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11:デート(2)
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大陸の東側に位置するベイル帝国は、海岸沿いの港町を中心に商業の国として栄えている。
嘘か真か、海を超えてやってきた彼らの祖先である商人ルードヴィッヒが港に街を起こしたのが国の始まりらしい。
そしてその名残からか、ベイル帝国は他国との貿易が盛んで、特に港町にほど近い帝都では異国の文化や商品が多く入ってきている。
リリアンは帝都でも特に異国情緒あふれる商店街に着くや否や、露店に釘付けになっていた。
「す、すごい!」
一列に並んだ露店には、手作りのアクセサリーやおもちゃ。調理器具に布まで様々なものが並んでいる。
いつもリリアンが身につけているものよりも質素なのに、どれもこれもが輝いて見えた。
その中でも、特に彼女の目を引いたのはやはり食べ物だった。
焼き鳥に揚げ団子。芋のようなものを薄く切り串に巻いて揚げたものに、わたあめなど、見たことのない料理がずらりと並ぶ景色にリリアンはじゅるりと涎を垂らした。
屋台の料理は大概が茶色く、彩りがない。加えて忙しい市民が歩きながらでも食べられるように、串刺しだ。
生粋のお嬢様のいつもの食事と比べるとだいぶ粗末な食事だが、それでも香ばしい匂いと活気ある店主の呼び込みにつられ、気がつけばリリアンの両手は食べ物で埋め尽くされていた。
「リリアン、そんなに食べたら夕飯が食べられなくなるぞ?」
「今日はいらないって言ってあるから大丈夫よ。ジェレミーもどう?」
リリアンは隣を歩くジェレミーの口に焼き鳥を突っ込んだ。『どう?』などと聞いておいて、返事を聞く前に口に突っ込むのはどうかと思う。
だが、普段はなかなか見られないリリアンの町娘スタイルと純粋な上目遣い負けて、彼は何も言うことができなかった。
おさげにメガネに茶色のワンピース。さらにその上に黒いローブという地味な格好でも可愛いのが悪い。
「……惚れた方が負け、とはよく言ったものだな」
「何の話?」
「焼き鳥が美味いって話」
「そう? あ、わたあめも美味しいよ」
「右手に焼き鳥、左手にデザート……、贅沢だな」
「でしょう?」
リリアンはジェレミーの空いている方の手にわたあめを握らせると、なつかしそうに大盛況の屋台を見つめた。
「こんなご飯、昔の討伐以来だわ」
「そうだな」
過去、浄化の魔法師として魔塔から正式に認定を受けて以降、リリアンはヨハネスの婚約者になるまでの約1年間だけ、魔獣討伐軍に属していた。
討伐に赴いた回数は数える程度だし、大規模な討伐に赴いたことはないためにその当時の記憶はあやふやだが、彼女はその討伐での野営飯が美味しかったことだけは今でもしっかりと覚えている。
保存食の缶詰もなかなかだったが、やはり1番美味しかったのは塩しか降っていない焼き鳥だ。
あの時を思い出したリリアンはクスッっと笑みをこぼした。
「あれは死と隣り合わせの緊張感というスパイスが加わっているからか、さらに美味しかったわ」
「覚えているのは焼き鳥だけかよ……」
主に食べ物の思い出しか話さない彼女を、ジェレミーは生暖かい目で見下ろした。
「そ、そんなことないよ! 色々覚えてるよ! ほら、たとえばジェレミーが初めて討伐軍に加わった時のこととか!」
「本当に?」
「本当だよ! 確かあの時、隣国の討伐隊と遭遇したんだよね? いやぁ、あれは怖かった!」
「へぇー。怖かったんだ」
そう言われて何かを誤魔化すように視線を泳がせるリリアン。
そんな彼女の姿を見て、当時のことを思い出したジェレミーはクツクツと笑い出した。
嘘か真か、海を超えてやってきた彼らの祖先である商人ルードヴィッヒが港に街を起こしたのが国の始まりらしい。
そしてその名残からか、ベイル帝国は他国との貿易が盛んで、特に港町にほど近い帝都では異国の文化や商品が多く入ってきている。
リリアンは帝都でも特に異国情緒あふれる商店街に着くや否や、露店に釘付けになっていた。
「す、すごい!」
一列に並んだ露店には、手作りのアクセサリーやおもちゃ。調理器具に布まで様々なものが並んでいる。
いつもリリアンが身につけているものよりも質素なのに、どれもこれもが輝いて見えた。
その中でも、特に彼女の目を引いたのはやはり食べ物だった。
焼き鳥に揚げ団子。芋のようなものを薄く切り串に巻いて揚げたものに、わたあめなど、見たことのない料理がずらりと並ぶ景色にリリアンはじゅるりと涎を垂らした。
屋台の料理は大概が茶色く、彩りがない。加えて忙しい市民が歩きながらでも食べられるように、串刺しだ。
生粋のお嬢様のいつもの食事と比べるとだいぶ粗末な食事だが、それでも香ばしい匂いと活気ある店主の呼び込みにつられ、気がつけばリリアンの両手は食べ物で埋め尽くされていた。
「リリアン、そんなに食べたら夕飯が食べられなくなるぞ?」
「今日はいらないって言ってあるから大丈夫よ。ジェレミーもどう?」
リリアンは隣を歩くジェレミーの口に焼き鳥を突っ込んだ。『どう?』などと聞いておいて、返事を聞く前に口に突っ込むのはどうかと思う。
だが、普段はなかなか見られないリリアンの町娘スタイルと純粋な上目遣い負けて、彼は何も言うことができなかった。
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「……惚れた方が負け、とはよく言ったものだな」
「何の話?」
「焼き鳥が美味いって話」
「そう? あ、わたあめも美味しいよ」
「右手に焼き鳥、左手にデザート……、贅沢だな」
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リリアンはジェレミーの空いている方の手にわたあめを握らせると、なつかしそうに大盛況の屋台を見つめた。
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討伐に赴いた回数は数える程度だし、大規模な討伐に赴いたことはないためにその当時の記憶はあやふやだが、彼女はその討伐での野営飯が美味しかったことだけは今でもしっかりと覚えている。
保存食の缶詰もなかなかだったが、やはり1番美味しかったのは塩しか降っていない焼き鳥だ。
あの時を思い出したリリアンはクスッっと笑みをこぼした。
「あれは死と隣り合わせの緊張感というスパイスが加わっているからか、さらに美味しかったわ」
「覚えているのは焼き鳥だけかよ……」
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「そ、そんなことないよ! 色々覚えてるよ! ほら、たとえばジェレミーが初めて討伐軍に加わった時のこととか!」
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「本当だよ! 確かあの時、隣国の討伐隊と遭遇したんだよね? いやぁ、あれは怖かった!」
「へぇー。怖かったんだ」
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そんな彼女の姿を見て、当時のことを思い出したジェレミーはクツクツと笑い出した。
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