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シャーロットを妻にするということ

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「言っておくがお前の悩みは贅沢なんだぞ?シャーロットが妻になるのだから」
「フォークを人に向けないでくださいよ」
「ナイフじゃないだけマシだろ」

 シレッとそう言うと、レオンはフォークを下ろした。

「わかっていますよ。俺はシャーロットには不釣り合いです」

 ルーカスは不貞腐れたように言う。
 シャーロットは美しく聡明で、社交界では高嶺の花だ。男なら誰でも彼女を欲しがる。
 本来なら、そんなシャーロットが頼りない義兄なんぞの手中に収まるなど、他の貴族連中が黙っているわけがない。

 そう、普通は…。

「殿下!俺は怖いんですよ!何故、皆こんなに祝福してくれるんでしょう!?」

 ルーカスはテーブルを勢いよく叩くと、青い顔をして立ち上がる。
 結婚の挨拶に行くたびに、嫌味を言われることもなく、心からの祝福の言葉をもらってきたルーカスは、逆に不自然だと怖がっていたのだ。
 そんな彼を見て、レオンは驚いたように尋ねる。

「…お前、もしかして知らないのか?」
「何をですか?」

 キョトンとするルーカスに、レオンは額を押さえて深くため息をついた。
 そしてジトッとした目でルーカスを見る。

「知りたいか?祝福される理由」
「知りたいような、知りたくないような…」

 ハッキリしない答えに、レオンは思わず舌打ちした。

「舌打ちしないでくださいよ」
「お前がハッキリしないからだ。もういい、聞け。シャーロットを知る事はお前の義務だ」

 そう言うと、ルーカスを座らせ、問答無用で話し始めた。

「2年ほど前、バルド伯爵が横領の罪で摘発された件、覚えているか?」
「それは、まあ。覚えていますが…」

 2年前、国庫の管理の一端を任されていた財務部の官僚バルド伯爵が、横領の容疑で摘発された。
 伯爵は他国とつながっており、横領した金で武器を買い込んでいたという。
 この摘発がなかったら、この国は今戦火にあったかもしれないと言われている。

「伯爵には疑わしい動きがあったが、一向に尻尾が掴めなくてな。頭を抱えていた所に、ふらっとシャーロットが現れて、決定的な証拠となる裏帳簿を持ってきたんだ」
「え、あれはアデル子爵が摘発したのではないのですか!?」

 当時、いつもバルド伯爵に目の敵にされていたアデル子爵が、まるで意趣返しのようにバルド伯爵に証拠を突きつけたのだとされている。

 そう信じていたルーカスは、驚きのあまり声が大きくなる。
 レオンはそんなルーカスの口に、プレートの端に寄せていたトマトを突っ込んだ。
 ルーカスは渋々、突っ込まれたトマトを咀嚼し、飲み込む。

「ほんとトマト嫌いですね」
「これは人間の食べるものではない」
「はいはい。ホントその辺はいつまでも子どもですよね」

 小馬鹿にしたように言うルーカスが腹立たしくなったレオンは、咳払いをして横領事件の続きを話し始めた。

「確かに、証拠を持ってきたのは子爵だ。だが、正直者の子爵はそれを自分の手柄ではないと話したそうだ。そして、シャーロットの名を出した」

 レオンが知る、横領の事件解決の真相はこうだ。

 シャーロットは元々、アデル子爵の娘と親しくしていた。
 そして娘の話から、正直者の子爵がバルド伯爵から嫌がらせを受けていることを知った彼女は、横領の証拠を探し始める。
 そして掴んだ証拠を、子爵の娘に託した。
 子爵の娘は、それを友人のシャーロットからだと言って、父に渡す。
 子爵はその証拠を持参し、王に横領の事実を進言する。
 王は子爵に褒美を与えようとするが、正直者の子爵は、それは自分の功績ではないと告げ、シャーロットの名前を出す。
 王は褒美を与えようとシャーロットを呼び出した。そして、どんな褒美が欲しいかと尋ねるとシャーロットこう言った。

『私は、私の知っていることを子爵様にお伝えしただけです。実際に行動を起こし、我が国を戦の危機から救って下さったのは、紛れもなく子爵様です。褒美はどうぞ、彼にお与えください』
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