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ifの世界線のお話

22:さよならの挨拶(1)

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 翌朝、ハディスの部屋でアルフレッドから預かった書類に一通り目を通してサインしたシャロンは、ふぅ、と小さく息をこぼした。
 これを教会へ提出すればアルフレッドとの関係は終わる。

「なんか、寂しいですね」
「なんだ?今更情が芽生えたか?」
「いえ、ロクに挨拶もできずに、このまま終わりというのは…」

 書類を確認しながら、シャロンは窓の外を見た。
 今日は雪が降っていて、いつもより少し寒い。積もって身動きが取れなくなる前に書類を教会に届けたほうがよさそうだ。

「公爵はもう会わないみたいなことを言っていたぞ?」
「『会わない』じゃなくて、『自分からは会いに行かない』でしょ?それって裏を返せば会いにきてってことじゃないのですか?」
「そういうことなのかな?」
「あの方は結構面倒くさい方なので、多分そういう意味だと思います」
「そう言われるとそんな気もしてくるな…。確かに」
「まあ、どのみち公爵邸のみんなに挨拶できていないし、このまま顔を合わせずに終わるのってなんだか違う気がするので、やっぱり行ってきます」

 シャロンは席と立つと、近くのメイドに先触れを出すように言いつけた。
 寝不足のハディスを大きな欠伸をし、眠気覚ましのコーヒーを一気に飲み干す。

「サイモンは連れて行かなくて良いのか?」
「サイモンにはサイモンの仕事がありますから。書類を出しに行くくらい護衛が1人いれば十分です」
「いや、そうではなく。公爵のところに行くんだから…」

 兄の言っていることがわからないのか、シャロンは首を傾げる。
 ハディスはそんな彼女に呆れたようにため息をついた。
 
「サイモンには一言声かけてから出ろよ。元夫に会いに行くなんて、気が気じゃないだろ」
「声はかけますが…。サイモンはそんなこと気にするでしょうか?」
「絶対気にする。言っておくが、お前が思っている以上にサイモンはお前のこと好きだからな」
 
 気持ちがないとわかっていても、アルフレッドのところに行くことをサイモンはよく思わないはずだ。
 しかし、それでも彼は決して行くなとは言わない。シャロンの意思を尊重する。
 そのくらいシャロンのことが好きなのだ。
 
 『そのことをよく覚えておけ』と言われたシャロンは、にやける書類で口元を隠すと『覚えておきます』と言って部屋を出た。
 サイモンの元へ向かったのだろう。

 ハディスはスッと立ち上がると、そのままベッドに潜り込んだ。
 なんとなくわかってはいた事だが、いざ妹と親友が結ばれてしまうとやはり寂しいらしい。昨夜は今後の2人のことを考えると眠れなかった。
 思っていたより厳しい環境に置かれることはなさそうだが、それでもやはり色々と言ってくるやつはいるだろう。

「エディとその周辺には先に手を回しておこう」

 余計なことを言いふらしそうな奴らに関しては、先に手を打っておく方が良い。
 なんと言って脅しておこうかと考えながら、ハディスはそのまま二度寝した。

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