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シャーロットを妻にするということ
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「そ、そんな娘を野放しにして良いのですか」
「野放しにできんから、お前が引き取れと言ってるんだよ」
シャーロットの才能は、一歩間違えれば国を傾ける。
レオンは真剣な眼差しで、ルーカスの目を見た。
「いいか?ルーカス。シャーロットを妻にするということは、アレを御せということだ。シャーロットの能力が悪用されぬよう、シャーロットがその能力を悪用せぬよう。だからお前たちの結婚は王命なんだ」
家族を愛するシャーロットが、姉の嫁ぎ先である王家に牙を剥く事はない。
横領事件とその他もろもろに関するシャーロット一連の行動は、義兄との結婚を実現させるためのものであり、そこに他意はない。だが、それはシャーロットがその気になれば何でも出来てしまうという事。
「シャーロットは無意識に人を惹きつける。そして、意識すれば人の心すら動かせる能力を持つ。その能力は使い方を間違えるとこの国にとって、とんでもない爆弾となる」
レオンは低く言い放つ。
シャーロットが味方になれば、心強い事この上ないが、敵に回せばそれは破滅を意味する。
それ程までに厄介な娘なのだ。
動揺を隠せないルーカスは顔を伏せた。
そんな彼を、レオンは鼻で笑う。
「今更怖気付いたか?返品するなら今のうちだぞ?」
今ならまだ、他家に嫁がせることもできる。
だが、ルーカスはすぐ顔を上げて、困ったように笑った。
「今更、無理ですよ」
今更シャーロットを手放すなど、彼に出来るわけがない。
ずっとずっと好きだった大切な女の子だ。
その笑顔に惚れ、その笑顔を守りたいと思った大切な女の子。
自分のことが好きで仕方がないシャーロットを今更手放し、彼女を悲しませるなどルーカスには出来なかった。
たとえ厄介な娘でも、ルーカスにとってシャーロットは、ただの可愛い義妹であり、ただの婚約者だ。
ルーカスは立ち上がり、覚悟を決めたように、真っ直ぐにレオンを見た。
そして頭を下げる。
「早朝から失礼いたしました、レオン殿下。シャーロットの元に帰ります」
「おう、是非ともそうしてくれ」
しっしっと追い払うように手を振る。
そして、レオンはふぅと小さく息を吐いた。
ルーカスと結婚するためだけに、これだけ奮闘したシャーロットに、今更他家に嫁げと言うなど、それこそ彼女がどんな暴挙に出るかわからない。ルーカスの返事を聞いて、レオンは内心ほっとしていた。
「では、私はミリアの検診にでも付き添うかな」
レオンは背伸びをした。
「今日は検診の予定でしたか、失礼しました」
話してスッキリしたルーカスは、笑顔でそのまま退室しようと扉の方に足を向けた。
しかし、ふと気がついてしまった。
「姉上はもう母になるのですね…」
ルーカスは遠くを見つめ、ボソッと呟いた。
「そうか…殿下と姉上も子供ができるようなことしたんですね…」
その発言に、レオンは思わず飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。
控えていたメイドが、慌てて拭くものを持ってくる。
「汚いですよ、殿下」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
「…殿下、もう一つだけ聞いてくれますか?」
ルーカスはまた、神妙な面持ちで言う。
どうせまた面倒くさい事をウジウジと考えているのだろうとわかりつつも、ここまで付き合ったのだから最後まで話を聞いてやろうと、レオンは思ってしまった。
「聞きたくはないが、仕方がないので聞いてやろう」
腕を組み、心底面倒臭そうな顔をしながらルーカスを見る。
ルーカスはもう一度椅子に腰掛け、気恥ずかしそうに前髪を触りながら、髪の隙間からチラリとレオンの方を見た。
「俺、シャーロットとの初夜が怖いんです」
その言葉に、レオンは数秒思考を停止する。
そして、立ち上がり一言。
「帰れ」
「ああ!待って!!お願いします聞いてください!お願いします!」
立ち去ろうとすると、ルーカスに袖を掴まれた。
レオンは呆れた顔をしながら仕方なく、また椅子に腰掛けた。
「何が怖いんだよ…。そのセリフは女が言うセリフだろうが」
怖いことなどあるものか、とレオンは言う。
初夜で、怖い思いをするのも、痛い思いをするのも女であるシャーロットだ。
「いや、考えてみてくださいよ。ついこの間まで妹だったんですよ?」
「妹だが、義理だろ?」
「シャーロットと同じ事を言わんでください」
ルーカスの言いたい事はわかる。ついこの間まで妹だった女を抱けと言われてもそう簡単に割り切れるものではない。
だが、それはルーカスには当てはまらない事をレオンは知っていた。
レオンは往生際の悪い友の額に、人差し指を突きつける。
「ルーカス。お前は妹である事を理由に、ずっとシャーロットから逃げていたが、そもそもお前は初めからシャーロットを意識していたらしいじゃないか」
「一目惚れだったんだろ?」とレオンは不敵に笑う。
「何故それを知って…」
「ミリアから聞いた」
ルーカスは顔を赤くした。
お喋りな姉を持つと、弟は苦労する。
「お前は初めから、一度だってシャーロットを妹として見ていなかった。それを今更妹妹と、往生際の悪い」
「いや、しかしですね、殿下…」
「ああ、もしかしてアレか?兄妹ではなくなって、合法的に手が出せるとなれば、歯止めが効かなくなりそうで怖いのか?」
「ち、ちがっ!?」
図星だったのか、ルーカスは耳まで真っ赤にして、わかりやすく狼狽える。そんな彼に、レオンはニヤニヤと意地の悪い笑顔を向けた。
ふと、バルコニーの下から、「お兄様」とルーカスを呼ぶ声が聞こえた。その声は愛しい婚約者の声。
どうやらレオンは侯爵家に使いを出し、シャーロットを呼び出していたようだ。
「ルーカス、タイムリミットだ。諦めろ」
ルーカスは、迎えに来たシャーロットに連行されて行った。
「野放しにできんから、お前が引き取れと言ってるんだよ」
シャーロットの才能は、一歩間違えれば国を傾ける。
レオンは真剣な眼差しで、ルーカスの目を見た。
「いいか?ルーカス。シャーロットを妻にするということは、アレを御せということだ。シャーロットの能力が悪用されぬよう、シャーロットがその能力を悪用せぬよう。だからお前たちの結婚は王命なんだ」
家族を愛するシャーロットが、姉の嫁ぎ先である王家に牙を剥く事はない。
横領事件とその他もろもろに関するシャーロット一連の行動は、義兄との結婚を実現させるためのものであり、そこに他意はない。だが、それはシャーロットがその気になれば何でも出来てしまうという事。
「シャーロットは無意識に人を惹きつける。そして、意識すれば人の心すら動かせる能力を持つ。その能力は使い方を間違えるとこの国にとって、とんでもない爆弾となる」
レオンは低く言い放つ。
シャーロットが味方になれば、心強い事この上ないが、敵に回せばそれは破滅を意味する。
それ程までに厄介な娘なのだ。
動揺を隠せないルーカスは顔を伏せた。
そんな彼を、レオンは鼻で笑う。
「今更怖気付いたか?返品するなら今のうちだぞ?」
今ならまだ、他家に嫁がせることもできる。
だが、ルーカスはすぐ顔を上げて、困ったように笑った。
「今更、無理ですよ」
今更シャーロットを手放すなど、彼に出来るわけがない。
ずっとずっと好きだった大切な女の子だ。
その笑顔に惚れ、その笑顔を守りたいと思った大切な女の子。
自分のことが好きで仕方がないシャーロットを今更手放し、彼女を悲しませるなどルーカスには出来なかった。
たとえ厄介な娘でも、ルーカスにとってシャーロットは、ただの可愛い義妹であり、ただの婚約者だ。
ルーカスは立ち上がり、覚悟を決めたように、真っ直ぐにレオンを見た。
そして頭を下げる。
