8 / 11
シャーロットを妻にするということ
3
しおりを挟む
「言っておくがお前の悩みは贅沢なんだぞ?あのシャーロットが妻になるのだから」
「フォークを人に向けないでくださいよ」
「ナイフじゃないだけマシだろ」
シレッとそう言うと、レオンはフォークを下ろした。
「わかっていますよ。俺はシャーロットには不釣り合いです」
ルーカスは不貞腐れたように言う。
シャーロットは美しく聡明で、社交界では高嶺の花だ。男なら誰でも彼女を欲しがる。
本来なら、そんなシャーロットが頼りない義兄なんぞの手中に収まるなど、他の貴族連中が黙っているわけがない。
そう、普通は…。
「殿下!俺は怖いんですよ!何故、皆こんなに祝福してくれるんでしょう!?」
ルーカスはテーブルを勢いよく叩くと、青い顔をして立ち上がる。
結婚の挨拶に行くたびに、嫌味を言われることもなく、心からの祝福の言葉をもらってきたルーカスは、逆に不自然だと怖がっていたのだ。
そんな彼を見て、レオンは驚いたように尋ねる。
「…お前、もしかして知らないのか?」
「何をですか?」
キョトンとするルーカスに、レオンは額を押さえて深くため息をついた。
そしてジトッとした目でルーカスを見る。
「知りたいか?祝福される理由」
「知りたいような、知りたくないような…」
ハッキリしない答えに、レオンは思わず舌打ちした。
「舌打ちしないでくださいよ」
「お前がハッキリしないからだ。もういい、聞け。シャーロットを知る事はお前の義務だ」
そう言うと、ルーカスを座らせ、問答無用で話し始めた。
「2年ほど前、バルド伯爵が横領の罪で摘発された件、覚えているか?」
「それは、まあ。覚えていますが…」
2年前、国庫の管理の一端を任されていた財務部の官僚バルド伯爵が、横領の容疑で摘発された。
伯爵は他国とつながっており、横領した金で武器を買い込んでいたという。
この摘発がなかったら、この国は今戦火にあったかもしれないと言われている。
「伯爵には疑わしい動きがあったが、一向に尻尾が掴めなくてな。頭を抱えていた所に、ふらっとシャーロットが現れて、決定的な証拠となる裏帳簿を持ってきたんだ」
「え、あれはアデル子爵が摘発したのではないのですか!?」
当時、いつもバルド伯爵に目の敵にされていたアデル子爵が、まるで意趣返しのようにバルド伯爵に証拠を突きつけたのだとされている。
そう信じていたルーカスは、驚きのあまり声が大きくなる。
レオンはそんなルーカスの口に、プレートの端に寄せていたトマトを突っ込んだ。
ルーカスは渋々、突っ込まれたトマトを咀嚼し、飲み込む。
「ほんとトマト嫌いですね」
「これは人間の食べるものではない」
「はいはい。ホントその辺はいつまでも子どもですよね」
小馬鹿にしたように言うルーカスが腹立たしくなったレオンは、咳払いをして横領事件の続きを話し始めた。
「確かに、証拠を持ってきたのは子爵だ。だが、正直者の子爵はそれを自分の手柄ではないと話したそうだ。そして、シャーロットの名を出した」
レオンが知る、横領の事件解決の真相はこうだ。
シャーロットは元々、アデル子爵の娘と親しくしていた。
そして娘の話から、正直者の子爵がバルド伯爵から嫌がらせを受けていることを知った彼女は、横領の証拠を探し始める。
そして掴んだ証拠を、子爵の娘に託した。
子爵の娘は、それを友人のシャーロットからだと言って、父に渡す。
子爵はその証拠を持参し、王に横領の事実を進言する。
王は子爵に褒美を与えようとするが、正直者の子爵は、それは自分の功績ではないと告げ、シャーロットの名前を出す。
王は褒美を与えようとシャーロットを呼び出した。そして、どんな褒美が欲しいかと尋ねるとシャーロットこう言った。
『私は、私の知っていることを子爵様にお伝えしただけです。実際に行動を起こし、我が国を戦の危機から救って下さったのは、紛れもなく子爵様です。褒美はどうぞ、彼にお与えください』
「フォークを人に向けないでくださいよ」
「ナイフじゃないだけマシだろ」
シレッとそう言うと、レオンはフォークを下ろした。
「わかっていますよ。俺はシャーロットには不釣り合いです」
ルーカスは不貞腐れたように言う。
シャーロットは美しく聡明で、社交界では高嶺の花だ。男なら誰でも彼女を欲しがる。
本来なら、そんなシャーロットが頼りない義兄なんぞの手中に収まるなど、他の貴族連中が黙っているわけがない。
そう、普通は…。
「殿下!俺は怖いんですよ!何故、皆こんなに祝福してくれるんでしょう!?」
ルーカスはテーブルを勢いよく叩くと、青い顔をして立ち上がる。
結婚の挨拶に行くたびに、嫌味を言われることもなく、心からの祝福の言葉をもらってきたルーカスは、逆に不自然だと怖がっていたのだ。
そんな彼を見て、レオンは驚いたように尋ねる。
「…お前、もしかして知らないのか?」
「何をですか?」
キョトンとするルーカスに、レオンは額を押さえて深くため息をついた。
そしてジトッとした目でルーカスを見る。
「知りたいか?祝福される理由」
「知りたいような、知りたくないような…」
ハッキリしない答えに、レオンは思わず舌打ちした。
「舌打ちしないでくださいよ」
「お前がハッキリしないからだ。もういい、聞け。シャーロットを知る事はお前の義務だ」
そう言うと、ルーカスを座らせ、問答無用で話し始めた。
「2年ほど前、バルド伯爵が横領の罪で摘発された件、覚えているか?」
「それは、まあ。覚えていますが…」
2年前、国庫の管理の一端を任されていた財務部の官僚バルド伯爵が、横領の容疑で摘発された。
伯爵は他国とつながっており、横領した金で武器を買い込んでいたという。
この摘発がなかったら、この国は今戦火にあったかもしれないと言われている。
「伯爵には疑わしい動きがあったが、一向に尻尾が掴めなくてな。頭を抱えていた所に、ふらっとシャーロットが現れて、決定的な証拠となる裏帳簿を持ってきたんだ」
「え、あれはアデル子爵が摘発したのではないのですか!?」
当時、いつもバルド伯爵に目の敵にされていたアデル子爵が、まるで意趣返しのようにバルド伯爵に証拠を突きつけたのだとされている。
そう信じていたルーカスは、驚きのあまり声が大きくなる。
レオンはそんなルーカスの口に、プレートの端に寄せていたトマトを突っ込んだ。
ルーカスは渋々、突っ込まれたトマトを咀嚼し、飲み込む。
「ほんとトマト嫌いですね」
「これは人間の食べるものではない」
「はいはい。ホントその辺はいつまでも子どもですよね」
小馬鹿にしたように言うルーカスが腹立たしくなったレオンは、咳払いをして横領事件の続きを話し始めた。
「確かに、証拠を持ってきたのは子爵だ。だが、正直者の子爵はそれを自分の手柄ではないと話したそうだ。そして、シャーロットの名を出した」
レオンが知る、横領の事件解決の真相はこうだ。
シャーロットは元々、アデル子爵の娘と親しくしていた。
そして娘の話から、正直者の子爵がバルド伯爵から嫌がらせを受けていることを知った彼女は、横領の証拠を探し始める。
そして掴んだ証拠を、子爵の娘に託した。
子爵の娘は、それを友人のシャーロットからだと言って、父に渡す。
子爵はその証拠を持参し、王に横領の事実を進言する。
王は子爵に褒美を与えようとするが、正直者の子爵は、それは自分の功績ではないと告げ、シャーロットの名前を出す。
王は褒美を与えようとシャーロットを呼び出した。そして、どんな褒美が欲しいかと尋ねるとシャーロットこう言った。
『私は、私の知っていることを子爵様にお伝えしただけです。実際に行動を起こし、我が国を戦の危機から救って下さったのは、紛れもなく子爵様です。褒美はどうぞ、彼にお与えください』
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
私の以外の誰かを愛してしまった、って本当ですか?
樋口紗夕
恋愛
「すまない、エリザベス。どうか俺との婚約を解消して欲しい」
エリザベスは婚約者であるギルベルトから別れを切り出された。
他に好きな女ができた、と彼は言う。
でも、それって本当ですか?
エリザベス一筋なはずのギルベルトが愛した女性とは、いったい何者なのか?
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる