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12:少年よ、大志に縋れ(2)
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電話を終えて戻ってきた大志は彼氏のフリをする事を承諾すると、そのまま私の家に行くと言い出した。
各駅止まりの鈍行列車。何故か気まずい雰囲気のまま、私は帰路につく。沈黙が辛い。
(…何でちょっと怒ってるの?)
いくら彼が非モテの童貞だからといって、今も彼女がいないと決めつけて彼氏のフリをしてくれと頼んだのがいけなかったのだろうか。
例えるならば、新学期に学級委員を決めろと言われたが、誰もやりたがらず中々決まらない時の教室くらいに空気が重い。
私はこの空気に耐え切れず、彼の袖の裾を掴みその横顔をじっと見つめた。
すると、何とも形容しがたい表情で彼は私を見下ろす。
「…何?」
「…ねえ、何で怒ってるの?」
「別に怒ってへんよ」
「嘘よ…」
いつもならジッと見つめたらすぐに顔を逸らすくせに、今日は眉間に皺を寄せてこっちを見つめ返してくる。
そんなに険しい顔をするくらいなら言いたい事を言えばいいのに。結局ラーメンは奢ってやったのにその態度はどうかと思う。
「…お、怒らないでほしい」
怒っている男の人は怖い。私は掴んでいた袖から手を離し、顔を伏せた。無意識に手が震える。
「ほんまに怒ってへんよ。ただ少し焦っただけと言うか…悲しくなっただけと言うか…」
「…そう」
「だから、怒ってるとかじゃない」
そう言うと、大志は小さく息を吐き出し、私の震える手に自分の手を重ねた。
「怖がらせてごめん…」
「…別に怖くない。私も…その…ごめん」
「何で結が謝るねん」
「何となく。無神経なことでも言ったのかなと」
「…いや、ただ俺の汚い独占欲やから。気にすんな」
それはつまり、どういう意味なのか。
そう聞き返したかったが、フッと笑みをこぼした彼の金髪が、太陽の光に反射して眩しかったので私は彼から目を逸らせた。
「大志…」
「何?」
「いつもありがとう」
「何やねん、急に」
「んー?なんとなく?」
私は本当に何となく、重ねられた彼の手に指を絡めた。
重なった手がいつもより熱く感じる。
よく子どもは眠くなると手が温くなると聞くが、あれは大人にも適用されると思う。春の陽気に包まれて、私は眠かったのだろう。
電車は自宅の最寄駅についた。駅前のマンションが、電子の窓から見える。
大志は降りるぞ、と私の手を握ったままホームに出た。
「あの、手…」
「…今は彼氏なんやろ?」
「へ?そ、そうだけど…」
「じゃあ、このままで」
「う、うん…」
結局、改札を出て私のマンションのエレベーターに乗るまで、私たちは手を繋いだ。
なんだかむず痒い。大志が男の人みたいに見える。
(…でも怖くない)
各駅止まりの鈍行列車。何故か気まずい雰囲気のまま、私は帰路につく。沈黙が辛い。
(…何でちょっと怒ってるの?)
いくら彼が非モテの童貞だからといって、今も彼女がいないと決めつけて彼氏のフリをしてくれと頼んだのがいけなかったのだろうか。
例えるならば、新学期に学級委員を決めろと言われたが、誰もやりたがらず中々決まらない時の教室くらいに空気が重い。
私はこの空気に耐え切れず、彼の袖の裾を掴みその横顔をじっと見つめた。
すると、何とも形容しがたい表情で彼は私を見下ろす。
「…何?」
「…ねえ、何で怒ってるの?」
「別に怒ってへんよ」
「嘘よ…」
いつもならジッと見つめたらすぐに顔を逸らすくせに、今日は眉間に皺を寄せてこっちを見つめ返してくる。
そんなに険しい顔をするくらいなら言いたい事を言えばいいのに。結局ラーメンは奢ってやったのにその態度はどうかと思う。
「…お、怒らないでほしい」
怒っている男の人は怖い。私は掴んでいた袖から手を離し、顔を伏せた。無意識に手が震える。
「ほんまに怒ってへんよ。ただ少し焦っただけと言うか…悲しくなっただけと言うか…」
「…そう」
「だから、怒ってるとかじゃない」
そう言うと、大志は小さく息を吐き出し、私の震える手に自分の手を重ねた。
「怖がらせてごめん…」
「…別に怖くない。私も…その…ごめん」
「何で結が謝るねん」
「何となく。無神経なことでも言ったのかなと」
「…いや、ただ俺の汚い独占欲やから。気にすんな」
それはつまり、どういう意味なのか。
そう聞き返したかったが、フッと笑みをこぼした彼の金髪が、太陽の光に反射して眩しかったので私は彼から目を逸らせた。
「大志…」
「何?」
「いつもありがとう」
「何やねん、急に」
「んー?なんとなく?」
私は本当に何となく、重ねられた彼の手に指を絡めた。
重なった手がいつもより熱く感じる。
よく子どもは眠くなると手が温くなると聞くが、あれは大人にも適用されると思う。春の陽気に包まれて、私は眠かったのだろう。
電車は自宅の最寄駅についた。駅前のマンションが、電子の窓から見える。
大志は降りるぞ、と私の手を握ったままホームに出た。
「あの、手…」
「…今は彼氏なんやろ?」
「へ?そ、そうだけど…」
「じゃあ、このままで」
「う、うん…」
結局、改札を出て私のマンションのエレベーターに乗るまで、私たちは手を繋いだ。
なんだかむず痒い。大志が男の人みたいに見える。
(…でも怖くない)
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