上 下
42 / 129
本編

【幕間】エミリア・カーティス(2) ※アルフレッド視点です

しおりを挟む
『ねえ、今探している本が幸せな青い鳥だったなら、私と恋愛してみないか?』
『何それ』
『ほら、あれって幸せは身近なところにある、みたいな話だろ?多分』
『なんかそんな感じだったような気がします』
『だからさ、今近くにあるものこそ君の幸せだというか…なんというか』

 今思うと、本当にかっこ悪い告白だったと思う。
 けれど、彼女はその下手な告白に「ふふっ」と笑い、いいですよと言ってくれた。

 結果、彼女が言っていた本はやはり幸せの青いだった。
 それを伝えたときの彼女の、真っ赤になった顔を両手で押さえて恥ずかしがる姿はとても可愛かった。

『約束だよね?エミリア』 

 私は彼女の名を呼び、右手を差し出した。
 彼女は真っ赤にした頬を膨らませながら、私の手を取った。

『約束ですからね、アルフレッド様』
 
 名を呼ばれた私は初めて彼女と会話した時のように、心臓が跳ねる音を聞いた。
 


 それから何度も彼女の家に通い、逢瀬を重ねた。

 知れば知るほどエミリアのことが好きなった。
 本ばかり読んでいるせいか、妄想好きで恋愛に夢を見ているところは可愛いし、病弱な自分が嫌いで、強く見せようとつい意地を張るところも可愛い。

 彼女に名を呼ばれると、自分の名前すらも好きになれた。


 はじめは警戒していた彼女の両親にも受け入れてもらえて、出会ってから半年ほどで婚約にこぎつけた。

 

 しかし、徐々に私たちの婚約に異議を唱える貴族が現れ始めた。
 皆、先の短いエミリアには公爵夫人は務まらないと言い、私に考え直すよう進言する。
 陛下は特に強く反対した。

 彼らの言い分もわからないわけではなかったが、私はもうエミリア以外には考えられなかった。

 私が周囲を説得して回っている最中、突然エミリアが屋敷を訪ねてきた。
 2人の侍女をつれて、小さなトランクを持って。

『お父様が婚約を破棄すると言うから家出してきた』

 と笑いながら言う彼女の目には涙がたまっていた。
 私は彼女を抱きしめると、そのまま屋敷の中へと案内した。

 ハイゼル伯爵にエミリアが来ていることを連絡すると、『申し訳ない。よろしく頼みます』と返って来た。

 後日、伯爵に会いに行くと、彼は『陛下からの圧力がかかり、婚約は破棄せざるを得ない。だから、エミリアとは縁を切る形で家から追い出したのだ』と教えてくれた。

 エミリアの病は一度発作が起こると対応が難しい。侍女2人は医学の知識があるから、彼女達を頼りにしてほしいと言われた。
 私は出来る限り、エミリアの病の事を聞き出し伯爵邸を出た。

 そして、彼女と結婚した。

 屋敷の中の彼女の部屋で、白いワンピースにヴェールをかぶった彼女と指輪を交換し、誓いのキスをした。

 神父はセバスチャンの友人に頼みこんで引き受けてもらった。
 祝ってくれる人間が使用人達だけしかいない寂しい結婚式だった。

 彼女の病の事でずっと気を張っていて、正直に言うならば少し疲れる結婚生活だったけれど、それでも彼女と共に生きたくてたくさん努力した。
 結婚を認めてもらおうと、陛下にも対話を求めた。けれど陛下はいつも厳しい顔をするだけだった。

 結局、私達の結婚は誰にも認められることなく幕を閉じた。


 ***

 半分の月が高い位置から二人を見守る夜。
 エミリアとの話をしていたアルフレッドは、ふと隣で寝息を立てる後妻の髪を撫でる。

「寝てしまったか…」

 大人びていても、彼女の寝顔は無防備でまだまだあどけない。

「この話、つまらなかったかな?」

 自嘲するように言うアルフレッド。すると隣から「はい」と返事が返ってきた。

「…え?起きてる?」

 寝ていると思っていたシャロンが、ゆっくりと重たい瞼を開ける。

「だんなさま…話…長い…」
「ご、ごめん…」
「見せてあげたいね…。青い薔薇」

 そう言って、シャロンはふにゃっと笑う。
 その笑顔にアルフレッドの心臓はまた、どくんと跳ねた。
 シャロンの笑顔を見るといつも鼓動が速くなる。何かの病気なのだろうか。
 エミリアの時とは違い、全身の血が沸騰するように体が熱くなる。

「今度、青い薔薇をエミリア様のお墓にお供えしましょう」
「…そうだね。話を聞いてくれてありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい…」


 翌朝、二人は青い薔薇を彼女の墓石の前に飾った。

 
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。 時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。 手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。 ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が…… 「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた ホットランキング入りありがとうございます 2021/06/17

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。

屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。) 私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。 婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。 レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。 一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。 話が弾み、つい地がでそうになるが…。 そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。 朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。 そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。 レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。 ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。 第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。 そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。 ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。 そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……? ※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください

処理中です...