50 / 80
48:どいつもこいつも(2)
しおりを挟む
「……ジェレミー殿下に何かされたのか?」
「へ?」
「まさか、無理矢理……」
そこまで言って、ベルンハルトはわざとらしく手で口元を抑える。
リリアンは彼の目元が細くなるのを見て、気づいた。
(しまった!)
こんな所でそんな意味ありげなことを言われては……。
リリアンはヨハネスを見た。
すると、彼のエメラルドの瞳が怒りと嫉妬に揺れる。
「リリアン。陛下のところに行こう。私たちが悪かった。今すぐにでも婚約を解消するよう、陛下に……」
「はい?」
「私はジェレミーを信用し過ぎた。まさか君に乱暴するなんて思ってもみなかったから。すまない」
「ら、乱暴なんてされてませんわ!誤解です!」
むしろ、乱暴したのはこちらの方なのだが。
リリアンは慌てて否定した。
だが噂話を信じている周囲も、その噂が本当であることを望んでいるダニエルも、ヨハネス本人でさえ、リリアンの言葉に耳を傾けない。
彼女の言葉を『リリアンは優しいから、ジェレミーを庇っているだけ』と勝手に解釈して、彼女の本心を理解しようとしない。
「ベルンハルト・シュナイダー……。何を企んでいるの?」
リリアンはベルンハルトを睨みつけた。しかし、彼はほくそ笑むだけで何も答えない。
何が目的なのか。ヨハネスとリリアンを婚約させたいというよりも、ジェレミーとリリアンを引き離したいという意図が働いているように思う。
けれど、それをして彼に何の得があるというのか。
ベルンハルトはハイネ家の傘下であるシュナイダー伯爵家の人間。
ならば個人的な怨恨の可能性も考えられるが、ジェレミーとベルンハルトには、彼が騎士団に入るまで接点はなかった。
「ベルン、答えて」
「リリアン。ヨハネス殿下が全部解決してくれる。君は殿下の元で幸せになるんだ。ジェレミー殿下のそばにいちゃいけない」
「どういう意味よ!」
「リリアン、心配しなくて良い。早く陛下の所へ行こう」
ヨハネスはベルンハルトとの会話に割り入り、リリアンの手を引いた。
その手を引く力は強く、少し痛かった。
女性の扱いに慣れている彼らしくない強引さ。
リリアンはその手を振り払った。
女性に手を振り払われた事などない彼は目を丸くして、自分の手を見つめる。
「嫌です。行きません」
「……リリアン?」
「誰がジェレミー殿下との婚約を嫌だなんて言いました?私はそんな事、一言も申し上げてはおりません。妄想で勝手に人の気持ちを決めつけないで」
鋭い眼差しでヨハネスを見据えるリリアン。ヨハネスはその強い眼差しに気圧される。
「リリアン……」
「ヨハネス殿下、私はジェレミーの結婚します。これは私の意思です。誰に強制されたわけでもない、紛れもない私自身の意思よ」
リリアンはハッキリとそう言い切った。しかしまだヨハネスは納得できないというような顔をしている。
おかしな話だ。お前が自分で手を離したくせに。ふと、そんな事を思った。
「リリアン様、ヨハネス殿下は貴女を想って……」
「黙りなさい、ダニエル・ミュラー。あなたの意見など聞いていない」
第一皇子と名門ハイネ公爵家の令嬢との会話に割って入る権限など、一介の騎士ごときにはない。リリアンはダニエルの言葉をぶった斬った。
すると、リリアンの視界の端にジェレミーの姿が映った。
(どいつもこいつも、人の話を聞き入れないのなら……)
態度で示してやるしかない。リリアンはジェレミーの名を呼び、彼の下に走り寄った。
「リリアン!」
リリアンを見つけたジェレミーは主人を見つけた犬の如く、顔が綻ぶ。
「人だかりが出来ていると思ったら、リリアンが原因?」
「まあね。それよりジェレミー。もう少しこっちに寄って」
「ん?どうし……え?」
リリアンに顔を寄せたジェレミーは、いきなり彼女に胸ぐらを捕まれた。
つんのめりながらも足に力を入れて体を支える彼に、リリアンは小さく『ごめんね』と呟くと『危ないだろう』と反論する余地も与えず、その口を強引に塞いだ。
その一瞬でその場にいた観衆が湧く。
何が起こったのか理解が追いつかないジェレミーは目を丸くした。
「……んんんん!?」
「へ?」
「まさか、無理矢理……」
そこまで言って、ベルンハルトはわざとらしく手で口元を抑える。
リリアンは彼の目元が細くなるのを見て、気づいた。
(しまった!)
