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八十二 合コンメンバーの誘い
しおりを挟む帰りたくないと思っていても、休みは終わってしまうし帰らねばならない。二人だけの時間がこんなにも貴重だとは思いもしなかった。
「もう帰らないといけないなんて」
「近場ならまたすぐ来られるだろ。今回は初めての旅行だからちょっと気張ったけど、今度はビジネスでも良いし」
「そうね」
確かに、律の言う通りだ。終わってしまうのは寂しいが、寂しさをこの旅の想い出にはしたくない。この度の想い出は良いもののはずだ。
俺は律の横顔を見て、手を握る。律が顔を上げて「ん?」と首を傾げた。俺は笑みを浮かべて耳元に囁く。
「また一緒に来よう」
律は瞬きして、蕩けるような笑みを浮かべると「うん」と小さく頷いた。
◆ ◆ ◆
「ほいこれ。箱根土産」
「わー。ビールだ~」
「サンキュー。吉永と行ったんだって?」
土産の地ビールを手にしながら、大津がそう聞いてくる。
「オレたちも誘えよー」
「また今度な」
「良かった? 温泉入った?」
「おう。良いところだからお前らも行ってこい」
適当に話す俺に、宮脇がしみじみと頷く。
「確かに。友達と旅行出来るのなんて、独身の今だけよなー」
「……」
宮脇の呟きに、俺は反応しなかった。
◆ ◆ ◆
「旅行かあ。良いなあ」
「みんな同じ反応」
同じ部の栃木に土産を渡す。同じ反応過ぎて笑った。栃木は以前、河井さんたちと行った合コンのメンバーだ。
「誰と行ったんだ? もしかして、河井さんか?」
「バカお前、んなわけないだろ」
栃木の言葉に、慌てて否定する。俺が河井さんを狙っていたのは知っているだろうが、今となっては噂をたてられても困る。
「なんだ、違うのか」
「寮の先輩。変なこと言うなよ」
律のことを『寮の先輩』としか言えないのが苦しい。恋人と言っても良いけれど、余計な詮索をされたくない。栃木とは同じ部で長い付き合いになるだろう。だが、深く付き合うつもりはないのだ。
「河井さんとうまく行ってるんだろ?」
「――それは」
いい淀む俺に、栃木が顔をしかめた。
「なんだよ。何かあったのか?」
「河井さんと何かあった訳じゃないけど……。俺の気持ちの問題」
それだけ言うと、栃木はさすがに察したようだった。多分、『合わなかった』と思われただろう。栃木は気まずそうな顔をして、「あー」といい淀む。
「そっかー…。じゃあちょっと、頼みにくいんだけど……」
「ん? どうした?」
「実はさ。あれからちょっと香川さんとやり取りしててさ。けど、まだデートとかも誘えてないし、今一つ先に進めねえのよ」
「ほー」
香川さんは河井さんの友人で、あの時の合コンメンバーだ。いつの間に。
「それでさ、またあのメンツで遊べないかと思っててさ……」
「あー…」
なるほど。それって、実質グループデートだよな。さすがにそれは――。
「頼むよ久我ぁ! 河井さん誘わないと香川さん来なそうだし、お前がいないのは微妙だろぉ!?」
「う」
栃木の言うことは解る。『もう一度あのメンツで』と言ったほうが、話が早いからだ。
(けど、俺的には恋人がいるのに合コン行くクズ野郎なんだよ――!)
やっぱり、恋人と旅行に行ったと言えば良かった。
俺は溜め息とともに、天を仰いだ。
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