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本編
63:ただ息をしているだけ(2)
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「シャロン。エミリア・カーティスの具合はどうだ?」
「衰弱が酷いです。それに生気がない。まるで廃人です」
ヘンリーからの問いにそう答えたシャロンは、奥歯をぎりっと噛み締めた。
ぱっと見は以前の美貌を保っているように見えるが、布団を捲るとほとんど骨と皮の体が露わになる。筋力の衰えた手足ではおそらく歩くこともままならないだろう。
痩せた体を隠すために着せられたふわっとした形の白いワンピースに、痩せこけた頬と血色の悪い肌を誤魔化すために厚く塗られた化粧は、彼女の姿をより痛々しく見せる。
そして何より、先ほどから体を隈なく調べられているのにも関わらず一切の反応を示さない虚な瞳。その目には何も映っていない。
エミリアかろうじて息をしているだけという状態だった。
シャロンはふと、ベッドサイドに置かれた小さな丸いテーブルに視線を落とす。
そこには食べやすいよう一口サイズにカットされたフルーツが置いてあった。
明らかにエミリアのために用意されたそれに、彼女が手をつけた様子はない。
ここの地下で何が起こっているのかはわからないが、少なくとも彼女はそのフルーツが食べられないくらいに弱っているということは確かだった。
(ただ息をしているだけ、という感じね…)
カットされたイチゴ手にしたシャロンは、それをエミリアの口元に運んだ。
無理矢理に口に突っ込むと彼女はそれをゆっくり咀嚼し始める。その様子に、シャロンは少しホッとした。
「手ずから食べさせると食べるのか」
「そうみたいですね」
与えられたものは一応食べるが、自ら進んで食べようとはしない。
次はバナナを与えてみたが、エミリアは同じように口に突っ込まれると一応咀嚼するだけだった。
「これは魔術による臓器移植を受けた弊害か?」
「なんとも言えませんね…」
体に切開の後はない。彼らの推論が正しければ彼女は魔術による臓器移植を受けている。
だが、シャロンが断言できることはひどく衰弱していることと、心が死んでいることくらいだ。
何が原因で彼女がここまで衰弱しているのか、廃人のようになっているのかまでは特定できない。
「殿下、ひとまず隠れましょう」
「そうだな」
ハディスからの進言で、ヘンリーとシャロンは受け取ったハンカチに魔力を込める。
「え、待って。俺の分は?」
魔具をもらっていないエディはキョトンと首を傾げた。
ハディスは「忘れていた」と、エディを柱の方へと来るように手招きする。
そして、首輪についた鎖を手に取ると、その鎖を柱に巻きつけた。
「え?何して…」
「陛下が来て、お前の姿がなければおかしいだろ?」
「え、うそ…助けてくれないんですか?」
「最終的には助ける…つもりだ。多分、きっと」
「何その曖昧な返事!やっぱり関わるんじゃなかった!!」
「はっはっは。もう遅い」
「ちくしょう!ふざけんなよ!」
そもそも魔力封じの首輪をしている彼に魔具は使えない。
喚くエディを無視し、3人は部屋の隅で布を被り、姿を消した。
数分後、部屋にジルフォード侯爵と一人の男がやってきた。
「何か変わったことはなかったかい?エディ・クラーク」
「い、いえ。何も…」
エディは侯爵が連れてきた男の顔を見て、動揺が隠せない。
侯爵はそんな彼の様子にフッと笑みをこぼしつつ、エミリアに近づいた。
「エミリー、君の最愛の人が来たよ」
侯爵は優しくエミリアに声をかける。
すると、エミリアは体を起こし、か細い声でその最愛の人の名を呼んだ。
「アル…。アルフレッド…」
細い両手を広げて、涙を流して抱擁を求めるエミリア。
彼女のそれに答えたのは、アルフレッド・カーティスによく似た男だった。
「衰弱が酷いです。それに生気がない。まるで廃人です」
ヘンリーからの問いにそう答えたシャロンは、奥歯をぎりっと噛み締めた。
ぱっと見は以前の美貌を保っているように見えるが、布団を捲るとほとんど骨と皮の体が露わになる。筋力の衰えた手足ではおそらく歩くこともままならないだろう。
痩せた体を隠すために着せられたふわっとした形の白いワンピースに、痩せこけた頬と血色の悪い肌を誤魔化すために厚く塗られた化粧は、彼女の姿をより痛々しく見せる。
そして何より、先ほどから体を隈なく調べられているのにも関わらず一切の反応を示さない虚な瞳。その目には何も映っていない。
エミリアかろうじて息をしているだけという状態だった。
シャロンはふと、ベッドサイドに置かれた小さな丸いテーブルに視線を落とす。
そこには食べやすいよう一口サイズにカットされたフルーツが置いてあった。
明らかにエミリアのために用意されたそれに、彼女が手をつけた様子はない。
ここの地下で何が起こっているのかはわからないが、少なくとも彼女はそのフルーツが食べられないくらいに弱っているということは確かだった。
(ただ息をしているだけ、という感じね…)
カットされたイチゴ手にしたシャロンは、それをエミリアの口元に運んだ。
無理矢理に口に突っ込むと彼女はそれをゆっくり咀嚼し始める。その様子に、シャロンは少しホッとした。
「手ずから食べさせると食べるのか」
「そうみたいですね」
与えられたものは一応食べるが、自ら進んで食べようとはしない。
次はバナナを与えてみたが、エミリアは同じように口に突っ込まれると一応咀嚼するだけだった。
「これは魔術による臓器移植を受けた弊害か?」
「なんとも言えませんね…」
体に切開の後はない。彼らの推論が正しければ彼女は魔術による臓器移植を受けている。
だが、シャロンが断言できることはひどく衰弱していることと、心が死んでいることくらいだ。
何が原因で彼女がここまで衰弱しているのか、廃人のようになっているのかまでは特定できない。
「殿下、ひとまず隠れましょう」
「そうだな」
ハディスからの進言で、ヘンリーとシャロンは受け取ったハンカチに魔力を込める。
「え、待って。俺の分は?」
魔具をもらっていないエディはキョトンと首を傾げた。
ハディスは「忘れていた」と、エディを柱の方へと来るように手招きする。
そして、首輪についた鎖を手に取ると、その鎖を柱に巻きつけた。
「え?何して…」
「陛下が来て、お前の姿がなければおかしいだろ?」
「え、うそ…助けてくれないんですか?」
「最終的には助ける…つもりだ。多分、きっと」
「何その曖昧な返事!やっぱり関わるんじゃなかった!!」
「はっはっは。もう遅い」
「ちくしょう!ふざけんなよ!」
そもそも魔力封じの首輪をしている彼に魔具は使えない。
喚くエディを無視し、3人は部屋の隅で布を被り、姿を消した。
数分後、部屋にジルフォード侯爵と一人の男がやってきた。
「何か変わったことはなかったかい?エディ・クラーク」
「い、いえ。何も…」
エディは侯爵が連れてきた男の顔を見て、動揺が隠せない。
侯爵はそんな彼の様子にフッと笑みをこぼしつつ、エミリアに近づいた。
「エミリー、君の最愛の人が来たよ」
侯爵は優しくエミリアに声をかける。
すると、エミリアは体を起こし、か細い声でその最愛の人の名を呼んだ。
「アル…。アルフレッド…」
細い両手を広げて、涙を流して抱擁を求めるエミリア。
彼女のそれに答えたのは、アルフレッド・カーティスによく似た男だった。
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