こんな所でそんな意味ありげなことを言われては……。
リリアンはヨハネスを見た。
すると、彼のエメラルドの瞳が怒りと嫉妬に揺れる。
「リリアン。陛下のところに行こう。私たちが悪かった。今すぐにでも婚約を解消するよう、陛下に……」
「はい?」
「私はジェレミーを信用し過ぎた。まさか君に乱暴するなんて思ってもみなかったから。すまない」
「ら、乱暴なんてされてませんわ!誤解です!」
むしろ、乱暴したのはこちらの方なのだが。
リリアンは慌てて否定した。
だが噂話を信じている周囲も、その噂が本当であることを望んでいるダニエルも、ヨハネス本人でさえ、リリアンの言葉に耳を傾けない。
彼女の言葉を『リリアンは優しいから、ジェレミーを庇っているだけ』と勝手に解釈して、彼女の本心を理解しようとしない。
「ベルンハルト・シュナイダー……。何を企んでいるの?」
リリアンはベルンハルトを睨みつけた。しかし、彼はほくそ笑むだけで何も答えない。
何が目的なのか。ヨハネスとリリアンを婚約させたいというよりも、ジェレミーとリリアンを引き離したいという意図が働いているように思う。
けれど、それをして彼に何の得があるというのか。
ベルンハルトはハイネ家の傘下であるシュナイダー伯爵家の人間。
ならば個人的な怨恨の可能性も考えられるが、ジェレミーとベルンハルトには、彼が騎士団に入るまで接点はなかった。
「ベルン、答えて」
「リリアン。ヨハネス殿下が全部解決してくれる。君は殿下の元で幸せになるんだ。ジェレミー殿下のそばにいちゃいけない」
「どういう意味よ!」
「リリアン、心配しなくて良い。早く陛下の所へ行こう」
ヨハネスはベルンハルトとの会話に割り入り、リリアンの手を引いた。
その手を引く力は強く、少し痛かった。
女性の扱いに慣れている彼らしくない強引さ。
リリアンはその手を振り払った。
女性に手を振り払われた事などない彼は目を丸くして、自分の手を見つめる。
「嫌です。行きません」
「……リリアン?」
「誰がジェレミー殿下との婚約を嫌だなんて言いました?私はそんな事、一言も申し上げてはおりません。妄想で勝手に人の気持ちを決めつけないで」
鋭い眼差しでヨハネスを見据えるリリアン。ヨハネスはその強い眼差しに気圧される。
「リリアン……」
「ヨハネス殿下、私はジェレミーの結婚します。これは私の意思です。誰に強制されたわけでもない、紛れもない私自身の意思よ」
リリアンはハッキリとそう言い切った。しかしまだヨハネスは納得できないというような顔をしている。
おかしな話だ。お前が自分で手を離したくせに。ふと、そんな事を思った。
「リリアン様、ヨハネス殿下は貴女を想って……」
「黙りなさい、ダニエル・ミュラー。あなたの意見など聞いていない」
第一皇子と名門ハイネ公爵家の令嬢との会話に割って入る権限など、一介の騎士ごときにはない。リリアンはダニエルの言葉をぶった斬った。
すると、リリアンの視界の端にジェレミーの姿が映った。
(どいつもこいつも、人の話を聞き入れないのなら……)
態度で示してやるしかない。リリアンはジェレミーの名を呼び、彼の下に走り寄った。
「リリアン!」
リリアンを見つけたジェレミーは主人を見つけた犬の如く、顔が綻ぶ。
「人だかりが出来ていると思ったら、リリアンが原因?」
「まあね。それよりジェレミー。もう少しこっちに寄って」
「ん?どうし……え?」
リリアンに顔を寄せたジェレミーは、いきなり彼女に胸ぐらを捕まれた。
つんのめりながらも足に力を入れて体を支える彼に、リリアンは小さく『ごめんね』と呟くと『危ないだろう』と反論する余地も与えず、その口を強引に塞いだ。
その一瞬でその場にいた観衆が湧く。
何が起こったのか理解が追いつかないジェレミーは目を丸くした。
「……んんんん!?」
8
お気に入りに追加
355
あなたにおすすめの小説

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる