94 / 129
本編
94:記憶があるタイプ
しおりを挟む
夜中、目を覚ましたシャロンはズキズキと痛む頭を押さえながら起き上がる。
暗くてよく見えないがおそらくシャロンの部屋だろう。少し薬品の匂いがした。
彼女はベッド脇のテーブルに置いてある水を飲むと、その場に崩れ落ちた。
「…し、死にたい」
酔い潰れた人間というのは大まかに分けると、その時の記憶を失う人と鮮明に覚えている人の二種類に分けられる。
そして、シャロンは間違いなく後者だった。
やさぐれたり幼児退化したり、していた気がする。いや、気がするではない。間違いなくそうだった。
「あぁぁあ!!いっそのこと、ひと思いに殺してほしいぃぃぃ!!」
妙に軽くなった心とは裏腹に、思い出せば思い出すほど、恥ずかしさで死にそうになる。
シャロンは床にコロコロと転がりながら、何ともいえない声で叫んだ。
すると、その叫び声を聞いたアルフレッドが慌てて駆けつけた。
「だ、大丈夫かシャロン!!」
「すみません。大丈夫…ん?」
廊下の明かりに照らされたアルフレッドの顔は、誰かに殴られたような青あざでパンダのようになっていた。
正直ドン引きするほどにボッコボコである。
「え?強盗でも入りました?」
「ああ、これね。大丈夫、気にしないで」
「いや、気にせざるを得ないですよ。怖いくらいにボッコボコですけど…」
「ちょっとね」
「ちょっとねって…」
ちょっとね、と言うレベルではない。離宮での国王に匹敵するくらいの重傷だ。
シャロンは立ち上がると、戸棚から薬を取り出した。
「とりあえず、湿布薬作りますね、そこ座ってください」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ」
「でも…」
「この傷を君に直してもらうのは、なんか、その、違うから」
アルフレッドは困ったように笑うと、彼女の治療を受けることを拒否した。
何だか様子のおかしい彼に、シャロンは首を傾げる。
実はあの後、シャロンを寝室に運んだアルフレッドは、セバスチャンに呼び出されて再び庭園に出ていた。
そこで待ち構えていたのは怒れるサイモン。
『ちょっとツラかせや』と言う彼にツラを貸したら、ボッコボコに殴られたのだ。
それはもうボッコボコに。
さすがはハディスの下でスパイ活動も行うスーパーハイスペック薬師。騎士団に勧誘したくなるほどに重い拳だったらしい。
そして最後には、よろけた際に肥料用の馬糞に運悪く片足を突っ込んでしまい、転けた。
回避したはずなのに、結局馬糞まみれになったアルフレッドを見て、デニスは爆笑したらしい。
流石のアルフレッドもこの時ばかりは『我、公爵ぞ?』と思った。
もうこれは軽くリンチではなかろうか。暴力反対。立派なウィンターソン公爵襲撃事件である。
なんとか彼らとは和解したが、アルフレッドはこの公爵邸における力関係について再確認する必要性を感じた。
なんて事をシャロンに話せるわけもなく、ボッコボコのアルフレッドは誤魔化すように優しく微笑んだ。
「軽く、何か食べるかい?」
「頂きます…」
シャロンが時計を見ると夜の8時だった。かなり眠っていたらしい。
「わかった。すぐに用意させよう。部屋で食べるか?」
「いえ、食堂で食べます」
「では先に行っててくれ」
「はい…」
アルフレッドはセバスチャンを呼びに行くため、その場を後にした。
シャロンはアルフレッドの様子に少し違和感を覚えつつも、彼の背中を見送り、食堂へと向かった。
暗くてよく見えないがおそらくシャロンの部屋だろう。少し薬品の匂いがした。
彼女はベッド脇のテーブルに置いてある水を飲むと、その場に崩れ落ちた。
「…し、死にたい」
酔い潰れた人間というのは大まかに分けると、その時の記憶を失う人と鮮明に覚えている人の二種類に分けられる。
そして、シャロンは間違いなく後者だった。
やさぐれたり幼児退化したり、していた気がする。いや、気がするではない。間違いなくそうだった。
「あぁぁあ!!いっそのこと、ひと思いに殺してほしいぃぃぃ!!」
妙に軽くなった心とは裏腹に、思い出せば思い出すほど、恥ずかしさで死にそうになる。
シャロンは床にコロコロと転がりながら、何ともいえない声で叫んだ。
すると、その叫び声を聞いたアルフレッドが慌てて駆けつけた。
「だ、大丈夫かシャロン!!」
「すみません。大丈夫…ん?」
廊下の明かりに照らされたアルフレッドの顔は、誰かに殴られたような青あざでパンダのようになっていた。
正直ドン引きするほどにボッコボコである。
「え?強盗でも入りました?」
「ああ、これね。大丈夫、気にしないで」
「いや、気にせざるを得ないですよ。怖いくらいにボッコボコですけど…」
「ちょっとね」
「ちょっとねって…」
ちょっとね、と言うレベルではない。離宮での国王に匹敵するくらいの重傷だ。
シャロンは立ち上がると、戸棚から薬を取り出した。
「とりあえず、湿布薬作りますね、そこ座ってください」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ」
「でも…」
「この傷を君に直してもらうのは、なんか、その、違うから」
アルフレッドは困ったように笑うと、彼女の治療を受けることを拒否した。
何だか様子のおかしい彼に、シャロンは首を傾げる。
実はあの後、シャロンを寝室に運んだアルフレッドは、セバスチャンに呼び出されて再び庭園に出ていた。
そこで待ち構えていたのは怒れるサイモン。
『ちょっとツラかせや』と言う彼にツラを貸したら、ボッコボコに殴られたのだ。
それはもうボッコボコに。
さすがはハディスの下でスパイ活動も行うスーパーハイスペック薬師。騎士団に勧誘したくなるほどに重い拳だったらしい。
そして最後には、よろけた際に肥料用の馬糞に運悪く片足を突っ込んでしまい、転けた。
回避したはずなのに、結局馬糞まみれになったアルフレッドを見て、デニスは爆笑したらしい。
流石のアルフレッドもこの時ばかりは『我、公爵ぞ?』と思った。
もうこれは軽くリンチではなかろうか。暴力反対。立派なウィンターソン公爵襲撃事件である。
なんとか彼らとは和解したが、アルフレッドはこの公爵邸における力関係について再確認する必要性を感じた。
なんて事をシャロンに話せるわけもなく、ボッコボコのアルフレッドは誤魔化すように優しく微笑んだ。
「軽く、何か食べるかい?」
「頂きます…」
シャロンが時計を見ると夜の8時だった。かなり眠っていたらしい。
「わかった。すぐに用意させよう。部屋で食べるか?」
「いえ、食堂で食べます」
「では先に行っててくれ」
「はい…」
アルフレッドはセバスチャンを呼びに行くため、その場を後にした。
シャロンはアルフレッドの様子に少し違和感を覚えつつも、彼の背中を見送り、食堂へと向かった。
3
お気に入りに追加
2,742
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました
さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。
時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。
手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。
ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が……
「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた
ホットランキング入りありがとうございます
2021/06/17
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~
瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】
ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。
爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。
伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。
まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。
婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。
――「結婚をしない」という選択肢が。
格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。
努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。
他のサイトでも公開してます。全12話です。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる