129 / 129
ifの世界線のお話
25:はじめの一歩
しおりを挟む
雪が溶け、芽吹き始めた新しい命が春の訪れを告げる頃、王太子ヘンリーは正式に即位した。
どこまでも晴れ渡る空の下、即意識後のパレードは盛大に行われた。
そんな賑やかなお祝いムードの中、社交界ではウィンターソン公爵が二人目の妻シャロンと離婚したという話で持ちきりだった。
噂では、前妻を思い続けていると噂の烏公爵に愛想をつかし屋敷を出て行ったとか、ずっと昔からの恋人だったジルフォード家お抱えの薬師と駆け落ちしたとか言われている。
噂の真偽は定かではないが、ウィンターソン公爵夫妻の早すぎる離婚は噂好きの暇な貴族たちにとっては恰好の餌となった。
元々友人のいないシャロンが離婚を機に一切表舞台には出て来なくなったことも相まって、真実を確認しようのない彼らはウィンターソン公爵夫妻の早すぎる離婚を好き勝手に語っているそうだ。
「顔が怖い」
即位式後のパーティーで貴族たちから好奇な視線を送られて居心地の悪そうな顔をするアルフレッドに、陛下となったヘンリーは呆れたような顔で言い放つ。
本来なら彼がエスコートしていたはずのシャロンも存在そのものが隠されているエミリアも、この場にはいない。そのことに少し寂しさを覚えているようにヘンリーには見えたらしい。
「二兎追うものは一途も得ず、だな」
「何が言いたいのですか」
アルフレッドは玉座でふんぞり変えるヘンリーを半眼で見下ろした。
別に自分はどちらも逃したわけではないと彼は主張するが、ヘンリーから見ればどちらも選べず、結果どちらも手放してしまったようにしか見えない。
「公爵、寂しいか?」
「まあ、寂しくないと言えば嘘にはなります」
「もう一度結婚したいのなら俺が紹介してやろうか?」
「遠慮しておきます。多分私は結婚には向いていないので」
「…あー、確かに」
「そこは『そんなことないよ』というところですよ、陛下」
「事実なんだから仕方がないだろう」
二人は目を合わせるとクスクスと笑い合った。
「これから寂しさを感じさせないほどにこき使ってやろう」
「楽しみにしておきます」
***
シャロンがウィンターソン公爵夫人ではなくなってからら、さらに二ヶ月が経った頃、一通の手紙が届いた。
差出人はアルフレッド・カーティス。彼女の元夫だ。
その手紙には友人エミリアが静かに息を引き取ったことが記されていた。とても穏やかに旅立ったらしい。
これも全て、彼女に手紙という楽しみを与えてくれたシャロンのおかげだとアルフレッドは言う。
同封されていた書きかけの手紙にはいつも通り、おすすめの本の考察でびっしりと埋まっていたが、最後の便箋の裏には小さく『今までありがとう。楽しかった』と書かれていた。
きっと、もう自分が長くないことを悟っていたのだろう。文字は少し滲んでいた。
あの日、離宮で初めて会った時からずっと、小さくはなれど決して消えなかった彼女への想いは彼女の死を知ってもなお残っている。
途中、物理的な距離を置き、文通相手として接してきたことが功を奏したのかもしてない。
シャロンにとってのエミリアはただの趣味の合う友人になることができた。
「ありがとう、エミリー。公爵様…」
彼らと出会わなければ、彼らに関わらなければ、きっと自分のことを1番近くで1番大事にしてくれていた人の存在には気づけなかった。
シャロンは読み終えた手紙を宝箱にしまい、鍵をかけた。そして服をクッション材にしてトランクへと詰める。
そう、これから彼女はこれからジルフォード領に行くのだ。
領地を継ぐために、これから田舎に引っ込み領地経営を学ぶ。彼の新しい夫とともに。
「お嬢、用意できました?」
部屋の外からずっと自分を支えてくれていた優しい声で名前を呼ばれたシャロンは、爽やかな笑顔で扉を開けた。
穏やかに、自然に微笑む姿は数ヶ月前まで表情筋が死んでいたとは思えないほどだ。
貴族であること、魔力持ちであることなど様々な重責から解放されたが故に余裕があるらしい。
新しい夫となったサイモンはその笑顔に頬を紅潮させた。
「サイモンはもう準備できたの?」
「ええ、まあ…」
「じゃあそろそろ行こうか」
シャロンは新しい人生を一歩踏み出した
ーーーーー完ーーーーーーー
どこまでも晴れ渡る空の下、即意識後のパレードは盛大に行われた。
そんな賑やかなお祝いムードの中、社交界ではウィンターソン公爵が二人目の妻シャロンと離婚したという話で持ちきりだった。
噂では、前妻を思い続けていると噂の烏公爵に愛想をつかし屋敷を出て行ったとか、ずっと昔からの恋人だったジルフォード家お抱えの薬師と駆け落ちしたとか言われている。
噂の真偽は定かではないが、ウィンターソン公爵夫妻の早すぎる離婚は噂好きの暇な貴族たちにとっては恰好の餌となった。
元々友人のいないシャロンが離婚を機に一切表舞台には出て来なくなったことも相まって、真実を確認しようのない彼らはウィンターソン公爵夫妻の早すぎる離婚を好き勝手に語っているそうだ。
「顔が怖い」
即位式後のパーティーで貴族たちから好奇な視線を送られて居心地の悪そうな顔をするアルフレッドに、陛下となったヘンリーは呆れたような顔で言い放つ。
本来なら彼がエスコートしていたはずのシャロンも存在そのものが隠されているエミリアも、この場にはいない。そのことに少し寂しさを覚えているようにヘンリーには見えたらしい。
「二兎追うものは一途も得ず、だな」
「何が言いたいのですか」
アルフレッドは玉座でふんぞり変えるヘンリーを半眼で見下ろした。
別に自分はどちらも逃したわけではないと彼は主張するが、ヘンリーから見ればどちらも選べず、結果どちらも手放してしまったようにしか見えない。
「公爵、寂しいか?」
「まあ、寂しくないと言えば嘘にはなります」
「もう一度結婚したいのなら俺が紹介してやろうか?」
「遠慮しておきます。多分私は結婚には向いていないので」
「…あー、確かに」
「そこは『そんなことないよ』というところですよ、陛下」
「事実なんだから仕方がないだろう」
二人は目を合わせるとクスクスと笑い合った。
「これから寂しさを感じさせないほどにこき使ってやろう」
「楽しみにしておきます」
***
シャロンがウィンターソン公爵夫人ではなくなってからら、さらに二ヶ月が経った頃、一通の手紙が届いた。
差出人はアルフレッド・カーティス。彼女の元夫だ。
その手紙には友人エミリアが静かに息を引き取ったことが記されていた。とても穏やかに旅立ったらしい。
これも全て、彼女に手紙という楽しみを与えてくれたシャロンのおかげだとアルフレッドは言う。
同封されていた書きかけの手紙にはいつも通り、おすすめの本の考察でびっしりと埋まっていたが、最後の便箋の裏には小さく『今までありがとう。楽しかった』と書かれていた。
きっと、もう自分が長くないことを悟っていたのだろう。文字は少し滲んでいた。
あの日、離宮で初めて会った時からずっと、小さくはなれど決して消えなかった彼女への想いは彼女の死を知ってもなお残っている。
途中、物理的な距離を置き、文通相手として接してきたことが功を奏したのかもしてない。
シャロンにとってのエミリアはただの趣味の合う友人になることができた。
「ありがとう、エミリー。公爵様…」
彼らと出会わなければ、彼らに関わらなければ、きっと自分のことを1番近くで1番大事にしてくれていた人の存在には気づけなかった。
シャロンは読み終えた手紙を宝箱にしまい、鍵をかけた。そして服をクッション材にしてトランクへと詰める。
そう、これから彼女はこれからジルフォード領に行くのだ。
領地を継ぐために、これから田舎に引っ込み領地経営を学ぶ。彼の新しい夫とともに。
「お嬢、用意できました?」
部屋の外からずっと自分を支えてくれていた優しい声で名前を呼ばれたシャロンは、爽やかな笑顔で扉を開けた。
穏やかに、自然に微笑む姿は数ヶ月前まで表情筋が死んでいたとは思えないほどだ。
貴族であること、魔力持ちであることなど様々な重責から解放されたが故に余裕があるらしい。
新しい夫となったサイモンはその笑顔に頬を紅潮させた。
「サイモンはもう準備できたの?」
「ええ、まあ…」
「じゃあそろそろ行こうか」
シャロンは新しい人生を一歩踏み出した
ーーーーー完ーーーーーーー
32
お気に入りに追加
2,791
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(151件)
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
誤字報告のため承認不要です。
【】内は引用させて頂きました。
10:アルフレッドの初夜 (1)
【アルフレッドにはもったいないくらいによく出来ない嫁なのは間違いない。】
もったいないくらいによく出来ない嫁→よく出来た嫁
アルフレッド、もったいないと言いつつ新妻(シャロン)をディスってしまってます(・・;)
作品、楽しく読ませて頂きました。
ifルートエンドも有るのが特に良かったです!
これからも執筆頑張ってください。応援&楽しみにしています。
ご指摘ありがとうございます!
アルフレッドの分際で、何をディスってんねんって感じですよね。笑
修正しました!ありがとうございました!
魅了のせいといえど、単純過ぎるアルフレッド ・・・。20年上だし、私だったらやだな。白い結婚おk。5年くらいで、サイモンと結婚しなおしたいよね?まあ、30年後、アルが寿命で、サイモンとさいこんでもいいけどね。遺産もあるし・・・w?
サイモンendが読めて本当に良かったです。
こちらの方がシャロンがシャロンらしく幸せになりそうです。
ありがとうございました。