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本編
53:餌の名はエディ・クラーク(2)
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王太子の執務室で魔術師の失踪の件、そして大まかな囮捜査の概要を伝えられたエディは絶句した。
どう考えても怪しすぎる事件に、彼に課せられた任務は囮役。危険な匂いしかしない。
(か、関わりたくない…)
ヘンリーが説明した囮作戦は、エディが犯人にわざと誘拐されて、彼につけた発信機を頼りに、奴らの根城を抑えるというものだった。
『救出が間に合わなければ命の保証はない』
はっきりとそう宣言したくせに、王太子ヘンリーはわかりやすい愛想笑いで「どうかな?」と聞いてくる。
「どう、とは…」
「引き受けてくれないかな?もし任務が成功したら、君は軍を辞めて私の直属の部下として重用したいと思っているんだけど…」
ヘンリーが提示したわかりやすい対価に、エディは反射的に「はい」とこたえようとしたが、何とか思いとどまった。
(あっぶね…)
彼が言ったのはあくまでも『成功したら』だ。成功しなければ最悪、負傷だけして見返りなしというのもあり得る。
そして何より、王太子直属の部下ということはつまり、ハディス・ジルフォードの部下になるという事。
何の仕事をしているのかは知らないが、よく負傷している姿を見ている。下手すると軍部よりも過酷な部署の可能性もある。
「な、なぜ自分なのでしょう?」
エディは恐る恐るヘンリーを見た。
ヘンリーは彼からの問いに少し悩む。
------いなくなっても問題ないから。
という理由がその場にいた全員の頭に瞬間的に思い浮かんだが、もちろん言葉には出さない。
一先ず、「君が優秀だからだよ」とヘンリーは笑顔で誤魔化した。
その後も、あくまでもお願いと主張して「引き受けてくれないかな?」と繰り返すヘンリーに、エディはなかなか首を縦に振らなかった。
故に豪を煮やしたヘンリーは小さく息を吐くと、彼に背を向けてポツリと呟いた。
「実はね、君にはこの部屋に入ってすぐに魔術をかけられている」
それは今回の件を口外すれば物理的に首が飛ぶ時限爆弾のようなものだ。
「どうかな?引き受けくれないだろうか?」
振り返った彼は有無を言わさぬ笑顔をして、そう言った。
どうやら最初からエディに拒否権などなかったようだ。
(王族怖い…)
エディは半泣きで「お任せください」と返事をした。
この瞬間、エディ・クラークはモブからの昇進が決まった。
どう考えても怪しすぎる事件に、彼に課せられた任務は囮役。危険な匂いしかしない。
(か、関わりたくない…)
ヘンリーが説明した囮作戦は、エディが犯人にわざと誘拐されて、彼につけた発信機を頼りに、奴らの根城を抑えるというものだった。
『救出が間に合わなければ命の保証はない』
はっきりとそう宣言したくせに、王太子ヘンリーはわかりやすい愛想笑いで「どうかな?」と聞いてくる。
「どう、とは…」
「引き受けてくれないかな?もし任務が成功したら、君は軍を辞めて私の直属の部下として重用したいと思っているんだけど…」
ヘンリーが提示したわかりやすい対価に、エディは反射的に「はい」とこたえようとしたが、何とか思いとどまった。
(あっぶね…)
彼が言ったのはあくまでも『成功したら』だ。成功しなければ最悪、負傷だけして見返りなしというのもあり得る。
そして何より、王太子直属の部下ということはつまり、ハディス・ジルフォードの部下になるという事。
何の仕事をしているのかは知らないが、よく負傷している姿を見ている。下手すると軍部よりも過酷な部署の可能性もある。
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エディは恐る恐るヘンリーを見た。
ヘンリーは彼からの問いに少し悩む。
------いなくなっても問題ないから。
という理由がその場にいた全員の頭に瞬間的に思い浮かんだが、もちろん言葉には出さない。
一先ず、「君が優秀だからだよ」とヘンリーは笑顔で誤魔化した。
その後も、あくまでもお願いと主張して「引き受けてくれないかな?」と繰り返すヘンリーに、エディはなかなか首を縦に振らなかった。
故に豪を煮やしたヘンリーは小さく息を吐くと、彼に背を向けてポツリと呟いた。
「実はね、君にはこの部屋に入ってすぐに魔術をかけられている」
それは今回の件を口外すれば物理的に首が飛ぶ時限爆弾のようなものだ。
「どうかな?引き受けくれないだろうか?」
振り返った彼は有無を言わさぬ笑顔をして、そう言った。
どうやら最初からエディに拒否権などなかったようだ。
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