126 / 129
ifの世界線のお話
22:さよならの挨拶(1)
しおりを挟む
翌朝、ハディスの部屋でアルフレッドから預かった書類に一通り目を通してサインしたシャロンは、ふぅ、と小さく息をこぼした。
これを教会へ提出すればアルフレッドとの関係は終わる。
「なんか、寂しいですね」
「なんだ?今更情が芽生えたか?」
「いえ、ロクに挨拶もできずに、このまま終わりというのは…」
書類を確認しながら、シャロンは窓の外を見た。
今日は雪が降っていて、いつもより少し寒い。積もって身動きが取れなくなる前に書類を教会に届けたほうがよさそうだ。
「公爵はもう会わないみたいなことを言っていたぞ?」
「『会わない』じゃなくて、『自分からは会いに行かない』でしょ?それって裏を返せば会いにきてってことじゃないのですか?」
「そういうことなのかな?」
「あの方は結構面倒くさい方なので、多分そういう意味だと思います」
「そう言われるとそんな気もしてくるな…。確かに」
「まあ、どのみち公爵邸のみんなに挨拶できていないし、このまま顔を合わせずに終わるのってなんだか違う気がするので、やっぱり行ってきます」
シャロンは席と立つと、近くのメイドに先触れを出すように言いつけた。
寝不足のハディスを大きな欠伸をし、眠気覚ましのコーヒーを一気に飲み干す。
「サイモンは連れて行かなくて良いのか?」
「サイモンにはサイモンの仕事がありますから。書類を出しに行くくらい護衛が1人いれば十分です」
「いや、そうではなく。公爵のところに行くんだから…」
兄の言っていることがわからないのか、シャロンは首を傾げる。
ハディスはそんな彼女に呆れたようにため息をついた。
「サイモンには一言声かけてから出ろよ。元夫に会いに行くなんて、気が気じゃないだろ」
「声はかけますが…。サイモンはそんなこと気にするでしょうか?」
「絶対気にする。言っておくが、お前が思っている以上にサイモンはお前のこと好きだからな」
気持ちがないとわかっていても、アルフレッドのところに行くことをサイモンはよく思わないはずだ。
しかし、それでも彼は決して行くなとは言わない。シャロンの意思を尊重する。
そのくらいシャロンのことが好きなのだ。
『そのことをよく覚えておけ』と言われたシャロンは、にやける書類で口元を隠すと『覚えておきます』と言って部屋を出た。
サイモンの元へ向かったのだろう。
ハディスはスッと立ち上がると、そのままベッドに潜り込んだ。
なんとなくわかってはいた事だが、いざ妹と親友が結ばれてしまうとやはり寂しいらしい。昨夜は今後の2人のことを考えると眠れなかった。
思っていたより厳しい環境に置かれることはなさそうだが、それでもやはり色々と言ってくるやつはいるだろう。
「エディとその周辺には先に手を回しておこう」
余計なことを言いふらしそうな奴らに関しては、先に手を打っておく方が良い。
なんと言って脅しておこうかと考えながら、ハディスはそのまま二度寝した。
これを教会へ提出すればアルフレッドとの関係は終わる。
「なんか、寂しいですね」
「なんだ?今更情が芽生えたか?」
「いえ、ロクに挨拶もできずに、このまま終わりというのは…」
書類を確認しながら、シャロンは窓の外を見た。
今日は雪が降っていて、いつもより少し寒い。積もって身動きが取れなくなる前に書類を教会に届けたほうがよさそうだ。
「公爵はもう会わないみたいなことを言っていたぞ?」
「『会わない』じゃなくて、『自分からは会いに行かない』でしょ?それって裏を返せば会いにきてってことじゃないのですか?」
「そういうことなのかな?」
「あの方は結構面倒くさい方なので、多分そういう意味だと思います」
「そう言われるとそんな気もしてくるな…。確かに」
「まあ、どのみち公爵邸のみんなに挨拶できていないし、このまま顔を合わせずに終わるのってなんだか違う気がするので、やっぱり行ってきます」
シャロンは席と立つと、近くのメイドに先触れを出すように言いつけた。
寝不足のハディスを大きな欠伸をし、眠気覚ましのコーヒーを一気に飲み干す。
「サイモンは連れて行かなくて良いのか?」
「サイモンにはサイモンの仕事がありますから。書類を出しに行くくらい護衛が1人いれば十分です」
「いや、そうではなく。公爵のところに行くんだから…」
兄の言っていることがわからないのか、シャロンは首を傾げる。
ハディスはそんな彼女に呆れたようにため息をついた。
「サイモンには一言声かけてから出ろよ。元夫に会いに行くなんて、気が気じゃないだろ」
「声はかけますが…。サイモンはそんなこと気にするでしょうか?」
「絶対気にする。言っておくが、お前が思っている以上にサイモンはお前のこと好きだからな」
気持ちがないとわかっていても、アルフレッドのところに行くことをサイモンはよく思わないはずだ。
しかし、それでも彼は決して行くなとは言わない。シャロンの意思を尊重する。
そのくらいシャロンのことが好きなのだ。
『そのことをよく覚えておけ』と言われたシャロンは、にやける書類で口元を隠すと『覚えておきます』と言って部屋を出た。
サイモンの元へ向かったのだろう。
ハディスはスッと立ち上がると、そのままベッドに潜り込んだ。
なんとなくわかってはいた事だが、いざ妹と親友が結ばれてしまうとやはり寂しいらしい。昨夜は今後の2人のことを考えると眠れなかった。
思っていたより厳しい環境に置かれることはなさそうだが、それでもやはり色々と言ってくるやつはいるだろう。
「エディとその周辺には先に手を回しておこう」
余計なことを言いふらしそうな奴らに関しては、先に手を打っておく方が良い。
なんと言って脅しておこうかと考えながら、ハディスはそのまま二度寝した。
1
お気に入りに追加
2,742
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました
さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。
時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。
手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。
ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が……
「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた
ホットランキング入りありがとうございます
2021/06/17
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~
瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】
ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。
爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。
伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。
まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。
婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。
――「結婚をしない」という選択肢が。
格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。
努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。
他のサイトでも公開してます。全12話です。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる