本人でさえ、リリアンの言葉に耳を傾けない。
彼女の言葉を『リリアンは優しいから、ジェレミーを庇っているだけ』と勝手に解釈して、彼女の本心を理解しようとしない。
「ベルンハルト・シュナイダー……。何を企んでいるの?」
リリアンはベルンハルトを睨みつけた。しかし、彼はほくそ笑むだけで何も答えない。
何が目的なのか。ヨハネスとリリアンを婚約させたいというよりも、ジェレミーとリリアンを引き離したいという意図が働いているように思う。
けれど、それをして彼に何の得があるというのか。
ベルンハルトはハイネ家の傘下であるシュナイダー伯爵家の人間。
ならば個人的な怨恨の可能性も考えられるが、ジェレミーとベルンハルトには、彼が騎士団に入るまで接点はなかった。
「ベルン、答えて」
「リリアン。ヨハネス殿下が全部解決してくれる。君は殿下の元で幸せになるんだ。ジェレミー殿下のそばにいちゃいけない」
「どういう意味よ!」
「リリアン、心配しなくて良い。早く陛下の所へ行こう」
ヨハネスはベルンハルトとの会話に割り入り、リリアンの手を引いた。
その手を引く力は強く、少し痛かった。
女性の扱いに慣れている彼らしくない強引さ。
リリアンはその手を振り払った。
女性に手を振り払われた事などない彼は目を丸くして、自分の手を見つめる。
「嫌です。行きません」
「……リリアン?」
「誰がジェレミー殿下との婚約を嫌だなんて言いました?私はそんな事、一言も申し上げてはおりません。妄想で勝手に人の気持ちを決めつけないで」
鋭い眼差しでヨハネスを見据えるリリアン。ヨハネスはその強い眼差しに気圧される。
「リリアン……」
「ヨハネス殿下、私はジェレミーの結婚します。これは私の意思です。誰に強制されたわけでもない、紛れもない私自身の意思よ」
リリアンはハッキリとそう言い切った。しかしまだヨハネスは納得できないというような顔をしている。
おかしな話だ。お前が自分で手を離したくせに。ふと、そんな事を思った。
「リリアン様、ヨハネス殿下は貴女を想って……」
「黙りなさい、ダニエル・ミュラー。あなたの意見など聞いていない」
第一皇子と名門ハイネ公爵家の令嬢との会話に割って入る権限など、一介の騎士ごときにはない。リリアンはダニエルの言葉をぶった斬った。
すると、リリアンの視界の端にジェレミーの姿が映った。
(どいつもこいつも、人の話を聞き入れないのなら……)
態度で示してやるしかない。リリアンはジェレミーの名を呼び、彼の下に走り寄った。
「リリアン!」
リリアンを見つけたジェレミーは主人を見つけた犬の如く、顔が綻ぶ。
「人だかりが出来ていると思ったら、リリアンが原因?」
「まあね。それよりジェレミー。もう少しこっちに寄って」
「ん?どうし……え?」
リリアンに顔を寄せたジェレミーは、いきなり彼女に胸ぐらを捕まれた。
つんのめりながらも足に力を入れて体を支える彼に、リリアンは小さく『ごめんね』と呟くと『危ないだろう』と反論する余地も与えず、その口を強引に塞いだ。
その一瞬でその場にいた観衆が湧く。
何が起こったのか理解が追いつかないジェレミーは目を丸くした。
「……んんんん!?」
「へ?」
「まさか、無理矢理……」
そこまで言って、ベルンハルトはわざとらしく手で口元を抑える。
リリアンは彼の目元が細くなるのを見て、気づいた。
(しまった!)
こんな所でそんな意味ありげなことを言われては……。
リリアンはヨハネスを見た。
すると、彼のエメラルドの瞳が怒りと嫉妬に揺れる。
「リリアン。陛下のところに行こう。私たちが悪かった。今すぐにでも婚約を解消するよう、陛下に……」
「はい?」
「私はジェレミーを信用し過ぎた。まさか君に乱暴するなんて思ってもみなかったから。すまない」
「ら、乱暴なんてされてませんわ!誤解です!」
むしろ、乱暴したのはこちらの方なのだが。
リリアンは慌てて否定した。
だが噂話を信じている周囲も、その噂が本当であることを望んでいるダニエルも、ヨハネス本人でさえ、リリアンの言葉に耳を傾けない。
彼女の言葉を『リリアンは優しいから、ジェレミーを庇っているだけ』と勝手に解釈して、彼女の本心を理解しようとしない。
「ベルンハルト・シュナイダー……。何を企んでいるの?」
リリアンはベルンハルトを睨みつけた。しかし、彼はほくそ笑むだけで何も答えない。
何が目的なのか。ヨハネスとリリアンを婚約させたいというよりも、ジェレミーとリリアンを引き離したいという意図が働いているように思う。
けれど、それをして彼に何の得があるというのか。
ベルンハルトはハイネ家の傘下であるシュナイダー伯爵家の人間。
ならば個人的な怨恨の可能性も考えられるが、ジェレミーとベルンハルトには、彼が騎士団に入るまで接点はなかった。
「ベルン、答えて」
「リリアン。ヨハネス殿下が全部解決してくれる。君は殿下の元で幸せになるんだ。ジェレミー殿下のそばにいちゃいけない」
「どういう意味よ!」
「リリアン、心配しなくて良い。早く陛下の所へ行こう」
ヨハネスはベルンハルトとの会話に割り入り、リリアンの手を引いた。
その手を引く力は強く、少し痛かった。
女性の扱いに慣れている彼らしくない強引さ。
リリアンはその手を振り払った。
女性に手を振り払われた事などない彼は目を丸くして、自分の手を見つめる。
「嫌です。行きません」
「……リリアン?」
「誰がジェレミー殿下との婚約を嫌だなんて言いました?私はそんな事、一言も申し上げてはおりません。妄想で勝手に人の気持ちを決めつけないで」
鋭い眼差しでヨハネスを見据えるリリアン。ヨハネスはその強い眼差しに気圧される。
「リリアン……」
「ヨハネス殿下、私はジェレミーの結婚します。これは私の意思です。誰に強制されたわけでもない、紛れもない私自身の意思よ」
リリアンはハッキリとそう言い切った。しかしまだヨハネスは納得できないというような顔をしている。
おかしな話だ。お前が自分で手を離したくせに。ふと、そんな事を思った。
「リリアン様、ヨハネス殿下は貴女を想って……」
「黙りなさい、ダニエル・ミュラー。あなたの意見など聞いていない」
第一皇子と名門ハイネ公爵家の令嬢との会話に割って入る権限など、一介の騎士ごときにはない。リリアンはダニエルの言葉をぶった斬った。
すると、リリアンの視界の端にジェレミーの姿が映った。
(どいつもこいつも、人の話を聞き入れないのなら……)
態度で示してやるしかない。リリアンはジェレミーの名を呼び、彼の下に走り寄った。
「リリアン!」
リリアンを見つけたジェレミーは主人を見つけた犬の如く、顔が綻ぶ。
「人だかりが出来ていると思ったら、リリアンが原因?」
「まあね。それよりジェレミー。もう少しこっちに寄って」
「ん?どうし……え?」
リリアンに顔を寄せたジェレミーは、いきなり彼女に胸ぐらを捕まれた。
つんのめりながらも足に力を入れて体を支える彼に、リリアンは小さく『ごめんね』と呟くと『危ないだろう』と反論する余地も与えず、その口を強引に塞いだ。
その一瞬でその場にいた観衆が湧く。
何が起こったのか理解が追いつかないジェレミーは目を丸くした。
「……んんんん!?」
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