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20:押してしまったスイッチ(3)
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昔から、どこか諦めているような目をする子だった。
それは母である皇后が、彼の存在を嫌悪しているせいか、それとも、皇后の侍女たちが主人である皇后に忖度して彼に冷たい態度をとってきたせいか。
はじめて会った時には、その黄金の瞳から感情は失われていた。
何も期待していない寂しい目をした少年。
それがジェレミーに対する第一印象だった。
だから、リリアンはヨハネスと会う時には必ずジェレミーを誘った。今にも消えてしまいそうな、この世に未練なんてなさそうな、子どもらしからぬ目をした彼が心配だったのだ。
できるだけ、そばに居ようと思った。寄り添おうと思った。そして自分がそうして接することで、いつか彼が彼自身の存在を認めてくれれば良いのにと思っていた。
(まだ、自分は何も望んではいけないと思っているのかしら……)
不幸である事が皇后への償いであるかのように、ジェレミーは何も求めない。
それは、はじめて手を伸ばしたリリアンに対してでさえ、同じで……。だから彼は彼女の心まで手に入れようとは思わないのだろう。
リリアンはそっと、ジェレミーの頬に手を伸ばした。
「心が伴わない結婚に、貴方は満足するの?」
政略結婚だったヨハネスなら、それで満足するかもしれない。
けれど、ジェレミーは心からリリアンを求めている。それなのに彼女に好かれる事は求めていないというのは、にわかには信じがたい。
ジェレミーは自分の頬に触れる彼女の手に、自分の手を重ねると、悲痛な表情を浮かべた。
「望めば手に入るのか? 君は心をくれるというのか?」
「そ、それは……。約束はできないけど……」
「約束できないのならそういう事を言わないでくれ……」
重ねた手をギュッと握り、ジェレミーは声を震わせる。
リリアンはそんな彼を見て『違う!』と声を上げた。
「そうじゃなくて! その、約束はできないけど、努力することはで、できるって言うか……」
「努力?」
「あ、貴方を好きになる努力よ! 私、正直言って今までジェレミーのことそんなふうに見たことないし、ずっと弟としか思ってなかったから、だから、その、今すぐ好きになるのは難しいけど、でもそういう風に見るように努力することはできると思うの。もっと意識するから、だから、あのね……。あ、諦めないで良いんだよ?」
言葉を詰まらせながらも、ジッと彼の目を見つめて話すリリアン。ジェレミーは彼女をグイッと自分の方に引き寄せると、息苦しさを感じるくらいにキツく抱きしめた。
リリアンからは思わず、ウプッと声が漏れる。
「く、苦し」
「自分で何言ってるかわかってる?」
「わかってる、つもり、です」
「そんなこと言われたら期待してしまうだろ」
「期待していいよ」
「簡単に言うなよ。期待して、それでもし『やっぱり好きになれませんでした』とか言われたら、俺、何するかわかんないぞ?」
「何するかわかんないって……。な、何するの?」
「さぁ? その時にならないとわからない」
「何それ、怖い」
「でも一つだけ言えるのは、リリアンがどんな結論を出しても、俺は君を手放さないってことだな」
そう言うと、ジェレミーはリリアンの頬にチュッとキスをした。リリアンは頬を押さえて赤面する。そんな彼女を見て、ジェレミーはフッと不敵な笑みをこぼした。
「これからは、好きになってもらえるように頑張るとするよ」
「が、がんばる?」
「色々と、ね?」
「イロイロ……」
「せっかくリリアンが諦めなくても良いと言ってくれたんだ。俺のことを意識せざるを得なくしてやろう」
楽しそうに笑うジェレミーに、リリアンはゾワッと背筋に冷たいものが走る感覚を覚えた。
どうやら、彼女はまた、押してはならぬスイッチを押したらしい。
「お、お手柔らかに、お願いします……?」
自分で言い出したことだが、恋愛ごとにはめっぽう疎い彼女は、これから彼が自分を落とす為にどんな罠を仕掛けてくるのか予測できない。
