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本編

31:不穏な影(1)

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「え!?話したんですか!?」

 騎士団の人間を数名引き連れて戻ってきたアルフレッドは思わず声を上げた。
 シャロンがヘンリーから魔術師失踪事件の話を聞いたことを知ったのだ。
 周りの騎士達は何の話か分からず首を傾げる。

「協力するとは言いましたが、シャロンまで巻き込む事はないでしょう」
「でもシャロンは割と目を輝かせながら聞いていたぞ?」
「どこの世界に物騒な話をワクワクしながら聞く令嬢がいるんですか。というか、何で呼び捨て…」
「そこにいるだろう。ちなみに呼び方はシャロンがそう呼んで良いと言ってくれたから問題ないぞ」
「問題しかありませんよ」

 アルフレッドは非難の視線をヘンリーに送る。
 シャロンは苛立ったようにヘンリーを責める彼の袖をちょんちょんと引っ張ると申し訳なさそうに眉をハの字にをして、アルフレッドを見上げた。


「あの…公爵様…」
「ああ、シャロン…」

 アルフレッドはシャロンの手を取る。
 彼女の手を掴む彼の手は小さく震えていた。

 この事件は高位の身分の人間が関わっている可能性が高い。捜査が失敗したり、バレたりすれば間違いなくシャロンを危険に晒すことになる。
 それが彼にはとても恐ろしい。

「シャロン、私は君を危険なことには巻き込みたくない。君を危ない目には合わせたくないのに…。巻き込んでしまって本当にすまない」

 アルフレッドは悲痛な顔をした。

 エミリアしか見ていないはずの彼の口からその言葉が出た時、今度は周りの騎士達も、そしてその言葉を言われたシャロン自身も、大きく目を見開いた。
 その発言からは望まない後妻だとしても、危険に晒したくはないほどには大切にしている事が伺えたからだ。 

 まさかアルフレッドがそんな風に思ってくれているなんて、考えもしなかったシャロンは珍しく深く反省した。
 好奇心に負けて積極的に話を聞いてしまったが、やはり一度彼に確認を取ってから首を突っ込むべきだったのかもしれない。


 シャロンはアルフレッドの手にもう片方の自分の手を重ね、首を左右に振る。

「ち、違うんです。巻き込まれたのではありません。私が勝手に首を突っ込んだのです。申し訳ありません」

 少し気まずそうに潤んだ瞳でこちらを見つめるシャロンに、アルフレッドはどくんと心臓が跳ねた。
 先程のブチ切れて吹っ切れたせいだろうか、シャロンの表情がいつもよりも豊かに見える。

「その、どうしても耐えられなかったのです…」

 シャロンは目を伏せて、唇を噛んだ。

 その後に続く言葉は、
『アル様が危険の中に身を置いているのに、自分は何も知らないという事が(泣っ)』
 だろうか。それとも、
『アル様のお役に立ちたいという感情が抑えられなかったのです(泣っ)』
 だろうか。
 愛称どころか『旦那様』と呼ばれたこともないのに、アルフレッドはまだ性懲りも無くシャロンに夢を見ていた。

 そんな妄想をするアルフレッドの気も知らず、シャロンはゆっくりと口を開く。

「実を言うと、そろそろ退屈すぎて心が死んでしまいそうだったのです…」
  
 まさかの返答に、アルフレッドは固まってしまった。
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