17 / 149
第一章 輪廻の滝で
16:死にたがりの初恋(4)
しおりを挟む
その後、イアンは教会が用意してくれた馬車に乗ってヴィルヘルムの街へと戻った。
ヴィルヘルムに戻ると、居酒屋の大将からはゲンコツを食らったし、おばさんや大家さん、幼馴染からは泣かれた。
自警団の人は夜通し探し回ってくれたのか、寝不足なようで、イアンはみんなに向けて深々と頭を下げた。
『心配かけてごめんなさい。でも、俺はちゃんと生きるよ。強く生きて幸せになる。その父さんとの約束をちゃんと守るよ』
樹海で何があったのかはわからない。けれど、強い眼差しで『生きること』を約束したイアンに皆は安堵した。そして父の死を乗り越え、父の願いを叶えるために前を向いた彼のことをずっと応援し続けようと強く思った。
それからひと月ほど経ったある日。ヴィルヘルムの領主と教会の司祭は投獄された。エレノア子爵により、彼らの不正か明るみに出たのだ。
その結果、ヴィルヘルムはエレノア子爵領に吸収された。教会は平民にも門が開かれ、不当に重かった税は軽くなり、生活が改善された。
「まあ、数年後には魔族の襲撃があってヴィルヘルムの街は一度燃えてしまったけれど、それでもエレノア子爵が戦後の復興に尽力してくれているからか、街の雰囲気は前の領主の時よりも断然明るい」
これも全て、子爵のおかげであり、子爵とヴィルヘルムを繋いでくれたあの少女のおかげ。結局彼女はイアン一人だけでなく、街そのものを変えてくれたのだ。
「あれから、俺は一日たりとも彼女のことを忘れたことなどないんだ」
ずっと、あの少女に会うために生きてきた。
本当は時々、部屋で一人でいる時に父が恋しくなり、やっぱり後を追おうかと考えたこともある。
魔族との戦いで、多くの仲間と大切だった人たちが死んで、いっそこのまま皆んなと共に……、なんて思ったときもあった。
けれど、それでも決して諦めずにここまで生き抜くことができたのは彼女との約束があったからだ。
挫けそうな時はいつも心に彼女がいたから。
あの時出会った少女は、気がついたら自分の核となっていた。生きるための道標となっていた。
「……また会えるなんて、奇跡だよなぁ」
イアンを枕を抱きしめたまま、感慨深そうに呟いた。
また会おうと約束はしたけれど、まさかこんな形で再会するなど思ってもみなかった。
あの時、自分に約束をくれた彼女が同じ屋敷の中にいる。自分の妻となるために会いにきてくれた。
それだけで、イアンはもう胸がいっぱいだ。
釣書を一目見たあの日から、イアンはずっとこんな調子で浮かれている。
そして、この話を聞いた使用人達は主人と彼の初恋の人との再会を感動的なものにしようと、庭の手入れや屋敷の掃除、料理に至るまで完璧に準備していたというのに。
「……あんたのせいで全部台無しなのですが?」
テオドールは呆れ顔で浮かれた主人を見下ろした。
全部イアンのための努力だったのに、浮かれすぎて馬鹿になっている彼のせいで全てが台無しだ。きっとアイシャにとって、この再会は印象の悪いものになっているに違いない。
というか、そもそもの話……。
「奥様は絶対に旦那様のことを覚えていらっしゃいませんよね?」
ヴィルヘルムに戻ると、居酒屋の大将からはゲンコツを食らったし、おばさんや大家さん、幼馴染からは泣かれた。
自警団の人は夜通し探し回ってくれたのか、寝不足なようで、イアンはみんなに向けて深々と頭を下げた。
『心配かけてごめんなさい。でも、俺はちゃんと生きるよ。強く生きて幸せになる。その父さんとの約束をちゃんと守るよ』
樹海で何があったのかはわからない。けれど、強い眼差しで『生きること』を約束したイアンに皆は安堵した。そして父の死を乗り越え、父の願いを叶えるために前を向いた彼のことをずっと応援し続けようと強く思った。
それからひと月ほど経ったある日。ヴィルヘルムの領主と教会の司祭は投獄された。エレノア子爵により、彼らの不正か明るみに出たのだ。
その結果、ヴィルヘルムはエレノア子爵領に吸収された。教会は平民にも門が開かれ、不当に重かった税は軽くなり、生活が改善された。
「まあ、数年後には魔族の襲撃があってヴィルヘルムの街は一度燃えてしまったけれど、それでもエレノア子爵が戦後の復興に尽力してくれているからか、街の雰囲気は前の領主の時よりも断然明るい」
これも全て、子爵のおかげであり、子爵とヴィルヘルムを繋いでくれたあの少女のおかげ。結局彼女はイアン一人だけでなく、街そのものを変えてくれたのだ。
「あれから、俺は一日たりとも彼女のことを忘れたことなどないんだ」
ずっと、あの少女に会うために生きてきた。
本当は時々、部屋で一人でいる時に父が恋しくなり、やっぱり後を追おうかと考えたこともある。
魔族との戦いで、多くの仲間と大切だった人たちが死んで、いっそこのまま皆んなと共に……、なんて思ったときもあった。
けれど、それでも決して諦めずにここまで生き抜くことができたのは彼女との約束があったからだ。
挫けそうな時はいつも心に彼女がいたから。
あの時出会った少女は、気がついたら自分の核となっていた。生きるための道標となっていた。
「……また会えるなんて、奇跡だよなぁ」
イアンを枕を抱きしめたまま、感慨深そうに呟いた。
また会おうと約束はしたけれど、まさかこんな形で再会するなど思ってもみなかった。
あの時、自分に約束をくれた彼女が同じ屋敷の中にいる。自分の妻となるために会いにきてくれた。
それだけで、イアンはもう胸がいっぱいだ。
釣書を一目見たあの日から、イアンはずっとこんな調子で浮かれている。
そして、この話を聞いた使用人達は主人と彼の初恋の人との再会を感動的なものにしようと、庭の手入れや屋敷の掃除、料理に至るまで完璧に準備していたというのに。
「……あんたのせいで全部台無しなのですが?」
テオドールは呆れ顔で浮かれた主人を見下ろした。
全部イアンのための努力だったのに、浮かれすぎて馬鹿になっている彼のせいで全てが台無しだ。きっとアイシャにとって、この再会は印象の悪いものになっているに違いない。
というか、そもそもの話……。
「奥様は絶対に旦那様のことを覚えていらっしゃいませんよね?」
24
お気に入りに追加
2,810
あなたにおすすめの小説
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる