【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

文字の大きさ
上 下
99 / 129
本編

99:トカゲ(3)

しおりを挟む
 結局、二つの虫かごを持って彼が帰ってきたのは2時間後のことだった。


「な、なななななんですか!?この子!可愛い!すごく可愛い!」
『本当に持ってくるとは思ってなかったわ』

 シャロンもエミリアも目を輝かせながら虫かごを見つめた。
 その中にいるのは品種改良された特別なトカゲが二匹。
 さすがにバッタは手に入らなかったらしいが、シャロンの目はかつてないほどにキラキラと輝いていた。

「王家が飼育しているトカゲを譲って貰った」

 先程ヘンリーに連れて行かれたのは王家の所有する研究施設だった。
 そこで飼育されている特別なトカゲを『自分で捕まえられたのなら』特別に譲ってやる、と彼に言われたのだ。

 そこは王家の血が流れるアルフレッドだからこそ立ち入れる場所。
 流石にアルフレッドも辞退しようとしたが、『使えるものは全部使えばいい』とヘンリーに背中を押された。
 押された結果、妻にプレゼントするのがトカゲなのはどうなのだろうかとも思うが、そこは冷静になると負けなので考えないようにしたらしい。


「ヘンリー殿下は自分から貰ったことを内緒にしておけって仰りませんでした?」
「言われたが、私が嘘ついてもバレるだろ」
「よくわかっていらっしゃる…」

 確かにヘンリーは王太子に貰ったなど格好が付かないから黙っておけと言っていた。
 だが、こういう嘘はすぐ顔に出るタイプのアルフレッドに黙っておくなど不可能だ。
 ならば初めから白状したほうが良いと彼は言う。

「ここまでするとは思いませんでした」
『なんかごめんね』

 この雪が積もる中、トカゲやらバッタやらが欲しいと言われて、まさか本当にトカゲを捕まえてくるとは思っていなかった2人は少し申し訳なくなる。本当に馬鹿正直な男だ。

 シャロンはアルフレッドの少し赤い目元を見て、クスッと笑った。
 多分捕まえるために泣いたのだろう。
 大の大人が恥ずかしいと思うのに、少し可愛いとも思った。

 
「名前、何にしましょうか」
『アルフレッドにしようかな』
「出来ればやめてほしい」

 爬虫類と同じ名前だと思うと背筋が凍る。
 エミリアは不服そうに口を尖らせた。

『じゃあシャロンにする』
「じゃあ私はエミリーにします!」

 そう言ってくすくすと笑い合う2人を見て、アルフレッドは嬉しいような寂しいような複雑な心境だった。
 すっかり仲良くなってしまったが、これは果たして良いことなのだろうか。


「あ!その本!」

 ふと、彼女のベッドの上に置いてある本が目に入ったアルフレッドは声を上げた。
 それはシャロンが愛読している性別の壁を越える系の恋愛の教科書だ。

『読む?』
「読まないよ!君そんな本読んでたの!?」
『そんな本ではないわ。これは至高の愛の話よ』

 うんうんと大きく頷くシャロン。

「…シャロンに何吹き込んだの?」
『私は同志に巡り会えたわ』
「同志…」
『出会わせてくれてありがとう、アル』

 エミリアはそう言って無邪気に笑ってみせた。
 

***

 帰り際、トカゲのエミリーが入った虫かごを抱きしめたシャロンは、ポツリポツリと涙を流した。

「午前中、2回発作が起きたそうです」
「….そう、か」

 エミリアの死はすぐそこまで来ている。
 次の季節が来るまで持たないかもしれない。

「延命措置はしないと言ってました」
「…うん」

 エミリアは死を受け入れている。だから今を楽しんで生きている。
 それはシャロンも理解しているが、彼女を救える方法を自分は持っているのに、とも思ってしまう。

「…少しだけ、甘えても良いですか?」

 アルフレッドは険しい顔で静かに頷き、ぎゅっとシャロンを抱きしめた。
しおりを挟む
感想 151

あなたにおすすめの小説

「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」後妻はいつもそう言っていましたが……。

四季
恋愛
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」 父と結婚した後妻エルヴィリアはいつもそう言っていましたが……。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

【完結】虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!

アノマロカリス
恋愛
テルナール子爵令嬢のレオナリアは、幼少の頃から両親に嫌われて自室で過ごしていた。 逆に妹のルーナリアはベタベタと甘やかされて育っていて、我儘に育っていた。 レオナリアは両親には嫌われていたが、曽祖母には好かれていた。 曽祖母からの貰い物を大事にしていたが、妹が欲しいとせがんで来られて拒否すると両親に告げ口をして大事な物をほとんど奪われていた。 レオナリアの事を不憫に思っていた曽祖母は、レオナリアに代々伝わる秘術を伝授した。 その中の秘術の1つの薬学の技術を開花させて、薬品精製で名を知られるまでになり、王室の第三王子との婚約にまでこぎつける事ができた。 それを妬んだルーナリアは捏造計画を企てて、レオナリアを陥れた。 そしてルーナリアは第三王子までもレオナリアから奪い取り、両親からは家を追い出される事になった。 だけど、レオナリアが祖母から与えられた秘術の薬学は数ある中のほんの1つに過ぎなかった。 レオナリアは追い出されてから店を構えて生計を立てて大成功を治める事になるのだけど? さて、どんなざまぁになるのでしょうか? 今回のHOTランキングは最高3位でした。 応援、有り難うございます。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...