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八十一 お揃い
しおりを挟むアンクレットと一言に言っても、色々と種類がある。良く見るタイプは革や紐で出来たものにシルバーのアクセントがついたもの、ターコイズやオニキスなどの天然石を使ったものだろうか。チタン製なんてのもあるようだ。
「これカッコいいかも」
と、律が見せて来たのはシルバーのチェーン風のブレスレットだった。いざ探してみるとアンクレットは種類が少なく、納得できるものがない。律が見せて来たものはデザインも気に入ったし、長く着けるのに良いシルバー製というのも気に入った。紐や革では、切れてしまう可能性があって不安だった。
「良いな。でもブレスレットか」
「それなんだよね~」
残念ながらブレスレットでは身に着けられないだろう。律なら足首が細いから入るかもしれないが、微妙なところだ。雰囲気を確認するために律の足首に合わせていると、店主らしい女が声をかけて来た。
「アンクレットをお探しですか?」
「ええ。このデザインが気に入ったんですが、アンクレットではないですかね」
「アンクレットはここに出ているだけですねえ」
そう言って、アンクレットのコーナーを指さす。目に入っていたが、気に入ったものがなかった。カッコいいデザインだが、革や紐の製品だ。店内の商品はどれもセンスが良く、雰囲気の良いアクセサリーばかりだった。アンクレットは買えなかったが、お揃いでネックレスやブレスレットを買っても良いかも知れない。そう思いかけていたところで、店主が再び口を開く。
「うちのは全部ハンドメイドで、私が作ってるんです」
「そうなんですか。カッコイイですね。センス良い」
律がそう言って頷く。俺はアクセサリーはあまりしないが、律は幾つか持っている。律のお眼鏡にもかなったらしい。
「そのデザインが気に入ったのであれば、アンクレットに調整しましょうか?」
「え?」
「お時間かかるので郵送ということになりますが」
思わず律と目を見合わせる。そういう事であれば、妥協したくない。
「じゃあ、そうする?」
「おう。そうしよう」
「それじゃあ、サイズだけお測りしますね。そちらのお客様でよろしいですか?」
と、律の方を見る。律が「あ、彼も」と俺を指さした。店主が俺の方を見る。なんとなく、気恥ずかしい。
「お揃いで」
律の含みのある笑みに、店主は何か察したような顔をして、次の瞬間には何事もなかったような顔で笑みを浮かべた。
「それでは、お二人様、測らせていただきます。刻印なども出来ますが、どうされますか?」
刻印――つまり、イニシャルとかを刻めるってことか。それは――良いな。
「お願いします」
反射的に答える。律の耳が少し赤かった。
「何にするの?」
「んー。普通にR&Kにするか――俺がRで律がKにするか」
「あー、めっちゃ迷うねそれ」
測ってもらう間、二人でどうするかあれこれ話し合った。さんざん悩んだ末に、最終的に『R&K』と刻んでもらうことになった。二週間ほどかかるというので、すぐに受け取れないのが残念なところだ。
「届くのが楽しみだな」
「そうね」
律は笑って、俺の肩を自分の肩で押した。
「届いたら、航平着けてよ?」
「当たり前」
そんな一大イベント、各自でやるなんてナシだぞ。
息巻く俺に、律はケラケラと笑っていた。
こんな感じで、俺と律の初めての旅行は、始終恋人らしい雰囲気で終わったのだった。
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