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29:帰りの新幹線(1)
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あの後、兄が月島さんに連絡し、田辺さん達を引き取ってもらうことにした。
月島さんは工藤さんが一緒にいると聞いて、すぐに駆けつけてくれた。
額に汗をかき、社員証をぶら下げた彼は私たちに何度も頭を下げた。こちらこそ、明らかに休日出勤していただろうに、邪魔をしてしまって申し訳ない。
それから、私たちは帰りの新幹線までの時間、少し観光しようかとも思ったが3人ともそんな気にはなれず、結局私たちは予定を切り上げて関西に帰ることにした。
「…」
「……」
「………何この状況」
私、大志、兄の順番で座り、帰路に就く新幹線の中。
何故か自分の腕にまとわりつき、ふぅ、とやけに艶っぽいため息をこぼす兄に大志は困惑していた。
「大志ぃ…」
「…何すか?」
「結婚しよう」
「断固として拒否します。100億積まれても無理」
「辛辣ー」
兄の告白を大志は、きっぱりすっぱり拒絶し、腕にまとわりつく彼を押しのける。
どうやら、先程の大志がカッコよくて惚れたらしい。
冗談だとわかっているのに、冗談っぽくない眼差しが上手な兄に、彼はブルっと体を震わせた。
(…まあ、確かにカッコ良かった。うん)
今日、もし彼がついて来てくれていなければ、どうなっていたかわからない。
兄は感情に任せて田辺さんを殴っていたかもしれないし、私はあの人のを許さなければならなかったかもしれない。
もしそうなれば私たちの人生はきっと、また碌でも方向に進んでいたことだろう。
頼み込んで無理やりついてきてもらって、こんなことに巻き込んだことは本当に申し訳なく思うけれど、彼がいてくれて本当に良かったと思う。
「私も結婚するなら大志がいいなぁ…」
私はコーヒーを飲みながらポツリとつぶやいた。
いつか結婚するなら、大志のように、いざという時に頼りになって、寄り添ってくれる人がいいなと思う。我ながら理想が高い。
そう話すと何故か、隣に座る彼は大きく目を見開いてこちらを見ていた。
「え?な、何?」
「え?」
「え?」
大志の顔はみるみるうちに赤く染まっていく。茹で蛸のように。
それにつられてしまい、私の体温も上昇を始めた。
「それは、さ。ど、どう捉えるのが正解?」
「どう、って。え?どういうこと?」
「え?結婚、するか?俺と」
「な、ななな何でそうなるのよ。ただ、大志みたいな人がいいなって言っただけでっ!」
「じゃあ、俺でいいやん。俺みたいなのがいいなら、俺でいいやん」
「ま、まあ、確かに?」
そう言われれば、確かにそうなのかもしれない。
いや、別にそういうつもりで言ったわけではないのだけれど、そういう展開になったとしたらそれはそれで、無くはないというか何というか。
(嫌じゃない…けども…うん。嫌ではないけど…)
何だか胸のあたりがそわそわする。落ち着かない。
私たちがそうして互いに顔を見合わせて赤面していると、兄はクスクスと声を堪えて笑った。
「俺、ちょっとトイレ。小一時間くらい行ってくるわ」
「小一時間も便所占領したら怒られますよ」
「でっかいの出そうだから仕方ない」
「品がない」
「今更だろ」
兄は大志の頭をわしゃっと撫でると、『俺はお前しか認めないからな』と言って、でっかいのを出しに行った。
月島さんは工藤さんが一緒にいると聞いて、すぐに駆けつけてくれた。
額に汗をかき、社員証をぶら下げた彼は私たちに何度も頭を下げた。こちらこそ、明らかに休日出勤していただろうに、邪魔をしてしまって申し訳ない。
それから、私たちは帰りの新幹線までの時間、少し観光しようかとも思ったが3人ともそんな気にはなれず、結局私たちは予定を切り上げて関西に帰ることにした。
「…」
「……」
「………何この状況」
私、大志、兄の順番で座り、帰路に就く新幹線の中。
何故か自分の腕にまとわりつき、ふぅ、とやけに艶っぽいため息をこぼす兄に大志は困惑していた。
「大志ぃ…」
「…何すか?」
「結婚しよう」
「断固として拒否します。100億積まれても無理」
「辛辣ー」
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どうやら、先程の大志がカッコよくて惚れたらしい。
冗談だとわかっているのに、冗談っぽくない眼差しが上手な兄に、彼はブルっと体を震わせた。
(…まあ、確かにカッコ良かった。うん)
今日、もし彼がついて来てくれていなければ、どうなっていたかわからない。
兄は感情に任せて田辺さんを殴っていたかもしれないし、私はあの人のを許さなければならなかったかもしれない。
もしそうなれば私たちの人生はきっと、また碌でも方向に進んでいたことだろう。
頼み込んで無理やりついてきてもらって、こんなことに巻き込んだことは本当に申し訳なく思うけれど、彼がいてくれて本当に良かったと思う。
「私も結婚するなら大志がいいなぁ…」
私はコーヒーを飲みながらポツリとつぶやいた。
いつか結婚するなら、大志のように、いざという時に頼りになって、寄り添ってくれる人がいいなと思う。我ながら理想が高い。
そう話すと何故か、隣に座る彼は大きく目を見開いてこちらを見ていた。
「え?な、何?」
「え?」
「え?」
大志の顔はみるみるうちに赤く染まっていく。茹で蛸のように。
それにつられてしまい、私の体温も上昇を始めた。
「それは、さ。ど、どう捉えるのが正解?」
「どう、って。え?どういうこと?」
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「じゃあ、俺でいいやん。俺みたいなのがいいなら、俺でいいやん」
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そう言われれば、確かにそうなのかもしれない。
いや、別にそういうつもりで言ったわけではないのだけれど、そういう展開になったとしたらそれはそれで、無くはないというか何というか。
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何だか胸のあたりがそわそわする。落ち着かない。
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「俺、ちょっとトイレ。小一時間くらい行ってくるわ」
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「でっかいの出そうだから仕方ない」
「品がない」
「今更だろ」
兄は大志の頭をわしゃっと撫でると、『俺はお前しか認めないからな』と言って、でっかいのを出しに行った。
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