「早朝から失礼いたしました、レオン殿下。シャーロットの元に帰ります」
「おう、是非ともそうしてくれ」
しっしっと追い払うように手を振る。
そして、レオンはふぅと小さく息を吐いた。
ルーカスと結婚するためだけに、これだけ奮闘したシャーロットに、今更他家に嫁げと言うなど、それこそ彼女がどんな暴挙に出るかわからない。ルーカスの返事を聞いて、レオンは内心ほっとしていた。
「では、私はミリアの検診にでも付き添うかな」
レオンは背伸びをした。
「今日は検診の予定でしたか、失礼しました」
話してスッキリしたルーカスは、笑顔でそのまま退室しようと扉の方に足を向けた。
しかし、ふと気がついてしまった。
「姉上はもう母になるのですね…」
ルーカスは遠くを見つめ、ボソッと呟いた。
「そうか…殿下と姉上も子供ができるようなことしたんですね…」
その発言に、レオンは思わず飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。
控えていたメイドが、慌てて拭くものを持ってくる。
「汚いですよ、殿下」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
「…殿下、もう一つだけ聞いてくれますか?」
ルーカスはまた、神妙な面持ちで言う。
どうせまた面倒くさい事をウジウジと考えているのだろうとわかりつつも、ここまで付き合ったのだから最後まで話を聞いてやろうと、レオンは思ってしまった。
「聞きたくはないが、仕方がないので聞いてやろう」
腕を組み、心底面倒臭そうな顔をしながらルーカスを見る。
ルーカスはもう一度椅子に腰掛け、気恥ずかしそうに前髪を触りながら、髪の隙間からチラリとレオンの方を見た。
「俺、シャーロットとの初夜が怖いんです」
その言葉に、レオンは数秒思考を停止する。
そして、立ち上がり一言。
「帰れ」
「ああ!待って!!お願いします聞いてください!お願いします!」
立ち去ろうとすると、ルーカスに袖を掴まれた。
レオンは呆れた顔をしながら仕方なく、また椅子に腰掛けた。
「何が怖いんだよ…。そのセリフは女が言うセリフだろうが」
怖いことなどあるものか、とレオンは言う。
初夜で、怖い思いをするのも、痛い思いをするのも女であるシャーロットだ。
「いや、考えてみてくださいよ。ついこの間まで妹だったんですよ?」
「妹だが、義理だろ?」
「シャーロットと同じ事を言わんでください」
ルーカスの言いたい事はわかる。ついこの間まで妹だった女を抱けと言われてもそう簡単に割り切れるものではない。
だが、それはルーカスには当てはまらない事をレオンは知っていた。
レオンは往生際の悪い友の額に、人差し指を突きつける。
「ルーカス。お前は妹である事を理由に、ずっとシャーロットから逃げていたが、そもそもお前は初めからシャーロットを意識していたらしいじゃないか」
「一目惚れだったんだろ?」とレオンは不敵に笑う。
「何故それを知って…」
「ミリアから聞いた」
ルーカスは顔を赤くした。
お喋りな姉を持つと、弟は苦労する。
「お前は初めから、一度だってシャーロットを妹として見ていなかった。それを今更妹妹と、往生際の悪い」
「いや、しかしですね、殿下…」
「ああ、もしかしてアレか?兄妹ではなくなって、合法的に手が出せるとなれば、歯止めが効かなくなりそうで怖いのか?」
「ち、ちがっ!?」
図星だったのか、ルーカスは耳まで真っ赤にして、わかりやすく狼狽える。そんな彼に、レオンはニヤニヤと意地の悪い笑顔を向けた。
ふと、バルコニーの下から、「お兄様」とルーカスを呼ぶ声が聞こえた。その声は愛しい婚約者の声。
どうやらレオンは侯爵家に使いを出し、シャーロットを呼び出していたようだ。
「ルーカス、タイムリミットだ。諦めろ」
ルーカスは、迎えに来たシャーロットに連行されて行った。
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