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7:ボーイズビーアンビシャス(1)

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 やはり、桜は入学式を待たずして散った。今年は日程的にもタイミングが悪かったのだと思う。
 先日、県下にある全学部との合同入学式を無事に終えた私は学園都市という名の駅を降りた。
 ちなみに、学園都市というくらいだから、何となく学生が多くて大型の商業施設とかあったりして、さぞ栄えているのだろうと期待していたのだが実際には違った。この周辺は大学しかない。
 確かに、普通の四年生大学だけでなく、美大に外大、看護学校に情報系の専門学校まであるのだから、この場所を“学園都市”と称しても間違いではない。
 だがそれでも、勝手な話だとわかってはいてもどこか裏切られたような気分だ。

(ライトノベルを読みすぎたかしら)

 散ってしまった桜の上を歩きながら、私は大学の正門を通り過ぎる。
 絶妙に急な坂道を上りながら部活動やサークルの激しい勧誘合戦を掻い潜りつつ、たまに行き過ぎた勧誘を制止する自治会の方々のお世話になり、何とか一番奥の建物までたどり着いた。地味に遠い。
 
「何で手前の建物が教授の研究室しかない塔なんだよ…」

 この大学は学生が主に使う建物が階段を何段も登った先にある。学生に優しくない。

「この程度で疲れるなんて、ババアかよ」
「ババア言うな。おはよう」
「おはよう」

 階段を登り切ったところで、肩で息をする私の頭を小突いたのは高校時代の同級生、佐藤大志さとうたいしだった。
 男の人があまり得意ではない私だが、彼とは高校時代に同じ放送部に所属していたから今も割と仲がいい。
 
(金髪だ…)

 高校の時はもさっとした毛量の多い黒髪に分厚めの黒縁メガネをしていたのに、今は金髪にコンタクト。服装もなんだか今時の大学生みたいにおしゃれだ。

「…何?じっと見て」
「いや、大学デビューなの?金髪それ

 私が指摘すると大志たいしは髪を触り、わかりやすいほどに顔を赤くした。恥ずかしいらしい。

「…あ、あかんのか!デビューしたらあかんのか!」
「いや、似合ってていいと思う」
「あっそ」
「あんたって、結構整った顔してるよね。高校の時は分厚いメガネで気がつかなかった」

 くっきりとした二重線に長いまつ毛。鋭い直線的な鼻梁にしっかりとした眉毛。それに、何気に肌艶もいい。健康的だかつ白い肌をしている。

(女装コンテストとか出たらいい線いきそう)

 私は覗き込むようにジーッと彼の顔を見つめた。

「…ま、まじで何なん…そんなに見るな、あほ」
「あ、ごめん。つい」

 大志たいしは自分の手で私の目を覆うと、顔を逸らした。耳まで赤い。金髪にしようとも中身はピュアな童貞君のようだ。なんか安心する。
 
「おい、今失礼なことを考えたやろ」
「童貞っぽくてかわいいなとは思った」
「やっぱ失礼な奴や!」
「ごめんごめん。あ、そうだ。お昼一緒に食べない?お弁当持ってきたの」
「…例の兄貴弁当?」
「うん。大志たいしの分って二つ持たせてくれた。どうせ購買でご飯買うつもりなんでしょ?」

 私がトートバッグの中身を見せると大志たいしは中を覗き込んだ。ちなみに、曲げわっぱのお弁当箱が私で、レンチン可能なタッパに詰められたほうが彼の分だ。
 大志たいしは眉間に皺を寄せ、険しい表情を見せつつも『食う』と答えた。
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