狼に狙われた子うさぎは、へへへっと苦笑いを浮かべた。
それは母である皇后が、彼の存在を嫌悪しているせいか、それとも、皇后の侍女たちが主人である皇后に忖度して彼に冷たい態度をとってきたせいか。
はじめて会った時には、その黄金の瞳から感情は失われていた。
何も期待していない寂しい目をした少年。
それがジェレミーに対する第一印象だった。
だから、リリアンはヨハネスと会う時には必ずジェレミーを誘った。今にも消えてしまいそうな、この世に未練なんてなさそうな、子どもらしからぬ目をした彼が心配だったのだ。
できるだけ、そばに居ようと思った。寄り添おうと思った。そして自分がそうして接することで、いつか彼が彼自身の存在を認めてくれれば良いのにと思っていた。
(まだ、自分は何も望んではいけないと思っているのかしら……)
不幸である事が皇后への償いであるかのように、ジェレミーは何も求めない。
それは、はじめて手を伸ばしたリリアンに対してでさえ、同じで……。だから彼は彼女の心まで手に入れようとは思わないのだろう。
リリアンはそっと、ジェレミーの頬に手を伸ばした。
「心が伴わない結婚に、貴方は満足するの?」
政略結婚だったヨハネスなら、それで満足するかもしれない。
けれど、ジェレミーは心からリリアンを求めている。それなのに彼女に好かれる事は求めていないというのは、にわかには信じがたい。
ジェレミーは自分の頬に触れる彼女の手に、自分の手を重ねると、悲痛な表情を浮かべた。
「望めば手に入るのか? 君は心をくれるというのか?」
「そ、それは……。約束はできないけど……」
「約束できないのならそういう事を言わないでくれ……」
重ねた手をギュッと握り、ジェレミーは声を震わせる。
リリアンはそんな彼を見て『違う!』と声を上げた。
「そうじゃなくて! その、約束はできないけど、努力することはで、できるって言うか……」
「努力?」
「あ、貴方を好きになる努力よ! 私、正直言って今までジェレミーのことそんなふうに見たことないし、ずっと弟としか思ってなかったから、だから、その、今すぐ好きになるのは難しいけど、でもそういう風に見るように努力することはできると思うの。もっと意識するから、だから、あのね……。あ、諦めないで良いんだよ?」
言葉を詰まらせながらも、ジッと彼の目を見つめて話すリリアン。ジェレミーは彼女をグイッと自分の方に引き寄せると、息苦しさを感じるくらいにキツく抱きしめた。
リリアンからは思わず、ウプッと声が漏れる。
「く、苦し」
「自分で何言ってるかわかってる?」
「わかってる、つもり、です」
「そんなこと言われたら期待してしまうだろ」
「期待していいよ」
「簡単に言うなよ。期待して、それでもし『やっぱり好きになれませんでした』とか言われたら、俺、何するかわかんないぞ?」
「何するかわかんないって……。な、何するの?」
「さぁ? その時にならないとわからない」
「何それ、怖い」
「でも一つだけ言えるのは、リリアンがどんな結論を出しても、俺は君を手放さないってことだな」
そう言うと、ジェレミーはリリアンの頬にチュッとキスをした。リリアンは頬を押さえて赤面する。そんな彼女を見て、ジェレミーはフッと不敵な笑みをこぼした。
「これからは、好きになってもらえるように頑張るとするよ」
「が、がんばる?」
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「イロイロ……」
「せっかくリリアンが諦めなくても良いと言ってくれたんだ。俺のことを意識せざるを得なくしてやろう」
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どうやら、彼女はまた、押してはならぬスイッチを押したらしい。
「お、お手柔らかに、お願いします……?」
自分で言い出したことだが、恋愛ごとにはめっぽう疎い彼女は、これから彼が自分を落とす為にどんな罠を仕掛けてくるのか予測できない。
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