66 / 96
2
六十四 律
しおりを挟む午後の眠気を堪えながら、パソコンに向かう。溜まったメールを処理しながら欠伸を噛み殺していると、課長が声を掛けてきた。
「おい久我。休憩行こうや」
「あ、はい」
開いていたメールを一時保存し、立ち上がる。福島課長はこうして、時々休憩に誘ってくれる。話題は大抵、流行っているガジェットや山の話だ。
「五月の末ごろな、山行こうと思うんだ。今度は安達太良山あたり」
「へえ。どんな感じなんです?」
「ロープウェイもあるから、初心者向けの登山コースがある。そこなら良いだろう。どうだ?」
「是非、お供します」
コーヒー片手に頷くと、課長は満足そうに頷いた。土日が潰れるのは痛いが、付き合いは仕方がない。それに、まだ先の話だ。
課長はタバコを吐き出しながら満足そうに頷いた。俺はタバコはやらないが、喫煙者と付き合うにはこうやって喫煙所にまで入る必要がある。なんとなくコーヒーを飲んでいるが、水蒸気タバコくらいやっても良いのかも知れない。喫煙所だけで話される会話に乗れないと、男社会では生きにくい。
「そうそう。夕暮れ寮の十周年。俺も行くからな」
「そう言えばOBでしたね」
今週末はもう、十周年の祝賀会だ。知らない人も多く来るのだろう。
「もう退社した奴らにも声がかかってるらしいな」
「そうなんです? 退社って、脱サラってことですか?」
「そうそう。辞めて自営業やってるヤツとか、起業したヤツとか。専業主夫なんてのも居たなあ」
カラカラと笑いながらそう言う。どこか、バカにした口調だった。夕日コーポレーションの社員として、定年まで勤め上げることこそが、最高の人生だと考えている人間なのだ。離脱した人間は、ダメなやつだと思っているのだろう。
多少の不愉快さを感じながら、曖昧に笑う。
「あんま、飲ませないで下さいよ? 特に若いの」
「なに言ってんだ。飲んでなんぼだろう」
飲ませる気まんまんの課長に、呆れながら愛想笑いを浮かべる。無性に、吉永に会いたくなった。
会って、抱き締めたかった。
◆ ◆ ◆
シャワーから出たところで、自室に向かうため階段を上る吉永に遭遇した。今日は残業だと聞いていたので、会えないと思っていたが、ラッキーだ。
「吉永っ」
「ん? おー。風呂上がり?」
「ああ。お帰り。お疲れ」
傍に駆け寄ると、吉永はくすぐったそうに笑う。笑顔に胸がザワザワとざわめいた。
「吉永、部屋行って良い?」
こそっと耳打ちする俺に、吉永が真っ赤な顔で首を振る。
「だっ、ダメって言っただろ!」
「けど」
ぐい。と手首を掴んで、身体を寄せる。じぃっと、吉永の目を覗き込んだ。
「けどさ、週末は祝賀会じゃん。今週、ナシ?」
「っ……それは。祝賀会は土曜日だろ。日曜で、良いじゃん」
「俺、絶対飲まされるし。次の日使い物になんないと思うけど」
「――でも」
目をそらす吉永に、額をくっつけて懇願する。
「ね、お願い。じゃないと――」
「じゃないと?」
「解るだろ? 俺、爆発しそう」
鼻先を擦り付けてお願いする。我慢比べは限界だ。
「でも……」
「吉永は、俺ナシでも良いんだろうけど?」
意地悪な言い方に、吉永がムッと顔をしかめる。
「は? そんなこと」
「そんなことない? あんなに誘ってきてたのに、週末だけで満足してんの?」
手を伸ばし、尻を掴む。吉永はビクッと震えながら「おい」と睨む。
「吉永、エッチな身体なのに、無理でしょ?」
暗に、俺が居なくても、一人慰めているのだろうと、批難する。図星なのか、ばつが悪そうだ。
「あの、なぁ……っ。航平っ、はな……」
「――律」
ビクッ。
吉永が震え、目を見開いた。
名前を呼んだことはない。このタイミングで、とも思うが。
今まで気恥ずかしくて、呼べなかったけど、呼ばれた方にも効果はあったようだ。茹でダコみたいに赤い顔で、唇を震わせる。
「――」
「良いだろ? 律ちゃん」
「っ、……うん」
小さく頷く吉永に、思わず抱きつく。吉永が「うわっ!」と驚いて、身じろぎする。
「最高」
「っ、ばか……」
11
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~
あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。
※R-18作品です。
モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。
出産は一番の快楽
及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。
とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。
【注意事項】
*受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。
*寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め
*倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意
*軽く出産シーン有り
*ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り
続編)
*近親相姦・母子相姦要素有り
*奇形発言注意
*カニバリズム発言有り
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
SODOM7日間─異世界性奴隷快楽調教─
槇木 五泉(Maki Izumi)
BL
冴えないサラリーマンが、異世界最高の愛玩奴隷として幸せを掴む話。
第11回BL小説大賞51位を頂きました!!
お礼の「番外編」スタートいたしました。今しばらくお付き合いくださいませ。(本編シナリオは完結済みです)
上司に無視され、後輩たちにいじめられながら、毎日終電までのブラック労働に明け暮れる気弱な会社員・真治32歳。とある寒い夜、思い余ってプラットホームから回送電車に飛び込んだ真治は、大昔に人間界から切り離された堕落と退廃の街、ソドムへと転送されてしまう。
魔族が支配し、全ての人間は魔族に管理される奴隷であるというソドムの街で偶然にも真治を拾ったのは、絶世の美貌を持つ淫魔の青年・ザラキアだった。
異世界からの貴重な迷い人(ワンダラー)である真治は、最高位性奴隷調教師のザラキアに淫乱の素質を見出され、ソドム最高の『最高級愛玩奴隷・シンジ』になるため、調教されることになる。
7日間で性感帯の全てを開発され、立派な性奴隷(セクシズ)として生まれ変わることになった冴えないサラリーマンは、果たしてこの退廃した異世界で、最高の地位と愛と幸福を掴めるのか…?
美貌攻め×平凡受け。調教・異種姦・前立腺責め・尿道責め・ドライオーガズム多イキ等で最後は溺愛イチャラブ含むハピエン。(ラストにほんの軽度の流血描写あり。)
【キャラ設定】
●シンジ 165/56/32
人間。お人好しで出世コースから外れ、童顔と気弱な性格から、後輩からも「新人さん」と陰口を叩かれている。押し付けられた仕事を断れないせいで社畜労働に明け暮れ、思い余って回送電車に身を投げたところソドムに異世界転移した。彼女ナシ童貞。
●ザラキア 195/80/外見年齢25才程度
淫魔。褐色肌で、横に突き出た15センチ位の長い耳と、山羊のようゆるくにカーブした象牙色の角を持ち、藍色の眼に藍色の長髪を後ろで一つに縛っている。絶世の美貌の持ち主。ソドムの街で一番の奴隷調教師。飴と鞭を使い分ける、陽気な性格。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる