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34:梅雨明けはすぐそこに(1)
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結論から言うと、私が『お兄ちゃんとちゃんと話がしたい』と送ったメッセージに対しての返事は『日曜まで待ってほしい』というものだった。
大志がいた方が話しやすいのだろうか。
何だか私たち兄妹は彼に頼りすぎな気もするが、私も彼がいてくれた方が話しやすいのは確かなので、それに関しては口を出さなかった。
「…と、言うわけで今日はよろしくお願いします」
駅についた大志を迎えにきた私は、彼にたいして深々と頭を下げた。
カラッと晴れた蒸し暑い日曜雨の午後。白の半袖Tシャツが爽やかな彼は怪訝な表情で私を見る。
「…甘えてくれるのは嬉しいけど、そろそろ見返りが欲しい」
「見返りって?」
「それは自分で考えて。俺が今1番欲しいもの」
「えー、高いやつ?」
「俺にとっては高いやつ」
「何それ、全然わかんない」
私は腕を組み、うーんと悩んだが何も出てこなかった。
新しい携帯ゲーム機とか新作のソフトを求められるとちょっとお財布的に厳しい。
私が悩んでいると大志はプッと吹き出した。人が真剣に悩んでいるのに、失礼なやつだ。
「そんな真剣に悩まんでもいいって。わからんなら、兄貴にでも聞いてみたら?」
「何でお兄ちゃん?」
「多分、あの人なら知ってるから」
「わかった。帰ったら聞いてみる」
「おう」
「あ、ケーキ屋さん寄ってもいい?」
私はさりげなく出された彼の手を取り、近くのケーキ屋さんに向かった。
***
家のドアを開けると、パンっという音と共に紙吹雪が降ってきた。
大志は先ほど駅で見たような表情をクラッカーを持った兄に向ける。
「何すか、これ」
「ハッピーバースデーだ!」
そう言うと、兄は本日の主役というタスキを彼にかけて写真を撮り始めた。
とりあえず、家に入ってからでも良くないかと言ったがこの男は聞きやしない。
そう、本日は兄主催の大志の誕生日会だ。
この間から迷惑をかけ続けている彼に感謝の意を込めて、兄はこの会を企画した。
「どうだ!嬉しいか!」
「嬉しいっすけど…、俺の誕生日は再来週っすね」
「知っている!しかし再来週は俺の都合がつかないので今日だ!文句は受け付けない!」
一方的に開催場所や日時を決めて実行に移すなど、本当にどこまでも自分本位である。
私の彼氏が心の狭いやつなら、今この瞬間に私は振られていたことだろう。私はこっそりと大志に『本当にごめん』と謝った。
早すぎる誕生日会に呆れつつ、彼は頭についた紙吹雪を取る。
「あ、そこ取れてない。まだついてるよ?」
「え?どこ?」
「だから頭の…右の方。あー、そこじゃなくて…ちょっと屈んで」
「ん」
紙が取りやすいように少し屈んだ彼の髪に触れた私は、色とりどりの小さな紙切れを彼の茶髪の中から取り除いた。
すると、突然、大志が顔を上げる。
目の前に急に現れた整った顔面に、私は一瞬固まってしまった。
意識し出すと途端にかっこよく見えるのだから、恋心とは不思議なものだ。本当に心臓に悪い。
そんな私の動揺を感じとったのか、彼はニヤリと口角を上げた。
「チューしていい?」
「だ…」
「ダメにきまっとろうがぁあああ!」
「いでっ!」
兄はどこからともなく出してきたハリセンで大志の頭を叩く。
「勝手ラブコメすんな!このエロガキめ!」
「許可取れば良いんすか?」
「そういう問題ではない!とりあえず中に入れ!いつまで玄関で立ち話してるつもりだ!訪問販売のやつか!?それとも主婦かっ!?団地妻かっ!?」
「これほど理不尽なツッコミは聞いたことあらへんぞ、こら」
大志は『お前が通せんぼしとったんやろがい』と、奪いとったハリセンで思い切り兄の頭を叩いた。
ナイスツッコミである。
大志がいた方が話しやすいのだろうか。
何だか私たち兄妹は彼に頼りすぎな気もするが、私も彼がいてくれた方が話しやすいのは確かなので、それに関しては口を出さなかった。
「…と、言うわけで今日はよろしくお願いします」
駅についた大志を迎えにきた私は、彼にたいして深々と頭を下げた。
カラッと晴れた蒸し暑い日曜雨の午後。白の半袖Tシャツが爽やかな彼は怪訝な表情で私を見る。
「…甘えてくれるのは嬉しいけど、そろそろ見返りが欲しい」
「見返りって?」
「それは自分で考えて。俺が今1番欲しいもの」
「えー、高いやつ?」
「俺にとっては高いやつ」
「何それ、全然わかんない」
私は腕を組み、うーんと悩んだが何も出てこなかった。
新しい携帯ゲーム機とか新作のソフトを求められるとちょっとお財布的に厳しい。
私が悩んでいると大志はプッと吹き出した。人が真剣に悩んでいるのに、失礼なやつだ。
「そんな真剣に悩まんでもいいって。わからんなら、兄貴にでも聞いてみたら?」
「何でお兄ちゃん?」
「多分、あの人なら知ってるから」
「わかった。帰ったら聞いてみる」
「おう」
「あ、ケーキ屋さん寄ってもいい?」
私はさりげなく出された彼の手を取り、近くのケーキ屋さんに向かった。
***
家のドアを開けると、パンっという音と共に紙吹雪が降ってきた。
大志は先ほど駅で見たような表情をクラッカーを持った兄に向ける。
「何すか、これ」
「ハッピーバースデーだ!」
そう言うと、兄は本日の主役というタスキを彼にかけて写真を撮り始めた。
とりあえず、家に入ってからでも良くないかと言ったがこの男は聞きやしない。
そう、本日は兄主催の大志の誕生日会だ。
この間から迷惑をかけ続けている彼に感謝の意を込めて、兄はこの会を企画した。
「どうだ!嬉しいか!」
「嬉しいっすけど…、俺の誕生日は再来週っすね」
「知っている!しかし再来週は俺の都合がつかないので今日だ!文句は受け付けない!」
一方的に開催場所や日時を決めて実行に移すなど、本当にどこまでも自分本位である。
私の彼氏が心の狭いやつなら、今この瞬間に私は振られていたことだろう。私はこっそりと大志に『本当にごめん』と謝った。
早すぎる誕生日会に呆れつつ、彼は頭についた紙吹雪を取る。
「あ、そこ取れてない。まだついてるよ?」
「え?どこ?」
「だから頭の…右の方。あー、そこじゃなくて…ちょっと屈んで」
「ん」
紙が取りやすいように少し屈んだ彼の髪に触れた私は、色とりどりの小さな紙切れを彼の茶髪の中から取り除いた。
すると、突然、大志が顔を上げる。
目の前に急に現れた整った顔面に、私は一瞬固まってしまった。
意識し出すと途端にかっこよく見えるのだから、恋心とは不思議なものだ。本当に心臓に悪い。
そんな私の動揺を感じとったのか、彼はニヤリと口角を上げた。
「チューしていい?」
「だ…」
「ダメにきまっとろうがぁあああ!」
「いでっ!」
兄はどこからともなく出してきたハリセンで大志の頭を叩く。
「勝手ラブコメすんな!このエロガキめ!」
「許可取れば良いんすか?」
「そういう問題ではない!とりあえず中に入れ!いつまで玄関で立ち話してるつもりだ!訪問販売のやつか!?それとも主婦かっ!?団地妻かっ!?」
「これほど理不尽なツッコミは聞いたことあらへんぞ、こら」
大志は『お前が通せんぼしとったんやろがい』と、奪いとったハリセンで思い切り兄の頭を叩いた。
ナイスツッコミである。
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