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本編
23:やはり残念なアルフレッド(1)
しおりを挟む「なあ。あれって、シャロン・ジルフォードじゃないか?」
近くでそんな声が聞こえる。
どうやらシャロンを先に見つけたのは次兄ではなかったようだ。やはり夜会に来ても良いことはないと深くため息をついた。
シャロンの名を呼んだのは、彼女が夢の中で何度も四肢をもぎったり腑を引き摺り出した男。
名はエディ・クラーク。魔術師一家、クラーク伯爵の長子でシャロンの青春を地獄に変えた張本人だ。
「あ、ほんとだ。落ちこぼれの黒猫だ」
「何しに来たのかしら」
「何って、婚活でしょ」
「やだ、シュナイダーったら。黒猫を嫁にもらいた物好きなんているわけないじゃない」
その横でイチャイチャしながら、シャロンを嘲笑うのはソフィア・モルビス侯爵令嬢とシュナイダー・バフェット伯爵令息。
この2人はエディと共にシャロンを虐めていた性悪で、最近性悪同士で婚約したとの噂がある。
この噂を聞いた時、シャロンは性悪と性悪がぶつかり合う事で相殺され、2人の子供がまともな性格をしていることを切に願ったものだ。
「ソフィア、こいつもう公爵夫人だよ」
「ああ、そう言えばウィンターソン公爵の後妻に納ったのでしたわね。さすがはシュナイダー、物知りね」
「そう言えばお前の旦那は烏公爵だったな」
「お可哀想に。愛されることもない後妻なんて…。同情いたしますわ!」
ソフィア達はシャロンに近づき、わざとらしく大きな声で彼女を侮辱し始めた。
周囲がその様子をハラハラとしながら見守っている。
「それにしても、底辺の貴女が公爵夫人だなんて、一体どんな手を使ったのかしら」
「こいつ無駄に体は良いからな、娼婦の真似事でもしてるんだろ」
「何でそんなこと知ってるんだよ、エディ」
「触ったことあるからな」
「やだぁ!エディったら不吉な黒猫を抱いたの?」
「抱いてねーよ、触っただけだ。誰がこんな女抱くかよ」
堂々と婦女暴行未遂の過去を話すエディに、クレーターの周囲はざわつき始めた。当然だ。この夜会は王家主催のもの。
そんな場所で過去の犯罪を暴露するバカなどそうそう居ない。
シャロンは彼らの声は耳に入っているものの、関わりたくないので頑として無反応を決め込んだ。しかし、それを彼らが許すはずもなく…。
「おい、何が言ったらどうなんだ」
「お前が俺らを無視するなんて許されるとでも思ってんのか!?」
「相変わらず無表情で気持ちが悪いわ。返事くらいしなさいな」
皆に注目されていることも気づかず、エディ達は執拗にシャロンを罵る。
「おい!いいかげんにしろよ、シャロン・ジルフォード!」
エディは堪えきれずに自分達を無視し続けるシャロンの肩を掴んだ。
勢いよく掴まれたものだからシャロンは体勢を崩し、手に持っていたシャンパンを彼にパシャっとかけてしまった。
「あら、申し訳ございませんクラーク様。あまりに乱暴に肩を掴まれるものですから、手が滑ってしまいましたわ」
本当に言葉通りなのだが、言い回しが悪いのか、それとも死んだ表情筋が悪いのか、周りには彼女がわざとシャンパンをかけたようにしか見えない。
自分より下だと思っていた女にシャンパンかけられたエディは呆気にとられて固まってしまった。
動けない彼の代わりに、すぐ様ソフィアが魔術でエディの身を清める。
「ちょっと!エディにこんなことして許されると思ってるの!?」
「あら、モルビス様。ご機嫌よう」
「『ご機嫌よう』じゃないわよ、偉そうに!何様のつもりよ!」
「何様のつもりと言われましても…。ところでモルビス様。その、ここは学院ではありませんので、下位の者から声を掛けるのはマナー違反かと思うのですが…」
シャロンはもちろんマナー違反を指摘しただけに過ぎないのだが、どう捉えても嫌味にしか聞こえないその発言にソフィアは怒りで肩を震わせた。
キョトンとして首を傾げるシャロンに、シュナイダーは婚約者が小馬鹿にされたと感じて逆上する。
「底辺だったお前が僕らより上だとでも思ってるのか!?」
「え?上でございましょう?公爵夫人とまだ伯爵位も継いでいない貴方なら私の方が位が上なのは当たり前のことだと思っておりましたが…。まさか宮中のルールをご存知ありませんの?」
「な!?」
未だ学院の頃の関係を持ち出して優越感に浸ろうとする彼らを、シャロンは毅然とした態度で遇らう…ように周りからは見えている。
シュナイダーは彼女の指摘に恥ずかしさからか、はたまた怒りからか、カッと顔を赤くした。
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