【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

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ifの世界線のお話

19:ハディスの言い分(1)

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 その日の夜。
 アルフレッドから妹との離縁に関する必要な書類を受け取ったハディスは、複雑な心境のまま、かなり遅い時間に帰路についた。
 仕事の合間をぬって書類を届けにきたアルフレッドの表情はどこか吹っ切れたような清々しいものだった気がする。 
 『シャロンに直接会って渡さなくて良いのか』と聞くと、彼は『自分から会いに行くことはない。けれど彼女の幸せを1番に願っている』と言った。

(悪い人じゃないんだけどなぁ…) 

 きっとこれからしばらくの間、彼は社交界で二度目の離婚をした男だと有る事無い事を噂されることだろう。
 これから先の彼の苦労を思うと、少しだけ申し訳なく思う。
 だが、彼はそれを自業自得だと言っていた。今までシャロンをちゃんと見てこなかった罰なのだと。
 
「…まあ、考えても仕方がないか」

 アルフレッドはどこか残念だが、悪い人じゃない。だから少し申し訳ない気持ちになってしまう。
 ハディスはフッと自嘲するような笑みを浮かべて、自室のドアノブを回した。
 扉を押して一歩部屋に踏み込んだ彼はそこで数秒停止する。

「…えーっと、何してんの?」

 ハディスの部屋で待っていたのは仲良く手を繋いでいる妹と幼馴染の男だった。
 現時刻を考えても2人がここにいるのはおかしい。動揺のあまりハディスは一旦部屋を出て、そこが自分の部屋かを確認した。

「ハディス兄様、お話したいことがあるのです」
「俺の部屋であってるよな?」
「あってますよ」
「何してんの?」
「お話したいことがあるので待っていました」
「シャロン、とりあえずは兄の帰還に対して『おかえり』と言おうか」
「おかえりなさいませ、兄様」
「よし合格」

 シャロンは兄の指摘に対して、面倒くさそうにしつつも頭を下げた。
 なお、彼女の隣にいる幼馴染は同様に頭を下げているが、明らかに挙動不審だ。顔が見えなくても、彼が放つ空気感で目が泳いでいるのがわかる。

「話とはなんだと聞いてあげたいところだが、その前に一つ良いかい?」
「ええ、どうぞ」
「君たち。今は何時だと思っているのだね」
「深夜2時ですわ」
「そうだな、深夜2時だ」

 外は深い闇に包まれている時間帯。
 誰も活動していない、物音ひとつ聞こえないこの時間帯に部屋に押しかけてきた2人に、ハディスはすうっと息を大きく吸い込み言い放つ。

「…明日で良くない!?」

 もうあと数時間したら朝日が登る。それを待てば良い話だ。
 できれば、この時間まで仕事を頑張っていた兄を労ってほしい。
 彼らが話したい内容に心当たりがあるハディスはそれも相待って、頭が痛かった。

「早く兄様に伝えたくて、お帰りになられるまで起きていました」
「褒めろと言わんばかりの表情をしているが、俺は褒めないからな。もう寝たいから朝に出直してくれ」
「では久しぶりに3人で寝ましょう。そして寝ながら話を聞いてください」
「それ、話聞かなきゃいけない時点で俺は寝れないよね!?お兄ちゃんは明日休みだから!明日聞いてあげるから!!」
「まあ端的に言うと、無意識にサイモンに告白してしまって、そしたらなんか思いが通じちゃいましたっていう話なんだけど…」
「話始めちゃったよ!ほんとお兄ちゃんの話を聞かない子だね!!」

 その後、結局何がなんでも話をしたいらしいシャロンの圧に負けたハディスは、仕方なく久しぶりに3人で寝ることにした。


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