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7:今年の桜はもうすぐ散る(3)

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 子どもたちが家路につく中、私と兄は二人きりになった公園で、三色団子を食べた。
 兄は三色団子の一番下、緑の団子を一つ残し、頭上の桜を見上げた。そしてボソッとつぶやく。

「…これ、花見だな」
「ん?まあ、そうかも?」
「そうだよな。これは花見だよな。団子片手に桜見てんだから花見だよ」
「うん?そう、だね?」

 花を見てることを花見というのならこれは間違いなく花見だ。
 兄は最後の緑の団子を口に含むとプラスチックのパックに串をしまい、立ち上がる。

「じゃあ、今年の花見には付き合ってやったということで!」

 今年はもう、花見をしたいと言ってくるなということだろうか。兄はニヤリと口角を上げて私を見下ろした。

「…別にまだ何も言ってないじゃん」
「でもどうせ言ってくるだろ?俺さ、気づいたんだよ。お前が去年花見をしたいと言った時に、普通にベランダで三色団子でも食べてればそれでよかったんじゃねぇかと」
「今更気づいたんだ…」

 遠い目をして、もう折り紙で桜は作りたくないと兄は言う。知らんがな。そもそも、私は別に折り紙で桜を作って欲しいなどと一言も言っていない。

「なんであんなに頑張ったんだろう」
「馬鹿だからじゃない?」
「馬鹿言うな。学力的には馬鹿じゃない」
「じゃあ、可愛い妹のため?」
「…そういうことにしておこう」
「ではその可愛い妹のために、このままハローワーク行く?」
「残念ながらハローワークの営業時間はもう終了しました」
「チッ」
「舌打ちすんな。品がない」
「お兄ちゃんの妹だからね」
「俺の妹ならもっと品があるはずだ。それこそどこぞの社交界にデビューできるくらいに」
「あ、私カーテシーできるよ」
「え?カーテン?」
「カーテシー。見て、ほら」

 舞い散る桜の下、私は一時期異世界ものの恋愛小説にハマっていた頃に何となくで勉強したカーテシーを披露した。
 スカートの裾をつまみ、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばす。我ながら実に見事なカーテシーだと思う。

「なんだろう。なんか違う。多分社交界デビューは無理だ」

 優雅さが足りないらしい。やかましいわ。

「あ、母さんからだ」

 兄は膨れっ面の私から目を逸らすと、スマホの画面を見せてきた。
 仕事を終えた母がもう少しで最寄駅に到着するらしい。

「どうする?迎えに行く?」
「任せる」
「じゃあ行こう」
「ういっす」

 私は三色団子を急いで口に放り込むと、串を兄に渡して駅の方へと向かった。
 口いっぱいに団子を詰め込んだ私の顔を見て、兄はリスみたいだと大爆笑だ。そんなにおかしい顔をしていただろうか。
 けれど、久しぶりに腹の底から笑う彼を見れたから、今日は失礼なその態度も許してやろうと思う。

 駅につき、特急が一本通り過ぎるのを見送った。
 そして次の鈍行で電車を降りてきた母を兄とともに出迎えて、3人で桜並木の下を歩いた。
 今年の花見はこれで終わりだろう。でも、悪くない気分だ。
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