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ifの世界線のお話
17:告白?
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青空の下、肌を刺すような冷たさの中、上着も羽織らずに薬草園へとやってきたシャロン。
サイモンは慌てて彼女の肩に自分の白衣をかける。
「上着くらい着ないと風邪引きますよ?」
「サイモン、ずっと避けていてごめんなさい!」
「え?急に何…」
突然深々と頭を下げるシャロンに、サイモンは困惑した。
普段から奇行の多いジルフォード家の面子に突然避けられたところで特にダメージもないのだが、彼女は避けていた事を気にしていたらしい。
(ああ、視線が痛い…)
あからさまな注目は浴びていないはずなのに視線を感じるのは何故なのか。
それはきっと、ここにいる面々が皆、薬草園の手入れをしているふりをして、全神経を入り口で立ち話をしている自分たちに向けているからだろう。
サイモンはなるべく早くシャロンとの話を切り上げようと思った。
「あの、お嬢?あの、とりあえず顔を上げましょう。痴話喧嘩かと思われてます」
「避けていてごめんなさい」
「うん。それはさっき聞いた」
「私、最近なんだかおかしくて…」
「大丈夫。割といつもおかしいから」
『いつもおかしいから』と言われたら大体の場合、『むぅー!』と頬を膨らませて怒るくせに、今日に限ってその何とも言えない鳴き声は聞こえて来ない。
頬を紅潮させたシャロンはゆっくりと顔を上げ、目の前のサイモンを上目遣いで見つめる。
(何で顔を赤くしてるんだよ…。そんな顔するなよ…)
こんな、恥じらうような表情などなかなか見る機会がない彼は、同じように頬を赤らめた。
「わ、私ね、サイモンのこと見てるとドキドキして、心臓が爆発しそうになるから、だから避けてたの」
「お、おう…」
「あとこの間は、サイモンに名前呼ばれただけで、嬉しいような恥ずかしいような訳のわからない感情になってしまって…。それで逃げてしまったの」
「あの…。お嬢、場所を変えませんか…?」
「でも、それは決してサイモンのことを嫌いだからとかそういうのじゃないのよ?それだけはわかってほしくて…」
「わかった。わかったからとりあえず、一旦黙りましょうか。ね?」
こんなもの、好きという言葉を言っていないだけのただの告白だ。
もじもじと自分の手をいじりながら、恥ずかしそうに話すシャロンにサイモンの心臓は爆発しそうだった。
だがこれ以上爆弾を投下されては困る。
サイモンは熱る顔を手で仰ぎ冷ましながら、もう片方の手で彼女の口を塞いだ。
「あの、俺もうすぐ仕事終わりなので…。その、お部屋で待っててもらえます?後でゆっくり話をしましょう。ね?」
周りの視線が痛い彼は、耐えきれずに話を切り上げた。
口を塞がれたシャロンはコクコクと頷いて、小走りでその場を後にした。
シャロンの姿が見えなくなったのを確認すると、サイモンはその場に崩れ落ちる。
「なあなあ、今の何?」
近づいてきた薬師の先輩たちに表情を見られないようサイモンは両手で顔を隠し、『うー』と唸り声をあげる。
先輩薬師たちはそんな彼を突いて揶揄い始めた。
「おめでとう」
「何が…」
「今の、告白?告白ってやつ?」
「黙れください…」
「良かったな」
「良くない…」
そう、良くはないのだ。
仮にシャロンの気持ちが自分に向いていたとしても、手放しでは喜べない。
きっとその事をわかってはいないであろう彼女に、自分たちの間にある問題を伝えなければならないサイモンは深く長いため息をついた。
(どうしようもなく喜んでいる自分を殴りたい…)
サイモンは慌てて彼女の肩に自分の白衣をかける。
「上着くらい着ないと風邪引きますよ?」
「サイモン、ずっと避けていてごめんなさい!」
「え?急に何…」
突然深々と頭を下げるシャロンに、サイモンは困惑した。
普段から奇行の多いジルフォード家の面子に突然避けられたところで特にダメージもないのだが、彼女は避けていた事を気にしていたらしい。
(ああ、視線が痛い…)
あからさまな注目は浴びていないはずなのに視線を感じるのは何故なのか。
それはきっと、ここにいる面々が皆、薬草園の手入れをしているふりをして、全神経を入り口で立ち話をしている自分たちに向けているからだろう。
サイモンはなるべく早くシャロンとの話を切り上げようと思った。
「あの、お嬢?あの、とりあえず顔を上げましょう。痴話喧嘩かと思われてます」
「避けていてごめんなさい」
「うん。それはさっき聞いた」
「私、最近なんだかおかしくて…」
「大丈夫。割といつもおかしいから」
『いつもおかしいから』と言われたら大体の場合、『むぅー!』と頬を膨らませて怒るくせに、今日に限ってその何とも言えない鳴き声は聞こえて来ない。
頬を紅潮させたシャロンはゆっくりと顔を上げ、目の前のサイモンを上目遣いで見つめる。
(何で顔を赤くしてるんだよ…。そんな顔するなよ…)
こんな、恥じらうような表情などなかなか見る機会がない彼は、同じように頬を赤らめた。
「わ、私ね、サイモンのこと見てるとドキドキして、心臓が爆発しそうになるから、だから避けてたの」
「お、おう…」
「あとこの間は、サイモンに名前呼ばれただけで、嬉しいような恥ずかしいような訳のわからない感情になってしまって…。それで逃げてしまったの」
「あの…。お嬢、場所を変えませんか…?」
「でも、それは決してサイモンのことを嫌いだからとかそういうのじゃないのよ?それだけはわかってほしくて…」
「わかった。わかったからとりあえず、一旦黙りましょうか。ね?」
こんなもの、好きという言葉を言っていないだけのただの告白だ。
もじもじと自分の手をいじりながら、恥ずかしそうに話すシャロンにサイモンの心臓は爆発しそうだった。
だがこれ以上爆弾を投下されては困る。
サイモンは熱る顔を手で仰ぎ冷ましながら、もう片方の手で彼女の口を塞いだ。
「あの、俺もうすぐ仕事終わりなので…。その、お部屋で待っててもらえます?後でゆっくり話をしましょう。ね?」
周りの視線が痛い彼は、耐えきれずに話を切り上げた。
口を塞がれたシャロンはコクコクと頷いて、小走りでその場を後にした。
シャロンの姿が見えなくなったのを確認すると、サイモンはその場に崩れ落ちる。
「なあなあ、今の何?」
近づいてきた薬師の先輩たちに表情を見られないようサイモンは両手で顔を隠し、『うー』と唸り声をあげる。
先輩薬師たちはそんな彼を突いて揶揄い始めた。
「おめでとう」
「何が…」
「今の、告白?告白ってやつ?」
「黙れください…」
「良かったな」
「良くない…」
そう、良くはないのだ。
仮にシャロンの気持ちが自分に向いていたとしても、手放しでは喜べない。
きっとその事をわかってはいないであろう彼女に、自分たちの間にある問題を伝えなければならないサイモンは深く長いため息をついた。
(どうしようもなく喜んでいる自分を殴りたい…)
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