【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々

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本編

12:魔力持ちと魔術(1)

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 公爵邸に来てからひと月ほど経った頃、シャロンは気付き始めていた。

(する事がない…)

 植物図鑑を広げながら、深くため息をつく。

 アルフレッドからは、社交は最低限で良いと言われているし、公爵家が行っている慈善活動なども全て彼が行うから気にしなくて良いと言われている。

『自由に過ごしてくれて構わない』

 そう彼は言うが、自由にしようにもこの屋敷でエミリアの痕跡が残る物を触るのは憚られるため、女主人として屋敷を管理しようにも下手に動くことができない。
 せめて有り余る知的好奇心を満たそうと公爵邸の図書室に向かったこともあったが、そこに並んでいたのはおそらくエミリアが読んでいたであろう恋愛小説の数々。学術書しか読んでこなかったシャロンの興味をそそられるようなものは、そこにはなかった。

 結果、1日の予定が『朝食』『昼食』『夕食』『子作り(仮)』しかないシャロンは結局、庭園を散歩するか、実家から持ってきた本を読み漁るくらいしかすることがないのだ。

「公爵夫人って暇なのね…」

 新人メイドのシノアが入れる少し渋いお茶を飲みながら、シャロンはぼやいた。

「今日もデニスのところに行こうかしら」
「奥様は本当に植物がお好きなのですね」
「実家には薬草園があったからね、その影響かしら」
「なるほど…」

 実家でもずっと薬草園に入り浸っていたシャロンは公爵邸に来てからというもの、ほぼ毎日、庭園の先にある温室に通っていた。

「どうせなら、何か趣味に打ち込んでみてはいかがですか?」
「趣味ねぇ…」

 確かに趣味に生きるご婦人もいるにはいるがシャロンの場合、その趣味は主に新薬の開発。
 日夜マウスを使った投薬実験をするのが公爵夫人として相応しいかと問われると、微妙なところだ。動物相手に怪しい実験を行っているなど噂をされては、きっとウィンターソン公爵の名に傷がつく。

 難しい顔で唸るシャロンに、シノアはそんなに難しいことを聞いたかなと首を傾げた。

「ご実家ではどのように過ごされていたのですか?」
「うーん。薬草園の手入れをしたり、魔術の訓練をしたりとかかなぁ」

 だいぶ濁したが嘘は言っていない。

「…え?奥様、魔術が使えるのですか?」

 シノアは『魔術』と言うフレーズに反応し、目を輝かせた。

「すごい!私、魔術が使える人に会ったの初めてです!」
「そうなの?」
「身近には魔力持ちがいなかったもので」
「まあ、魔力は遺伝によるところが大きいものね」

 この国には魔力を持って生まれてくる人間がいる。
 魔力は遺伝するため、魔力持ちのほとんどは魔力持ちの親から生まれてくるのだが、魔力持ちの殆どは貴族階級の人間。故に、シノアが魔力持ちに会ったことがないのも不自然ではない。

「では奥様も魔術学院に通われていたのですか?」
「ええ、そうよ」
「本当ですか!?学院ってどんなところなんですか!?学院のお話が聞きたいです!」

 ずいっと顔を近づけ、興奮気味に尋ねてくるシノアにシャロンはどうしたものかと困った顔をした。

「もしかして、シノアは学院の生活がとても華やかなものだと思っている?」
「へ?違うんですか?」
「申し訳ないけれど、全然違うわ。確かに魔力持ちには貴族が多いし、将来は王家に仕える魔術師エリートになる事が約束されているからそう思うのも無理はないけれど、実際はそんなところじゃないのよ」

 シャロンは学院時代を思い出し、自嘲じみた笑みを浮かべた。
 
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