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本編
90:シャロン(2)
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アルフレッドは城内にシャロンの姿がないことを確認すると、急いで車に飛び乗りる。
運転手はアルフレッドの剣幕に気圧され、慌てて公爵邸へと向かった。
(…いつから限界を迎えていたのだろうか)
シャロンは今、自暴自棄になっているに違いない。
なぜ気づいてやれなかったのだろう。
エミリアへの感情を受け入れたのは『楽だから』と彼女は言っていた。
それはつまり、楽になりたかったということ。それほどまでに精神を消耗しているということだ。
「シャロン…」
診断書を握りしめる手に力が入る。
シャロン・ジルフォードという娘をアルフレッドは誤解していた。
少し淡白だけど、強くて優しくて逞しい女性なのだと思っていた。
けれどそうじゃない。
彼女が変なところでポジティブなのは、悩みたくないからだ。
彼女が悩むのは面倒だと言うのは、考えても仕方がないと諦めているからだ。
彼女は強いわけじゃない。
大丈夫なはずがなかったのだ。
-------初めからずっと。
20も年上の公爵の元に嫁がされ、
愛せないことを受け入れろと言われ、
前妻の話ばかりの旦那に付き合い、
愛されないという事実を日々刷り込まれ、
父の罪を知り、
多くの死体を目の当たりにし、
最後には前妻に魅了され心を書き換えられた。
そして今度は前妻の懺悔を受け入れ、前妻の生きたいという願いを知り、それを叶えられるのは自分だと知った。
「くそっ!平気なわけがないだろう!」
アルフレッドは自分を責めるように叫ぶ。
そう。平気なわけがないのだ。
いつも淡々としていて、いつも無表情でも感情がないわけじゃない。
何をされても何も思わないわけじゃない。
『シャロン・ジルフォードはやさしく誠実で、年の割には落ち着いているが気立が良い』
その通りだ。
歳のわりには落ち着いているが、それだけだ。
彼女はまだ18の女の子。
大人びているだけのただの女の子だ。
間違っても、寄りかかって良い相手ではなかった。
彼女は守られるべきか弱い女の子だ。
もっとちゃんと彼女を見るべきだった。
魅了にかかっていたからなんてものはただの言い訳に過ぎない。
アルフレッドは自分を恥じた。
情けない自分を殺したくなった。
「どうか、どうか早まらないでくれ。シャロン…」
運転手はアルフレッドの剣幕に気圧され、慌てて公爵邸へと向かった。
(…いつから限界を迎えていたのだろうか)
シャロンは今、自暴自棄になっているに違いない。
なぜ気づいてやれなかったのだろう。
エミリアへの感情を受け入れたのは『楽だから』と彼女は言っていた。
それはつまり、楽になりたかったということ。それほどまでに精神を消耗しているということだ。
「シャロン…」
診断書を握りしめる手に力が入る。
シャロン・ジルフォードという娘をアルフレッドは誤解していた。
少し淡白だけど、強くて優しくて逞しい女性なのだと思っていた。
けれどそうじゃない。
彼女が変なところでポジティブなのは、悩みたくないからだ。
彼女が悩むのは面倒だと言うのは、考えても仕方がないと諦めているからだ。
彼女は強いわけじゃない。
大丈夫なはずがなかったのだ。
-------初めからずっと。
20も年上の公爵の元に嫁がされ、
愛せないことを受け入れろと言われ、
前妻の話ばかりの旦那に付き合い、
愛されないという事実を日々刷り込まれ、
父の罪を知り、
多くの死体を目の当たりにし、
最後には前妻に魅了され心を書き換えられた。
そして今度は前妻の懺悔を受け入れ、前妻の生きたいという願いを知り、それを叶えられるのは自分だと知った。
「くそっ!平気なわけがないだろう!」
アルフレッドは自分を責めるように叫ぶ。
そう。平気なわけがないのだ。
いつも淡々としていて、いつも無表情でも感情がないわけじゃない。
何をされても何も思わないわけじゃない。
『シャロン・ジルフォードはやさしく誠実で、年の割には落ち着いているが気立が良い』
その通りだ。
歳のわりには落ち着いているが、それだけだ。
彼女はまだ18の女の子。
大人びているだけのただの女の子だ。
間違っても、寄りかかって良い相手ではなかった。
彼女は守られるべきか弱い女の子だ。
もっとちゃんと彼女を見るべきだった。
魅了にかかっていたからなんてものはただの言い訳に過ぎない。
アルフレッドは自分を恥じた。
情けない自分を殺したくなった。
「どうか、どうか早まらないでくれ。シャロン…」
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