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ifの世界線のお話
3:久しぶりにお嬢様を見た
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それはサイモンが偶然、街でシャロンに遭遇その次の日のこと。
ハディスは何故か布団で簀巻きにされた状態で、逆さ吊りの刑に処されていた。
「おい、これでも俺はお前より年上だからな。サイモン」
「そこで身分差を言ってこないハディス様が好きですよ」
「俺も好きだぞ!両思いだな…って、うそ!うそうそうそうそ!冗談だからハエ叩き構えるのやめて!」
上下逆さまの視界に映るサイモンは鬼の形相でハエ叩きを構えていた。
その構えは最早ハエを叩く構えではなく、ホームランを打つ感じの構えだ。
彼のその迫力にハディスは少しちびりそうだった。
「そろそろ頭に血が上りすぎて死にます」
「ゴキブリの生命力はそんなものではないでしょう」
「おいコラ。仏のハディス様もそろそろ怒るぞ」
別にハディスが怒っても対して怖くはないのだが、いよいよ顔色がやばいのでサイモンは彼を木から下ろした。
そして簀巻きのまま木の根に放置する。
「うそん。簀巻きのまま?」
「昨日ね、お嬢に会ったんすよ」
「まさかのそのまま喋るパターンのやつね。俺は優しいからこのまま聞いてやろう」
「何すか?あれ」
「あれ、とは?」
「ウインターソン公爵閣下ですよ」
サイモンは簀巻きのハディスをハエ叩きで突きながら八つ当たりし始めた。
昨日、街でシャロンに会ったとき、旦那に連れまわされた彼女がひどい靴擦れを起こしていた事。
そしてそれを旦那が気づいていなかった事。
久しぶりに見たシャロンがより可愛くなっていた事などを話したサイモンは、「はあー」と深くため息をつき、簀巻きのハディスの横に寝転んだ。
「女の靴擦れすら気づけないなんて、あの人本当に38?」
「経験値は人それぞれだぞ、サイモン」
「それだけじゃないっすよ。なんか誓約書かされたらしいじゃないですか」
「あー、あれね」
「どんな神経してるんですか」
「それだけ前妻を一途に思っているということだよ」
やけに公爵の肩を持つハディスに、サイモンは苛立つ。
「なんであっちの味方するんですか」
「しょうがないだろ。シャロンはもう嫁いでしまったのだから」
ここで公爵の悪口を言っていても仕方がないとハディスは言う。
確かにその通りなのだが、たまに年上っぽく正論で諭してくるから気に食わない。
サイモンは勢いよく起き上がると、服についた草を払う。
ハディスはそんな彼を青い顔で見上げていた。
「おい、どこへ行く」
「薬草園に行きます」
「まさかとは思うが、俺をこのまま放置するわけではあるまいな?」
「お嬢が今度の夜会に出席するそうです。なるべく早く見つけてあげてください」
サイモンは冷めた目でハディスを見下ろすと、簀巻きの彼をそのままそこに放置して立ち去った。
「置いて行くなバカやろー!」
などと叫びつつ、ハディスは怒れるサイモンの背中が見えなくなったのを確認すると、器用に簀巻きから抜け出した。
「サイモンも早く諦めればいいのに…」
いつまでも妹に想いを寄せるサイモンがハディスには不憫でならない。
もちろん、出来ることならばあの幼馴染の恋を叶えてやりたいが、シャロンの結婚が王命である以上、彼に妹をくれてやるわけにはいかないのだ。
結果、ハディスにできることは彼の愚痴を聞くことくらいしかなかった。
「今度、女の子紹介してやるか…」
汚れてしまった布団を担ぐと、ハディスは洗濯場へと向かった。
***
ハディスに愚痴をこぼしたところでどうしようもないのだが、そう分かっていても愚痴をこぼさずにはいられない。
薬草園で雑草を抜きながら、サイモンは深くため息をついた。
こんなに後悔するのなら、ダメ元でも自分の気持ちを伝えておくべきだったのかもしれない。そうすれば、もうフラれたのだからと諦められたのかもしれない。
シャロンが今、幸せでない事を知ってしまうと、どうしても『どうにかしたい』と思ってしまう。
自分は告白する勇気すらなかったくせに、彼女の旦那が少し残念なやつだからと2人の間に介入したくなる。
これではまるで過保護なモンスターペアレントだ。
「一生『公爵様』と呼ばれていれば良いのに…」
シャロンがずっと彼に心を許さなければ良いのに、とそんな事を願う卑屈な自分が嫌になる。
サイモンはそんな自分を嘲笑うように、フッと笑みをこぼした。
「いい加減、諦めよう…」
ハディスは何故か布団で簀巻きにされた状態で、逆さ吊りの刑に処されていた。
「おい、これでも俺はお前より年上だからな。サイモン」
「そこで身分差を言ってこないハディス様が好きですよ」
「俺も好きだぞ!両思いだな…って、うそ!うそうそうそうそ!冗談だからハエ叩き構えるのやめて!」
上下逆さまの視界に映るサイモンは鬼の形相でハエ叩きを構えていた。
その構えは最早ハエを叩く構えではなく、ホームランを打つ感じの構えだ。
彼のその迫力にハディスは少しちびりそうだった。
「そろそろ頭に血が上りすぎて死にます」
「ゴキブリの生命力はそんなものではないでしょう」
「おいコラ。仏のハディス様もそろそろ怒るぞ」
別にハディスが怒っても対して怖くはないのだが、いよいよ顔色がやばいのでサイモンは彼を木から下ろした。
そして簀巻きのまま木の根に放置する。
「うそん。簀巻きのまま?」
「昨日ね、お嬢に会ったんすよ」
「まさかのそのまま喋るパターンのやつね。俺は優しいからこのまま聞いてやろう」
「何すか?あれ」
「あれ、とは?」
「ウインターソン公爵閣下ですよ」
サイモンは簀巻きのハディスをハエ叩きで突きながら八つ当たりし始めた。
昨日、街でシャロンに会ったとき、旦那に連れまわされた彼女がひどい靴擦れを起こしていた事。
そしてそれを旦那が気づいていなかった事。
久しぶりに見たシャロンがより可愛くなっていた事などを話したサイモンは、「はあー」と深くため息をつき、簀巻きのハディスの横に寝転んだ。
「女の靴擦れすら気づけないなんて、あの人本当に38?」
「経験値は人それぞれだぞ、サイモン」
「それだけじゃないっすよ。なんか誓約書かされたらしいじゃないですか」
「あー、あれね」
「どんな神経してるんですか」
「それだけ前妻を一途に思っているということだよ」
やけに公爵の肩を持つハディスに、サイモンは苛立つ。
「なんであっちの味方するんですか」
「しょうがないだろ。シャロンはもう嫁いでしまったのだから」
ここで公爵の悪口を言っていても仕方がないとハディスは言う。
確かにその通りなのだが、たまに年上っぽく正論で諭してくるから気に食わない。
サイモンは勢いよく起き上がると、服についた草を払う。
ハディスはそんな彼を青い顔で見上げていた。
「おい、どこへ行く」
「薬草園に行きます」
「まさかとは思うが、俺をこのまま放置するわけではあるまいな?」
「お嬢が今度の夜会に出席するそうです。なるべく早く見つけてあげてください」
サイモンは冷めた目でハディスを見下ろすと、簀巻きの彼をそのままそこに放置して立ち去った。
「置いて行くなバカやろー!」
などと叫びつつ、ハディスは怒れるサイモンの背中が見えなくなったのを確認すると、器用に簀巻きから抜け出した。
「サイモンも早く諦めればいいのに…」
いつまでも妹に想いを寄せるサイモンがハディスには不憫でならない。
もちろん、出来ることならばあの幼馴染の恋を叶えてやりたいが、シャロンの結婚が王命である以上、彼に妹をくれてやるわけにはいかないのだ。
結果、ハディスにできることは彼の愚痴を聞くことくらいしかなかった。
「今度、女の子紹介してやるか…」
汚れてしまった布団を担ぐと、ハディスは洗濯場へと向かった。
***
ハディスに愚痴をこぼしたところでどうしようもないのだが、そう分かっていても愚痴をこぼさずにはいられない。
薬草園で雑草を抜きながら、サイモンは深くため息をついた。
こんなに後悔するのなら、ダメ元でも自分の気持ちを伝えておくべきだったのかもしれない。そうすれば、もうフラれたのだからと諦められたのかもしれない。
シャロンが今、幸せでない事を知ってしまうと、どうしても『どうにかしたい』と思ってしまう。
自分は告白する勇気すらなかったくせに、彼女の旦那が少し残念なやつだからと2人の間に介入したくなる。
これではまるで過保護なモンスターペアレントだ。
「一生『公爵様』と呼ばれていれば良いのに…」
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